ベルリン紀行Ⅰ~天使の詩~

2008-05-29 16:11:43 | 旅行記

昔、「白い町で」という映画がありました。白い町・・・そう、それはリスボンを舞台にした映画でした。ストーリーも思い出せないようなけだるい映画。貨物船の機関士の男が、家族を、日常を捨ててリスボンに居着いてしまう話。

彼が手持ちの8ミリカメラで撮り続けたリスボンの路地風景は、色彩は白くとび、ハレーションを起こしたかのように輪郭がはっきりしないまま、残像のように僕の脳裏にこびりつきました。栄華が過ぎ去った後の、寄る辺のない世界。リスボンという街がもつ独特の郷愁の感覚を、直感的に感じさせてくれる映像でした。僕は、街には独特の色や感覚がある方が魅力的だと思っています。キレイに整理整頓された街や、シャープですっきりした街並みよりも、「歴史」の片鱗や皺が深く刻み込まれている、つかみどころの無く陰鬱(言い過ぎ?)な街の方が、味わいがあって魅力を感じます。

そんなことを感じさせてくれた「白い町で」の主演俳優はブルーノ・ガンツ。大陸の西の果てでメランコリックな映像に身を投じた彼は、その数年後、ヴィム・ヴェンダースに見出されます。そう、それは「ベルリン 天使の詩」。しかもなんとおじさん天使として!ガンツおやじは、今度は壁崩壊前夜のベルリンを彷徨います。世界大戦で爆撃されて以来、壁で分断され埋められることのない空白の不毛の地が続きます。

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モノクロームの陰鬱な映像。その中を彷徨う笑顔のない疲れた天使。この無彩色の世界そのものが、当時のベルリンの街の気配を伝えていました。

1920年代、ベルリンはヨーロッパ随一の栄華を誇ったそうです。その時代を書き記したヴァルター・ベンヤミンの断章。写真に表わされる、都市の光と影。そんなことをイメージしながら、ある晩、旧東ベルリンに位置する古いレストランに入りました。戦後の再建の建物だと思いますが、数十年、暗く抑圧された時間を過ごしてきたことでしょう。地下に降りていくが階段がそんなイメージを沸かせました。店内に飾られた、古き良き時代のベルリンの写真や、生活道具の数々。そんな雰囲気に身を委ねながら注文したのは、酢キャベツとアイスバイン(豚肉の煮込み)。

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暗く寒い冬を乗り切る名物料理だそうですが、見た目も味も即物的!なんだかドイツの人々の気質を表しているようでした。ベルリンという街は、いつの時代も勝手にパリを意識し、追いつけ追い越せで成長してきたようなところがあるようです。でも、暗く重く長い冬、料理も手が込んでいるというよりは即物的で、ある意味ではパリに並ぶことのできないコンプレックスを抱えたまま生きてきた街のような気がしてなりません。そして最後には街ごと破壊され、廃墟になってしまった。

そんなベルリンは政治の中心に引き戻され、またもや国策の何がしかを背負わされ、節操ないほどの再開発に沸いています。う~ん、どうなっていくことやら。日々どんどん変わり続けるベルリンのなかで、変わらないものとは何なのだろう?そんなことを思いながら、古きプロイセン王国時代の建築家シンケルが設計した美術館で、ちょっとメランコリック風を意識(?)して写真を撮ってみました。アルテス・ムゼウム(旧博物館)のエントランス階段。どうでしょうか?

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続きはまた来週。

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ベルリンの旅

2008-05-27 00:31:58 | 旅行記

帰国してからはや2ヶ月。ついに(大袈裟!)はじめようと思います、ベルリン紀行。どういう組み立てで書こうかな~なんて思いながら、とりあえず選んだのがこの一枚。

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アレクサンダー広場に建つ、旧東ベルリンの象徴・テレビ塔。霧の中にかすみながら聳えています。そう、今回の旅は1週間の短いものでしたが、雨、雪、霧、ひょう、つかの間の晴れ・・・そんな天気でした。3月の後半とはいえ、気温は零下、暗雲が重くのしかかる日々でした。イメージ通りのドイツの冬。でも、ベルリンにはそんな天気がよく似合う。それは他でもなくその重く激しい都市の歴史のイメージを彷彿とさせるからなのだと思います。僕は、どうしても冬にベルリンに来たかった!

数年前、パリとリスボンの旅についてこのブログのなかで、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンについて書いたことがありました。彼はパリの都市・文化を論じ、やがてナチスの手から逃れるようにリスボンを目指した・・・というような話。そんな彼が生まれ育ち、やがて彼を追った都市が、ベルリンでした。彼の著書「ベルリンの幼年時代」に描かれた、戦前のベルリンの美しくもメランコリックなイメージ、そして、爆撃で破壊され尽くされた戦時中の死の街のイメージ。そして戦後の分断の歴史。それらのことに思いを馳せながらベルリンに向かったのでした。

今回の旅の真の目的は、ある建築家の作品を見学することでした。建築家の名はカール・フリードリヒ・シンケル。19世紀ベルリンの宮廷建築家でした。ベルリン市内に今だ多くの彼の作品が残っていますが、大本命はベルリン近郊の街ポツダムにある住宅建築でした。

ベルリンとポツダム。このふたつの街のイメージを、何回かにわたって書いていきたいと思います。どうぞよろしくお付き合いください。

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印西爽居の引き渡し

2008-05-19 16:55:26 | 住宅の仕事

昨日は大安。印西爽居の引き渡しでした。

家具類も次々に搬入され、あるべきモノがきちんと備わっていくと、生活の場として楽しい雰囲気に満たされていきます。

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家の中心に鎮座するのはケヤキのテーブル。山梨の家具職人に特別につくってもらったもので、昨日、山梨からはるばる千葉まで運んでもらったのでした。このテーブルにまつわる物語も含め、この住宅は、たんに生活空間として使いやすく心地よくする工夫だけでなく、あるストーリーが込められています。

そんなストーリーを交えながら、今後このブログでも印西爽居についてご紹介していきたいと思います。

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オープンハウス

2008-05-05 18:18:29 | 印西爽居

千葉県印西市に手がけてきた住宅「印西爽居」のオープンハウスを開催します。

日時/5月17日(土) 12:00PM~4:00PM  

場所/北総線 「千葉ニュータウン中央」駅 徒歩10分

この住宅は、ニュータウンに建つ若い家族のための住まいです。明るく開放的でありながら、同時に落ち着いた雰囲気の住まいを求めました。

リビングルームからデッキテラス、そしてバーベキューコートへと空間がつながっていく、アウトドアリビングを楽しむ住まいとしてデザインしました。

詳しくは オノ・デザイン建築設計事務所のホームページにて紹介しています。

http://www15.ocn.ne.jp/~onode/inzai.html

内覧をご希望の方は、お名前・ご住所・ご連絡先を、Eメールまたは電話・FAXにてご連絡ください。当方より折り返し案内図をお送りいたします。

Eメール/onode@cotton.ocn.ne.jp

TEL / FAX   03-3724-7400

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