北茨城で住宅の設計が進んでいます。
敷地となるところには、古い納屋が建っています。大谷石と材木と土壁だけでできている、簡素古朴な建物。
その素朴な美しさに惹かれ、ぜひ残したいと思うのですが・・・耐震性や居住性を考えると、やはり建て替えという道をとることになりました。
すきま風だらけの室内には、古い器や道具がぎっしりあり、小さな窓から入る仄明るい光に照らされています。
器物が鈍く光る、その美しさと存在感に、心が掴まれます。
これらのものをいくらかでも残して、「場所の記憶」として刻みたい。そんなふうに思いました。
そこで、納屋に用いられていた大谷石を再利用し、新しく建てる家のインテリアに活かすことなりました。
階段室の壁には大谷石が用いられ、ところどころに開けられたニッチに、古い器物が飾られます。
新しい家は、さながら「記憶のギャラリー」としての使命を帯びることになりました。
そんなふうにして設計の打ち合わせがすすむうちに,次第に新たなテーマが浮かび上がってきました。
ピアニストでもある施主が、個人的に演奏するための小さなピアノ室を設けていましたが、もしかしたらファミリーコンサートが開かれるようになるかもしれない、ゲストを招いて音楽会ができたら楽しいね、そんなふうに話が広がっていきました。
リビングとひとつながりになった音楽室は、さながら小さな室内楽ホールのようにもなりました。
暮らしとギャラリーと音楽ホール。相容れないようないくつかの役割をギュッと担い、新しくもあり懐かしくもある佇まいの家が、緑豊かなこの土地に建ちあがる。
そう思うととってもワクワクします。
実現に向けては、いろいろな障壁があります。我慢強く障壁をひとつひとつ解決しながら、ゆっくりじっくり進んでいきたいと思います。