サルビアの花

2011-10-31 15:07:42 | 日々

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良い天気が続きます。「自由が丘の家」の庭も、気持ちの良い季節を迎えました。昨年に庭を多少つくりかえたのですが、うまく根付いた草木は、この一年でどんどん大きくなってきました。

枕木を敷いたテラスの脇に植えたアメジストセージ(サルビアの一種ですね)は、この一年で背丈ほどの高さにまでぐんぐん成長中。台風でグニャリと横倒しになったりしながらも、なんとか持ち直し、今は綺麗な紫色の花を見せてくれています。

画家ジョージア・オキーフがニューメキシコ州の荒涼とした自然のなかで、ひとりでアドビという土壁の家に住んでいる日々をまとめた、写真集があります。家の大きな壁面の前に、サルビアの木があって、それがとても印象的でした。ウチのサルビアも、負けず劣らず大きくなってきたぞ、とちょこっと胸のうちで喜んだり。白い壁の前に咲く紫色の花は、鮮やかです。

もうすぐ花の季節も終わるようで、サルビアの足元には花がぽたぽたと落ちてきました。足元にそんな紫色の断片が散りばめられているのも、風情がありますね。

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平泉の旅 1~中尊寺金色堂~

2011-10-21 14:45:03 | 旅行記

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仙台で進行中の「青葉の家」の現場に行った時、足を延ばして平泉へ行きました。思いつきで突然に決めたことでしたので、世界遺産に登録された平泉がどのようなところなのか、ほとんどわからないまま、まずは行ってみたのでした。中尊寺金色堂。あまりに有名なその堂宇についても、よく載っているイメージ写真のほか、よくは知りませんでした。それがどこに、どのようにして建っているのか。

平泉駅を降り、徒歩で街を歩いていきました。山並みの美しい静かな里。そんな風景を、この地に生きた人々が大切に残してきたのですね。

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やがて目の前に、こんもりと生い茂った森が現れます。月見坂という名の、大きな杉の木立に包まれた道。木漏れ日の美しい坂道でした。きっと季節や天候によっては、幽玄な雰囲気に包まれるであろうことも想像できます。平日だったこともあり、人もそれほど多くない山道をゆっくりゆっくり歩んでいくと、外界から離れ、奥の世界に入っていくような心境になっていきました。月見坂から枝分かれするようにして、小さく簡素な、かわいらしい御堂が散在していて、そのなかにおさめられた金箔の貼られた仏像が、外からもうかがい知ることができます。御堂の陰影のなかに、金色の仏像がすっと印象的に浮かび上がる姿は、ぼくにとってこれまで経験したことのない情感でした。

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月見坂の一番奥から、最後に枝分かれしたところに、あの有名なシーンが待っていました。中尊寺金色堂。正確には、金色堂を風雨から守る覆堂(おおいどう)が現れるのです。なかに守られた金色堂に出会った瞬間は、そのきらびやかさに息をのみました。華やかな金色だけでなく、抑制の効いた黒漆の背面。茶褐色の渋い地色を持つ柱には、貝が埋め込まれ輝きをはなっています。品のある美しい表現は、驚きとともに、しばらく見ていると、静けさにさそうような深い奥行きをもっているように思えました。

残念だったのは、金色堂と鑑賞者の間に情緒なく立ちはだかるガラスの壁と人工照明。鉄筋コンクリートでできた覆堂のなかにいると、たんに博物館のなかにいるような気持にも、多少なってしまうのかもしれません。

そんな風にして観終え、歩いていると、気になるものが木々の間にひっそりと建っていました。旧覆堂。鎌倉時代末期に金色堂を守るように建てられたものだそうです。覆堂は木だけでできており、無装飾無彩色な、簡素な「木箱」のイメージ。永年の風雨にさらされ、古色を帯びた姿は、森の緑を背景に、独特な光沢を秘めているような雰囲気でした。美しい、そう思いました。

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かつては、どんな風に感じられたのでしょうか。何も物語らない簡素な木箱が、道の奥に静かに佇んでいる。その木箱にゆっくりと近づいていって扉を開けると、金色のまばゆい光が、陰影のなかから滲み出てくる。そんな姿を、ぜひ見てみたかった。この古い覆堂が、文化財保護の観点から鉄筋コンクリート造で建て替えられたのは、今から約50年前のこと。鎌倉末期から続いてきた「木箱」の覆堂は、その役目を終え、脇に移築保存されました。

日本文学研究者のドナルド・キーンさんが先日、東北復興シンポジウムで講演し、そのなかで、56年前に、桜の季節の中の中尊寺金色堂で、深く心を動かされた体験を話されたそうです。朝日新聞の記事によると、「暗い森の中に輝く金色堂を、東北の長い冬の後に咲く桜と並べてたたえた」そうです。そしてそれが、何よりも東北の象徴であると。

キーンさんが当時訪れた金色堂は、「木箱」にひっそりとおさめられていた時だったのでしょう。そしてかつての覆堂の姿を、ぼくは土門拳「古寺巡礼」の写真のなかに見つけました。まだ金箔を貼り直す修復の入る以前の、金色の削げ落ちた無垢な金色堂の姿も。人気の無いしんと静まった森の中でそれは、幽玄な優しさを秘めているようでした。いつまでも見飽きることのない、美しい写真でした。

