残るものとは。

2022-12-31 22:27:38 | アート・デザイン・建築


今年も数件の設計した住宅が完成し、お引き渡しをすることができました。
どの家の設計であっても思い描いているのは、完成した時の姿ではなくて、何年も経ったときに立ち現れている雰囲気のこと。
気の長い話ではあるけれど、家づくりの魅力はそんなところにあるようにも思います。

写真は、10年経ったぼくの家の床。ナラの無垢フローリングと、ハンスウェグナーのCH47チェアの脚。
きれいに手入れもしないし、ラフに扱うから、傷だらけ。でもあえてそんな趣きを楽しみにしているところもあります。
この場所が好きというような愛着や、寄る辺の感覚は、こんなところに宿るように思います。
それから、窓から見える眺めや自然の光、陰影が美しければ、それでよし。

確かなものを選ぶ。残す。
そんなことを、来年も大事にしたいと思います。

今年もブログにお付き合いくださいましてありがとうございました。
どうぞよいお年を。

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慈愛の場所

2022-12-24 22:18:50 | 日々
今年で10歳になる息子はダウン症で、特有の合併症のため、誕生後すぐに手術を何度か受けることになりました。
だから、10年前の冬は、悲しいとか心配とかいう感情を抑えたくて、なんだか無感情にしながら日々を過ごしていましたが、とにかく昼も夜も病院に行き来したことを覚えています。

入院した成育医療研究センターは子どもの医療専門の病院で、敷地内には少し広めの中庭がありました。
中庭にはサンタさんやトナカイなどクリスマスにちなんだ人形が飾られていました。
近所の保育園児が引率されて中庭で遊ぶ光景も見られ、横目で見ながらその元気さがなんだかうらやましい気持ちにもなっていましたが、夜になるとそれらの人形たちはイルミネーションとなり、暗い中庭のなかで美しく輝いていました。
もう診療時間もとっくに過ぎた夜に。

病院にしばらく通っていると、いろいろな病気により長期にわたって入院を余儀なくされる子どもたちがたくさんいることがわかりました。
病院の中には学校もあって、学習が遅れないようにも配慮されながら、いつか退院できる日を待ち望みながら暮らしているのです。
中庭にそっと光り輝くクリスマスのオブジェは、その子どもたちに向けられたものだったんだ。
そんなことを理解しながら、美しいイルミネーションだなと思いました。

今日も、病院のなかで過ごす多くの子どもたちがいます。
医療の力で、みんな前に進んでほしい、と切に思うのです。
そしてぼくは医療には関われないけれど、医療や療育の場であったり、子どもたちが過ごしながら少しでも気持ちが明るく軽くなれるような場所をつくりたいと思うのです。
中庭のそっと光り輝くクリスマスのオブジェを思い返しながら、そんな気持ちになります。

メリークリスマス。


写真はアッシジのサン・ダミアーノ修道院より。
いつかこんな慈愛に満ちた場所をつくりたいと思います。

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鎌倉山ノ内の家

2022-12-19 22:07:38 | 鎌倉 山ノ内の家


「鎌倉山ノ内の家」の現場が進行中です。
今日はとても寒く、断熱材がまだ入っていない室内は、しんしんと体に応えます。

休憩時間に大工さんが熱いコーヒーを入れてくださいました。
いやあ、沁みます、身と心に(笑)

鎌倉の山ノ内界隈は山に囲まれたロケーションで、山の木々を間近に感じる絶景の土地です。
小さなラウンジスペースに、大きな窓を開けて。



家じゅうのどこからでも山の緑が見えるようにしたい。
そんな建て主のご意向を汲みながら、間取りを考えました。
間取りは暮らしに直結するから、建て主とのキャッチボールを繰り返しながら良くしていきます。
一方で、窓の開け方は、いわば建築家の手腕が期待されているところ。
敷地界隈の雰囲気をよく見て感じ取り、窓辺のデザインに落とし込んでいきます。
その作業は、風景と対話をしているようなものかもしれません。

風景との、言葉なき対話。
ゆっくりと脳裏にいろいろな想いを巡らせる時間は、とても楽しいものです。
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ゴダールの「軽蔑」

2022-12-10 23:58:08 | 映画


3年近く前にできあがった住宅「石神井の家」には、ちょっと不思議な窓辺スペースがあります。
2階のリビングの一番奥に、幅10センチほどの大きな窓枠に縁どられた出窓があり、向こうに見える梅園を額縁のように切り取っています。

この窓、実はイメージのもとになっているのは、イタリア・カプリ島にあるヴィラ・マラパルテの窓でした。
室内に散りばめられた、まさに額縁のような窓で、ジャン・リュック・ゴダールの映画「軽蔑」に印象的に画面に登場します。

以前、額縁のような窓の魅力を伝えたいがために、ある建て主に、「軽蔑」という映画に出てくる窓がいいんですよ~ とお話したことがありました。
実はこの映画、名作ではあるけれども少々官能的(いや芸術的?!)なので、あまり気軽に建て主にお薦めしにくいのですが、後日、「小野さん 観ましたよ~」と建て主に言われた時にはちょっと冷や汗をかきました(笑)
まあ、ゴダールの映画ですからね・・・

ジャン・リュック・ゴダール監督「軽蔑」   Jean-Luc Godard  LE MÉPRIS   ご興味のある方はぜひ。

ところで、ゴダールは今年9月に他界しました。
学生の頃には、彼の難解な映画に何度もチャレンジしたものでした。
一番好きな作品は「気狂いピエロ」

見つかった
何が?
永遠が

海をバックにしてランボーの詩が流れるラストシーンは、最高に美しくカッコいいと今も思います。


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修道院の窓

2022-12-05 22:52:35 | 透かし庭の家


世田谷区でつくってきた「透かし庭の家」も、ついにお引き渡しを迎えました。
その前日、しばし空間に浸りました。

薄日が差し、室内は穏やかな自然の光に満たされていました。
時間を経るごとに味わいの増す家にしたい。そんなイメージを建て主と共有しながら、インテリアの素材もひとつひとつ吟味してできあがった空間です。
ツガ材の板壁は、今は淡く優しい色合いで、だんだんと飴色に深みをましていきます。
ブラックチェリー材の床フローリングも、ぐっと色が深くなっていくことでしょう。



この家のなかで、密かに気に入っている場所があります。
密かに、というのも、実は表舞台のスペースではなく、ウォークインクローゼットのなかにつくられた小さなデスクコーナーだからです。
ちょっとした余白につくられた簡素な場所。
スリット窓から自然光が差し込んで、他に窓がない仄暗い空間のなかに、なにか安らぎの感覚と、集中を促すような雰囲気ができあがったのです。
そこは、かつてフィレンツェを旅したときに修道院のなかで見た、僧房の窓辺の空間に趣きが似ていたのです。
旅の記憶に出会う空間。
誰にも言っていないけど、僕にとってはかけがえのない空間です。
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