記憶と時間を追いかけて

2022-11-26 22:31:49 | 進行中プロジェクト


古い蔵があって、その場所を使って家をつくりたい。
そんな相談を受けて、北茨城を訪問しました。

北茨城は岡倉天心が日本美術院を創設した地。そこからほど近い場所に、蔵は建っていました。
蔵の中に入ると、はっと息を呑むようなシーンに出会いました。

古い道具や器が所せましと並び、それらが小窓からの自然光を受けて静かに息づいています。
蔵の小屋組みそのものも、廃材となった材木などを集めてつくられたもので、その質感がじわりと照らされています。

岡倉天心は著作「茶の本 The Book of Tea」を英文で海外向けに出版し、そのなかで、粗雑で作為の無いもののもつ美しさ、について触れています。
訪れた蔵で出会った空間は、まさにそのことがそのまま表現されているようでした。

施主とは、ぼくが早稲田大学芸術学校で講師をしていたとき以来のご縁ですが、そのぶん、テーマの立て方がいつもの仕事の向き合い方とはすこしちがっていくのかもしれません。
蔵とそこに置かれた事物に触発されて、「時間」とか「記憶」といった目に見えないものを、建築のマテリアルとして扱いたい、ということを考えたくなったのです。

とはいえ、暮らしの場としてつくることになるのですから、リノベーションということになるのか、材料を再利用して新しく建て替えるのか。
脳裏には、風光明媚な北茨城の風土と、蔵の濃密な空間が明滅しています。



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ともにあるもの。

2022-11-20 22:34:52 | 阿佐ヶ谷 古木と暮らす家


「南阿佐ヶ谷の家」の一年点検へ。
この家は、祖父が大事に育てた庭を残して建て替えました。祖父の庭木に寄り添うような居場所をつくるのが、設計当初からのテーマでした。

暮らしが始まって1年。大きな窓には古い庭木が広がります。
秋も少しずつ深まって枯れた風情が出てきているのも素適でした。
窓辺はⅬ型コーナーになっていて、ゆったりとしたソファが置かれています。
ここにいると、うっかりとうたた寝してしまうんですよ。
施主がそんなふうに話されていました。

時折、ヒュッゲという言葉を思い返しながら家の設計をしています。
ヒュッゲとはデンマークで古くから使われてきた言葉だそうですが、日本語に訳すと、ほっこりする、というような意味合いになるようです。
庭木に寄り添うように、祖父の思いでも身近に感じながら暮らす。

そんな平穏で静かな雰囲気を、秋の気配がやさしく彩っていました。
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木漏れ日の玄関

2022-11-14 22:27:27 | 自由が丘の家


秋がだんだんと深まってきました。木々も色づき始め、落葉も始まっています。
「自由が丘のアトリエ」のエントランスも、ガラスの玄関ドアを通して木漏れ日が入るようになってきました。
木漏れ日の主は、もう何十年もこの場所に立ち続けるモミジです。

ガラスの向こう側には、まだ青々とした葉がゆらめいていますが、これから一気に真っ赤に色づきます。
季節ごとの当たり前の景色を、印象的な風情として楽しめるように。
そんなことを思い描きながらつくった空間です。



見慣れてしまうようで、飽きることがない。
そんな家がいいなあと思います。
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壁の色

2022-11-08 23:17:31 | 鎌倉小町の家


「鎌倉小町の家」がお引渡しを迎えました。
家の内外ともに壁の色がグレートーンになっていて、そのぶん窓から入る自然光が印象的に見えます。
特に、障子越しに入る光は、白い光となってその印象がよりいっそう鮮やかになります。

海外旅行にて、教会のステンドグラスなどを通した崇高な光に身を浸しながら、その瞬間になぜかいつも脳裏に浮かぶのは、日本の数寄屋や茶室にある、静かな白い光でした。
そんな風情を大切にしたくて、白い光を浮かび上がらせるため、この家では壁をグレートーンにしたのでした。
壁は白くすることが一般的なところを、グレートーンにすることは、建て主にとってはちょっと冒険のような心持だったかもしれません。でも、その決断をしていただいたことでこの空間が生まれることができ、建て主には感謝の思いです。


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鎌倉の家

2022-11-02 21:52:59 | 鎌倉小町の家


「鎌倉小町の家」がまもなく引き渡しを迎えます。
建物はほぼ完成し、職人さんがいなくなった室内は、しんとした静けさがあります。
でも、陽の光が障子越しにゆらめいて、室内に不思議な抑揚が生まれます。

この家は、裏千家の茶の湯の稽古場として使われます。
できあがった八畳広間の和室にて、畳の目や歩幅を確認される建て主。
これから始まる、茶の稽古に忙しい日々に備え、いろいろと思案されているそうです。

訪れて気分が高揚する空間をつくったのではなく、過ごして気持ちが穏やかになる空間であることを願ってつくった家です。
外観も、寡黙でありながら優和な感じがあり、古都の趣きに沿うものになったでしょうか。

次は、庭づくり。完成はまだもう少しかかりそうです。
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