平泉に多く存在していた建造物は、時の試練のなかで多くが失われました。でも、その遺構から往時を偲ぶことができますし、そのような雰囲気があります。土門拳が愛した冬ざれの中尊寺の姿を、そして、松尾芭蕉が有名な一句を残した、五月雨のなかで幽玄に佇む姿を見るために、いずれまた訪れたいという気持ちになりました。

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東伏見のコートハウス.4 ~武蔵野の森と屋上テラス~

2011-10-16 16:34:59 | 東伏見のコートハウス

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2階のリビングに続く階段は、さらに上に続いていきます。踏み板だけでできた階段の隙間からは自然光が降りてきて、上に明るい空間があることを予感させてくれます。さらに階段をのぼっていくと・・・。

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この住宅には、屋上にもうひとつ、テラスをつくりました。腰壁をしっかり立ち上げて、周囲からの視線が気にならないようにして、空が印象的なテラスになりました。ゆったりとデッキを敷き、テーブルや椅子も置ける大きさにしました。木造住宅で屋上テラスをつくるには、防水をしっかりと用意周到に設計・施工をする必要がありますが、その価値は十分にあると思います。

周囲が建てこんでいるからこそ、このプライベートなテラスがとても新鮮で、中庭テラスとはまた異なる雰囲気が楽しめそうです。面積の小さな住宅だからこそ、屋外の空間が生き生きとすると、生活空間により一層の広がりが感じられますね。

屋上テラスからは、ところどころに武蔵野の林が望めます。かつては大きかった武蔵野の森も、この近辺ではとても少ないものとなりました。大学時代、池原義郎先生のレクチャーのなかで、所沢聖地霊園を設計されたときのエピソードについて触れられました。そこでは、武蔵野の森をいかに根源的なものとしてとらえるかを話され、ランドスケープと一体化した壁と、図像的な断片とをシークエンスのなかに織り上げながら、武蔵野の森が、無限の奥をもつもの、無限の広がりをもつものとして感じられるように設計されたお話がありました。心のなかに静かに広がる詩情をもって、空間とする。そんなイメージに、ぼくはとても感激しました。

この住宅の施工をしていただいたのは、所沢聖地霊園に程近い場所にある、井上建築工業さん。そんなところにも、不思議なご縁を感じずにはいられませんでした。工事中のいろいろなことを思い返しながら、上の写真のような夕暮れ時に、屋上テラスでビールを飲んだら美味そうだなあと思っていましたが、結局、いまだ叶わず・・・。

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東伏見のコートハウス.3 ~回廊~

2011-10-11 18:35:05 | 東伏見のコートハウス

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テラスの壁に映り込む、ヤマボウシの影。

・・・先日に続き、「東伏見のコートハウス」のお話です。

中庭を囲むようにして建つこの住宅は、2階部分にリビングなどの主生活ゾーンがあり、1階には個室や水回りが配されています。1階では、同じ中庭を囲みながらも2階とは異なる雰囲気の場所になりました。

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上の写真は、玄関の扉を開けて、最初に目に飛び込んでくる風景です。黒く塗装した木製サッシ越しに、テラスが中庭まで続きます。奥に見える出窓は、寝室にしつらえられたデスクのもの。まわりはぎっしりと家が建てこんでいるのですが、ここにいると隣家の気配が気になりません。中庭に向けて、うんと大きく窓を開き、廊下も洗面所も個室も、居心地の良いものになりました。

樹影の印象的な、陽だまりのあるテラス。屋根のあるテラスは、ティータイムだけでなく、ひとりで読書にふけるのにもちょうど良さそう・・・。

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黒い列柱が並ぶ中庭回りの廊下は、ロマネスク修道院の回廊のような趣がでるといいなあ、と思いながらデザインしました。やがて中庭に下草などの植栽がほどこされれば、雰囲気もまた変わりそうで、楽しみです。

実はこの住宅には、さらにもうひとつの表情があります。それは何かというと・・・また次回のブログでお話ししたいと思います!

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月見台の家.5 ~ホームページに写真をアップしました。~

2011-10-07 13:05:45 | 月見台の家

春に竣工した「月見台の家」の写真を、オノ・デザインのホームページにアップしました。

http://www.ono-design.jp/tsukimidai.html

庭に草木が植わった後に、自分で撮った写真です。ですので、いわゆる建築写真とは撮り方がまるで違うのですが、その場の雰囲気がなるべく表れるように、という気持ちをこめて撮ってみました(笑)

撮影にお伺いしたのは暑い日でしたが、抜けていく風がとても気持ち良かったのが印象的でした。写真には風の心地よさが映らないのが残念ですが・・・。

さて、ホームページには載せていない写真から一枚。

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障子の前に置かれた、白磁の花瓶。ぱっと見ただけでは同じ白でも、素材の違いでその質感も異なります。抑制された自然光と陰影によるモノクロームの空間のなかで、異なる素材の表情が、落ち着きのなかにもキリリと引き締まった調和を生んでくれています。

白く塗られた障子の桟の、光沢の無いペンキの白。

障子紙の、ざらついた柔らかい白。

白磁の花瓶の、艶やかで品のある白。

ここは階段の途中にある出窓です。一日のなかで数回、上ったり下りたりするだけの場所ですが、そのときだけ感じられる、不思議な奥行きのある場所になりました。

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