古い蔵があって、その場所を使って家をつくりたい。
そんな相談を受けて、北茨城を訪問しました。
北茨城は岡倉天心が日本美術院を創設した地。そこからほど近い場所に、蔵は建っていました。
蔵の中に入ると、はっと息を呑むようなシーンに出会いました。
古い道具や器が所せましと並び、それらが小窓からの自然光を受けて静かに息づいています。
蔵の小屋組みそのものも、廃材となった材木などを集めてつくられたもので、その質感がじわりと照らされています。
岡倉天心は著作「茶の本 The Book of Tea」を英文で海外向けに出版し、そのなかで、粗雑で作為の無いもののもつ美しさ、について触れています。
訪れた蔵で出会った空間は、まさにそのことがそのまま表現されているようでした。
施主とは、ぼくが早稲田大学芸術学校で講師をしていたとき以来のご縁ですが、そのぶん、テーマの立て方がいつもの仕事の向き合い方とはすこしちがっていくのかもしれません。
蔵とそこに置かれた事物に触発されて、「時間」とか「記憶」といった目に見えないものを、建築のマテリアルとして扱いたい、ということを考えたくなったのです。
とはいえ、暮らしの場としてつくることになるのですから、リノベーションということになるのか、材料を再利用して新しく建て替えるのか。
脳裏には、風光明媚な北茨城の風土と、蔵の濃密な空間が明滅しています。