雨の家 冬の家

2008-11-25 11:49:28 | アート・デザイン・建築

最近の東京は雨が続きます。冷たい雨が降る日に時おり思い出す、かつて冷たい雨のなかで見た美しい邸宅のことを書きたいと思います。

桂離宮。17世紀に造営された皇族の別荘。当時の桂は、京都市中から少し離れ、桂川を背景に風光明媚な雰囲気をもっていたのでしょう。人工的に起伏がつけられ、池がつくられた敷地内に、御殿や茶屋などのパビリオンが散りばめられています。四季折々の草花を楽しみながら、それらのパビリオンひとつひとつを巡ることが楽しみ。

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それぞれの茶屋・休憩所は、山小屋風の素朴な雰囲気にデザインされながらも、庭園を眺めながらお茶を飲んだり談笑したりするのが楽しくなるよう、「いろり」や「腰掛け」が外に張り出すように造り付けられています。これって、アウトドアリビングですよね。

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その2世紀後のドイツ。同じようにアウトドアリビングを積極的に取り入れた邸宅が現れました。カール・フリードリッヒ・シンケル設計による、宮廷庭師の家。ベルリン郊外のポツダムの森のなかにつくられました。

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桂離宮が山小屋風の素朴な佇まいを見せるのと同様、宮廷庭師の家では南イタリアの農家の佇まいがデザイン・モチーフになっています。そこには神殿風のティー・パビリオンが付属し、これまた桂離宮と同じように人工的につくられた池から小舟に乗ってアプローチ、なんていう演出までされています。小さな庭。大きな庭。池。それらをめぐるブドウ棚の通路。

森が美しく見える一番いい場所に、地面から高く持ち上げれたテラスがあります。そこにはテーブルとベンチが造り付けられ、上はブドウ棚が大胆に覆っています。テラスの周りの植え込みは、きっと夏には美しい草花を見せてくれるはず。

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時代や国を超えて、建築とアウトドアリビングの夢は広がります。雨の日は・・・やっぱり家の中にいたくなっちゃうかな。でも、しとしと雨の中に浮かび上がる姿は、幻想的でした。晴れた日には楽しく、雨の日には美しい。家とはこうあるべきなのかな。

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実さんしょ

2008-11-15 17:34:52 | 日々

京都の漬け物で、とても好きなものがあります。その名も実山椒。つまり山椒の実ですね。上賀茂神社の傍にある老舗の漬け物屋「なり田」のものが絶品。「実さんしょ」という名前で売られています。

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用事あって京都に行った父親が、ミヤゲで買ってきてくれました。この味は何と表現したらいいんでしょうかね、なにやらす~っとする感じ。温かいゴハンにそのままのせるも良し、お茶漬けにするも良し。それだけで充分なほど、いい意味で刺激的な(?)味なのです。本当は料理にぱらぱらっと振りかけたり隠し味にしたりするものなんでしょうけど。

それにしてもこの漬け物屋「なり田」。京漬け物「すぐき」をはじめ、美味しいのが評判で、遠方から買いに来る人もいるそうです。上賀茂社家町に面した風流な佇まいをしたお店です。支店は京都駅内の伊勢丹などにあるようですが、やはり品数は揃わないようです。交通の便は悪いですが、漬け物好きの方は、ぜひとも一度上賀茂へ。

もうだいぶ前のことになりますが、NHKの朝ドラで、漬け物屋が舞台になったときがありました。僕が中学生ぐらいのときだったかな。それで漬け物屋が急に脚光を浴びて、「漬物屋さんはぎょーさん儲かってはるみたいやでぇ」なんて会話をよく耳にしました。そして確かに「なり田」の看板おばちゃんも、高級国産車に乗り、ご自慢の前歯の銀歯が「金歯」に変わったのを見つけ、衝撃を受けた(笑)記憶があります。

それからもう何年も経ちますが、「なり田」の漬け物は変わらぬ美味しさを保ち続けています。どこぞやの料亭みたいに品格を落とさずに、よう頑張ってくれはった。今日の「実さんしょ」も絶品でしたよ。

いよいよ冬も間近。京漬け物は、これからが一番美味しいシーズンを迎えます。上賀茂名産「すぐき」も、ぜひ多くの人に召し上がっていただきたいものです。僕も機会があれば、今冬にまた行きたいなあ。

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テーブルのデザイン

2008-11-03 20:34:54 | アート・デザイン・建築

前回に引き続き、家具のデザインの話。

千葉の住宅「印西爽居」では、ダイニングテーブルとベンチを、この住宅のためにオリジナルにデザインしました。施主のご実家に大きく分厚いケヤキの板が以前から保存されていて、住宅の新築にあわせて使おう、ということになったのです。製作をしてくれたのは、甲府で工房を構える家具職・古市健さん。僕が村田さんの事務所のスタッフだった頃からの付き合いです。古市さんにははるばる材木を引き取りに来てもらいました。

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普通ではなかなか手に入らない大きな無垢の板。その良さを最大限に引き出すことがデザインのテーマとなりました。

厚さ4.5センチに製材し、天板を2枚接ぎにしました。脚は板状の脚(板脚と呼びます)とし、端部を丸く削ってもらいました。板脚の継ぎ目には、シャープな化粧溝を一本だけ入れ、デザインは、これだけ。カタチを簡素にすることによって、板材が持つ質感が生き生きと感じられるようにしたいと思いました。

長年にわたりずっと保管してあった材木。もちろん表面には無数のひび割れもあります。それでも、この板材がずっと歩んできた時間を物語っているようで、愛着がわきます。無垢の木の良いところは、使い込むほどに味が出ること。このケヤキのテーブルも、少し経つ間に色がすこし濃くなってきました。家族が集まる長さ2メートルの大きなテーブル。食事の時以外にも、新聞を読んだり、小さなお嬢さんがお絵かきをしたり宿題をしたり。想い出がぎっしりつまるテーブルだからこそ、家の中心にレイアウトしました。

物事の価値というのは、そのカタチのデザインや値段などとは別に、そこに宿る個人的な「記憶」や「思い出」といった付加的な価値があると思います。そんな「記憶」や「思い出」をきちんと慈しむ心を持つこと。そしてその心をもって適切に物事を配置すること。そうすると、素朴ながら独特の雰囲気を持つ空間ができると思っています。茶室の空間というのはそうであったろうし、晩年のル・コルビュジエの言う「得も言われぬ空間」の真意も、きっとそのあたりにあるだろうと予感しています。

テーブルのある風景。写真家・垂見孔士さんに撮っていただいた写真から。

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