この数年、クリスマスになると僕にはちょっとした楽しみがあります。それは、東京・外苑前にあるAlessiのショップで、クリスマス・プレゼントを選ぶこと。Alessiはテーブルウェアを中心に取り扱うブランドで、いろいろなデザイナーと協同して製品をつくっています。食事にまつわる基本的な生活道具として、用と美について深く考えられたデザインの数々は見ているだけで楽しいもの。そしてそれを、僕と同じく建築家である妻にプレゼントとして贈る、というのを表向きの理由(?)にして楽しく選んでいるのです。
師匠の設計事務所が店の近くにあるので、スタッフだった頃は、夜こっそり事務所を抜け出て買いに行ったものでした。最初に行ったときに選んだのは、Alessandro Mendiniのデザインによるスプーン。次の年に選んだのはJasper Morrisonデザインのナイフとフォーク。本来こういうものは、デザインを統一するためセットとして入手すべきものかもしれませんが、一年に一回、一通り作品を見ながら、どのデザインが自分にしっくりくるのかを見直す機会にもなります。年を追うごとにバラバラのデザインがテーブルの上に並ぶことにもなりますが、僕自身のそれぞれの年のデザイン嗜好を見る思いがするのです。去年は良いと思っていたものが、今年はあまり良く思えなかったり、ということもあります。いわば「用と美」についての考え方を毎年、自問自答しているようで、それはどこか建築デザインにもつながっていくようにも思います。
ただ、今年は上記のようなカトラリーではなく、前から目をつけていたものがありました。それは、僕が敬愛する建築家Peter Zumthorのデザインによるペッパーミルです。クルミの木でできた大ぶりなデザインは、独特のデザインを主張する他のデザイナーの製品のなかに一緒に並べられていると、どこか素朴で穏やかな雰囲気をもっています。他の製品の多くがステンレスや磁器あるいはプラスチックなど、製品ごとに色味の差もなく、永年つかっていても劣化が少ないのに対し、このペッパーミルは製品ごとに木目も違うし、永年の間に湯気や油などにより表面の様子も変わってくることでしょう。そんな素朴なペッパーミルですが、用に即したプロポーションの美しさ、道具としてのメカニズムの簡潔さなど、シンプルかつ優美なシルエットのなかに力強さと気品が宿っています。その表面を静かに覆う光と影。まるで味わいのある人物像のよう。