つくっているもの

2009-01-30 15:28:02 | 日々

日々の暮らしを楽しくしていくために、どういう風にしていけばいいんだろう?特に住宅を設計する立場の人間として、よくこんなことを考えています。

たとえば昼食。簡単に何かを作って食べ、お茶を飲んで一服。ごく短時間であっても、居心地の良い場所でそんなぼけ~っとした時間を持てるのは、幸せなことなんだろうと思います。今ここで感じている居心地の良さは、一体なにによってつくられているのでしょう。

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目の前にあるもの。食べ終わった後のお皿。おはし。フライパン。ダイニングテーブル。この中のひとつでも、僕がデザインしたものはあっただろうか?いや、ない。目の前にある光景で僕がデザインしたものは、これらの食器や家具に降りかかる自然光の雰囲気、ただそれだけかもしれません。でもその光があることで、たんなる事物が美しく見える。たんなる日々の暮らしがちょっと居心地の良いものになる。かたちあるものだけでなく、それらを美しく浮かび上がらせる自然光の雰囲気をきちんとデザインすることが、建築家の大切な仕事なんだと常々考えています。

物事を写真に撮るというのは、どうしても形とか色とかが中心になってしまうけど、柔らかい光と居心地の良さだけを写真に撮ることができたら、空間の伝え方も変わるんだろうなあ、きっと。

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雑誌に載りました

2009-01-22 13:49:22 | 

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オノ・デザインで設計した住宅「印西爽居」が、雑誌掲載されました。MyHOME+[マイホームプラス] VOL.15  2009 WINTER号(エクスナレッジ刊)のP54~に「K邸」として掲載されています。

特集作品のひとつとして取り上げていただき、6ページにわたって紹介していただいています。本屋さんによく置いてある雑誌ですので、ご覧頂けますと幸いです。設計者自身が作品解説をするのではなく、編集者の方が、建て主の話や設計者の話を織り交ぜながら、ご自身の視点でまとめていくという編集です。写真の数も多いのですが、そのアングルや撮り方も、編集方針をあらかじめイメージして決めていくようですね。

住宅の設計をするときは、いろいろな事を総合的に考え合わせていくのですが、それが第三者にはどのように映るのだろうか??ということは、楽しみでもあり緊張でもあります。美しい写真と、奥行きのある文章で印西爽居を評していただき、嬉しく思っています。

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今回の掲載にあたって、驚くことがありました。それは、同じ特集のなかで、僕が村田靖夫さんの事務所で担当した住宅も同時に掲載されることになっていたのです。編集者の方も後になってそれがわかり、みんなでビックリでした。僕にとっては、本当に記念すべき、というか、かけがえのない号になりました。

村田さんの事務所に勤めている頃、師匠の机の後ろにある古い掲載雑誌をこっそり見るのが好きでした(笑)。まだご自慢の白いヒゲもない、若い時のポートレートと共に、徹底的に白くコーディネートされた住宅作品が目を引きました。熟練するずっと前の、若いときの作品。村田さんはそれを、どのように心持ちで振り返っていたのでしょうか。「オレは昔からもうこれぐらいのことはやってたんだ!」と説教ついでによく自慢もされましたが(笑)

新しいデザインの傾向に流されないようにするためには、時代と共に生きながらも、距離をはかり、自戒が欠かせない。これは師のポリシーでした。そのような意志は、僕もきちんと継いでいきたいと思います。もちろんそれは、自分の進むべき道をきちんと見定めた上での話ですが。今回出版されたばかりのこの雑誌を、数十年後に見ると、どんな心持ちになるのだろう。古びた遠い過去の雑誌の中の、若かりし頃の自分の作品を見て、これが進んできた道の出発点だったと確認できることを、期待したいと思います。

◆ところで、オノ・デザイン建築設計事務所のホームページのデザインをリニューアルしました。相も変わらず自前の素朴な(?)ホームページですが、余分な脚色をそぎ落とし、伝えたいイメージを作り上げるには、やはり自作が一番かと思いました。こちらも、よろしければぜひご覧ください。

