ガラスブロック

2022-05-28 22:47:15 | 経堂の家


前回に引き続き「経堂の家」の話です。
この家の階段は東向きの道路に面しています。
東に向いていますから朝日が気持ちよく差し込むはず。
でも、道路に面しているので、道行く人から室内が見通せるのも避けたいところ。
そんなことを考えながらたどりついた答えが、ガラスブロックで窓をつける、ということ。
風景は見えないけれど、自然の光が滲むように室内に入ってきます。

2階にある寝室から朝、階段を下りてリビングに向かいます。
一日のなかで、必ず出会う光景。
柔らかく、崇高な雰囲気の自然光に満たされた空間です。
そんな光に照らされて、ゆったりと幅広の木製の手すりに、しっとりとした趣が感じられます。
階段は通過するだけの動線だけれども、はっとさせられるような印象的な光景になっていると、階段を上り下りするのが楽しみになりますね。

せっかくガラスブロックを入れるのなら、思いきって壁面いっぱいに、というデザインもあっただろうと思います。
きっとモダンな雰囲気になるでしょうしね。
でも、心の内にあったのは、いつだったかイタリアで見た小さな名も無き教会の、静かな堂内のイメージでした。
壁の余白があるから、光が美しくなるということを、大事にしたかったのです。






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経堂の家 訪問。

2022-05-19 22:13:44 | 経堂の家


竣工後の一年点検で「経堂の家」へ。
建物は完成したものの、中庭は良い時期を見計らいながらゆっくりと進められました。
新しい家具もいくつか入ったとのことで、久々の訪問を楽しみにしていました。

上の写真は、玄関ホールからダイニングに入って、最初に目に飛び込んでくる光景です。
木の窓枠に縁どられて、新緑が目にまぶしく映え、思わず息をのむ感じ。

中庭の窓辺に寄り添うように丸いダイニングテーブルを置くことを、初期の段階から決めて、その空間が居心地よくなるようにディテールを練りながら設計しました。
北欧の建築家アルヴァ・アアルトのデザインも参照しつつできあがった窓辺の空間は、優しく、でもキリっと庭の風景を切り取ってみせてくれて、独特の雰囲気になりました。

少し暑いぐらいに太陽が照りつける日でした。
でも深い庇に守られて、室内はちょうどよい明るさで落ち着きます。
家具や器や道具が置かれた室内は、静かに調和しています。
ほどよい明るさと陰影と。そんな雰囲気が、置かれた器物に趣をもたらしてくれているようでした。
BGMの流れる室内。なんだか眠くなるような安堵感(笑)

大工さんにもだいぶご苦労をおかけした家だけれども、おかげさまで点検でもほぼ問題無し。いやあ、素晴らしい。
お施主さんからも、いろいろと嬉しいお言葉をいただきました。設計者冥利に尽きる思いです。
新しい家での生活が始まって、テレビが置かれなくなりました。
それだけで、この家で過ごす時間がどのようなものかが、垣間見える気がします。


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別冊太陽

2022-05-12 21:59:40 | 大磯の家


平凡社「別冊 太陽」誌に、設計作品「大磯の平屋」を掲載いただいています。
特集タイトルは「小さな平屋に暮らす」。
名作住宅の論評あり、平屋でのスローライフの紹介あり、盛りだくさんで読み応えのある内容です。
ぼくの設計した「大磯の平屋」は、最近竣工した事例集として取り上げていただいていますが、先に挙げたような成熟した平屋住宅と見比べると、まだ庭も若い感じがします。
だんだんと緑のボリュームも増え、家と庭とが一体になっていくのかなあと想像すると、待ち遠しくなります(笑)

「小さな平屋」という言葉が指し示すイメージには、独特の趣きがあるように思います。
見栄や体裁から離れ、自分たちの暮らしのためだけに考えて造られた、ちょうどよい大きさの空間。
屋根が低く、軒が深く、守られたような安心感があります。

もうすぐ季節は梅雨。しとしとと降る雨が軒先から雫になって落ちてきます。
少し陰影の深くなった室内から、雨のしとしと音を聴きつつ、濡れて鮮やかになった緑を眺めつつ、安心な室内で過ごす時間はよいものだろうなあと思います。

別冊太陽 リンク http://www.heibonsha.co.jp/book/b601729.html
大磯の平屋 リンク http://www.ono-design.jp/works/ooisohiraya
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北庭の楽しみ

2022-05-06 21:55:39 | 月見台の家


ちょうど10年前に1年点検に伺った「月見台の家」のスナップ写真。
その前年に建設中だったときには東日本大震災に遭い、資材不足のなか完成にこぎつけた住宅でした。

あたりまえのことを大事にしよう。そんなことを切々と考えさせられた時期でもありました。
だから、この室内にソファが運び込まれ、北側の庭に面したリビングが居心地の良い居場所になったときには、本当に嬉しかったのです。
北側に面しているから直射日光は入らないのだけれど、そのぶん穏やかで静かな空間になりました。
窓には通称「吉村障子」が建て込まれ、障子を閉めると一面の光窓のような風情になります。

大きめのソファに身を委ねて無為に時間を過ごしたくなる雰囲気。
そんな雰囲気をつくりだすためには大事にしたことは、余計なデザインをせずに、窓辺の明かりと、穏やかな陰影だけで空間をつくること。
そのぶんフォトジェニックな要素は無いのだけれど、この空間に身を置くと、じんわりと効いてくる。
そんな気分を大事にしたかったのです。

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