空間の色

2022-02-27 23:01:30 | 青葉の家


家の中には廊下などの動線があります。通るだけの実用的なスペースだけれども、家の中を移動すること自体が気分転換のようになるといいなと思います。
写真は「青葉の家」の廊下からトイレに入るところ。
廊下といっても玄関ホールと一体になっているのですが、床には黒っぽいタイルが貼られて引き締まった雰囲気。
そこからトイレに入ると、壁と天井が紫色に塗られています。
やはりトイレのドアを開けるたびに「おおっ」とちょっとしたサプライズのような感覚があります(笑)

この家の設計が始まった当初から、施主となんとなく共通の話題になっていたのは、メキシコの建築家ルイス・バラガンの住宅のこと。
ルイス・バラガンの設計する住宅は、さまざまな色彩に溢れていることで有名ですが、実はモノクロームの空間も多いのです。
色を引き立てるのは無彩色、ということでしょうか。
「青葉の家」でのモノクロームの空間からパープル色の空間への出会いというのは、ちょっとルイス・バラガンの影響があったのかもしれません。

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吉村障子のある風景

2022-02-21 22:34:18 | 朝霞の家


近年は和室のある住宅が少なくなったとよく言われますが、和室にしかない風情もやはりあるものです。
本来の和室は、柱や梁が見えていて、天井は板張りで・・・という定型があるものですが、そうした定型をすべて取り払ったときに残るものとは、なにか。

そんなことを思いながらつくったのが、写真の和室。
柱や梁など、木の造作はありません。
壁と天井はやや黄土色がかった左官塗りで、壁一面に障子窓があります。

この障子、建築の世界で通称「吉村障子」と呼ばれるもので、かの建築家 吉村順三が考案したことで知られます。
障子のフチと桟が同じ太さになっているので、格子状の大きな「光壁」となるのです。

余計な要素が無い分、障子に映り込む影が印象的になります。
そこに、木の枝ぶりが映り込む光景。
冬ならではのキリリと引き締まった佇まいに、ちょっと息をのみます。


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階段の風景

2022-02-15 22:24:33 | 阿佐ヶ谷 古木と暮らす家


「阿佐ヶ谷の家」の階段の風景。
木でできた階段と、白い壁。
あるのはひとつの正方形の窓、だけ。

そこから見えるのは、古くから残る百日紅の木。
百日紅は花の季節が長く、工事の最中も暑い夏を通り越してなおしばらく、目を楽しませてくれました。

家ができあがって階段にも静けさが戻りました。ほの暗さのなかに、窓から穏やかな光が入ります。
どうだ、とばかりに風景が見えるのではなく、暮らしのなかでちょっと見えてくれたらいい。
追憶、という言葉に寄り添うような空間になりました。
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住宅と寸法

2022-02-10 22:23:40 | アート・デザイン・建築


エクスナレッジよりムック本が発刊されました。
住宅の寸法について特集された専門家向けの書籍で、ぼくの設計した事例からもいくつか寄稿しています。

設計とはつまるところ、材料を選び寸法指定をすることに尽きますので、「寸法」は究極のテーマといえるかもしれません。
ぼくの師匠の建築家 村田靖夫は、それはそれは寸法にキビシイ先生でした。
一見何気なく見える空間が、ピリッとした緊張感をもつ。それは緻密な寸法設計によって成り立つことを、修行時代には叩きこまれました。

村田さんのもとで設計をし始めてまだ間もない頃のことです。
「室内の高さは15センチ刻みでしっかりイメージできるようにしろ」と言われました。
和室の基本寸法である180センチを基準として、そこから15センチ刻みに、195センチ、210センチ、225センチ、240センチ。
窓や天井の高さを示すそれらの寸法を自在に操ることによって、そのスペースに最もふさわしく心地よい高さ関係を生み出すというわけ。

それらの高さ寸法を熟知していた村田さんは、平面図(間取り図)を見ただけで、その空間のプロポーションの良し悪しを一目で見抜いていました。
村田さんが特に好んだ天井高さは225センチでした。窓の高さを天井いっぱいまで開けると、屋外や庭に向けて空間が伸びやかに続いているのが感じられるのです。
それよりも天井が高いと間延びをしてしまう。そんな流儀がありました。

一般的によいとされているよりも、ひとつ抑制の効いたキリリとした寸法体系が生み出す空間性。
そうした流儀に触れる時期があったのは、ありがたいことだったのだと思います。
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平家納経

2022-02-05 22:56:34 | アート・デザイン・建築


夜中にやっているTVアニメ「平家物語」に惹かれています。
「鬼滅の刃」のアニメーションも圧巻なのだけれど、この「平家物語」の静かな映像の美しさに見入ってしまいます。
正面性のある構図で背景が描かれ、輪郭線は描かず色彩のグラデーションだけで事物の姿かたちと奥行き感を表現し、幽玄なのです。

ちょうど大河ドラマでも同時代が舞台になっていますね。(しかも鎌倉にちょうど設計の仕事があるという幸せ。通うぞ~ 笑)
平家について思いを馳せると、ぼくにとって外せないのが「平家納経」絵巻です。
隆盛を極める平家一門が厳島神社に奉納した「平家物語」絵巻は、一流の絵師や作家によってつくられています。

美の極み。
最初にその存在を知ったのは、画家・有元利夫がエッセイのなかで、平家納経を「汲めども尽きぬ源泉」と評したことを読んだのがきっかけでした。
有元はピエロ・デッラ・フランチェスカなどのルネサンスの古画に影響を受けた画風で有名ですが、その簡素古朴な画風と、平家納経の画風は、どこかで響き合うところがあるのでしょうか。

学生時代にぼくが建築学を通して学んだのは、ひたすら幾何学を出発点とした造形だったように思います。
幾何学から遠く離れた「平家納経」の画風をどのように理解したらよいのかわからないけれど、心の奥底で明滅し続ける存在です。

写真は小松茂美著「平家納経」より。
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