オノ・デザイン建築設計事務所のサイト  http://www15.ocn.ne.jp/~onode/

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世界ふれあい街歩き

2009-01-16 14:34:32 | 日々

僕が好きなテレビ番組に、NHKの「世界ふれあい街歩き」という番組があります。世界各地の街を、まるで自分が街中を散歩していくようにカメラが巡っていく、というものです。道すがらの店に寄り道したり、すれ違った人に声をかけて会話をしたり・・・。オトボケ調のBGM、俳優たちの個性あふれるナレーションも魅力で、かしこまった旅番組というより、このゆるゆるさ加減がちょうどいい。日曜日の夜11時半~という時間も、なんとなく休みをこの番組で締める感じでちょうどいい。

仕事がら、視察を兼ねていろいろな街に行ったりしますが、建築関係の案内書だと、建物単体しか載っていないし、ガイドブックだと、やはり名所とか名店といったピンポイントの情報ばかりで、なかなか街の雰囲気というか、空気感を伝えてくれるモノがないんですよね。その点すばらしいのがこの番組。名所巡りは意外になくて、積極的に路地裏なんかにはいってくれたりして、街の息吹や質感を伝えてくれます。

旅に行ってから長く時間が経ったその後、どんなことを思い出しますか?僕の場合は、無意識に見ていたシーンや、街の音など、そんなものが断片的によく思い出されます。しかも行った直後というより、長い時間をかけて、記憶の深みから徐々に浮かび上がってくるようにして。そういう無名のシーンや音というのは、いわゆるガイドブックに載っている類のものではなくて、個人的な街のイメージとして残ったものなのでしょう。「世界ふれあい街歩き」は、そんな無名なものたちを、少し拾い上げてくれている番組なのかな、とも思っています。

2006年に始まったこの番組は、ベネチア巡りから始まったようです。やはり人気の街からなんですね(笑)。下の写真は放送2回目で紹介されたポルトガル・リスボンのもの。2年前に旅したときに撮ったものです。ある教会の出口でしょうか、場所はよく覚えていません。ただ、この瞬間のイメージははっきりと覚えています。扉の向こうからはいってくる光。磨り減った石の床。古びた路面電車のきしむ音。ガイドブックには載っていない、生きた街のイメージ。

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カタルニア・ロマネスク

2009-01-06 11:31:56 | 

明けましておめでとうございます。今年も、このブログにお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。

さて、年初めに初心に還る意味も込め、僕にとって「原点」ともいうべき本の話をしたいと思います。

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僕がまだ中学生だった頃、京都にあった自宅の父親の書斎の本棚に、その本はありました。「カタルニア・ロマネスク」。・・・??当然、カタルニアというスペインの地域の名前も知らなければ、ロマネスクという美術史上の名前も知りませんでした。銀色に光る表紙に惹かれて手に取り、ページをめくっていきました。モノクロの、山村の風景。そこに屹立する素朴な礼拝堂の数々。そしてそこに生きる人々と、そこに昔から生きてきた事物の数々。写真家・田沼武能が1987年に撮りためた写真集でした。その写真集との出会いは、とりたてて衝撃的なものでもありませんでしたし、見ながら感動することもありませんでした。ただ、その写真を通して感じる空気感が、なんとなく頭の片隅に残り続けていて、時折、書斎に忍び込んでは眺めるようになりました。

高校生のとき、また本を引きずり出してきて眺めていたときに、僕がやりたいことは建築なのかなあと、直感的に思ったのを覚えています。きっと素朴な礼拝堂の写真や彫刻が多かったせいでしょう。これが、建築を志すきっかけになりました。

実際に建築を学問として学び、実務を通して仕事をするなかで、よく、「カタルニア・ロマネスク」の本のことを思い返します。僕の進んでいる道は、あの写真のようなものになり得ているだろうか、と、自分によく問いかけてきました。

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石を積み上げただけの、単純にして素朴な礼拝堂。そこに生きる人々の慎ましやかでありながら美しい日常生活。そう、日常。僕が求めたいのは、石積みの礼拝堂というスタイルではなく、そのような存在によってもたらされる素晴らしい日常です。

昨年は、不穏な事件が多い年でした。不穏な空気感はそのまま社会情勢としてなおも続いていますね。いろいろな価値観が崩れつつある、時代の転換点に立ち会っているのだろうと思います。そんなときこそ、より深く「日常」に目を向けていきたいと思います。余計なことがそぎ落とされた、シンプルでありながら豊かな気持ちになる日々の生活。自分の感覚を鋭くとがらせて、そんな価値観をしっかりつかんでいきたいと思っています。

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