『ブラームス回想録集』より、A.ディートリヒ著『ブラームスの思い出』からの抜粋
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尊敬するシューマンに弟子入りするため、
私アルベルト・ディートリヒがデュッセルドルフに赴いたのは
1851年の秋、22歳になる前のことだった。
先生と婦人に温かく迎えられ、
私はすぐにご夫妻のお宅へ日参する身となった。
希望に燃える音楽青年に理解があって面倒見もよい、
これがまさしくシューマンのシューマンたるゆえんだ。
1853年、若きブラームスがデュッセルドルフにやってきたときの
熱狂ぶりにも、それがよく表れている。
ヨアヒムが彼を有望株だと推薦し、
シューマンはそのみずみずしい天才の作品に
惹きつけられたのだ。
ブラームスが到着した直後の1853年9月、
合唱団(ジングフェラインSingverein)が練習を
しているところに現れたシューマンは、
秘密めかした笑顔でこう告げだ。
「すごい人物がやってきた。
その名はヨハネス・ブラームス。
これから皆、偉大な作品を聴くことになるんだぞ」。
それから先生は、本人に引きあわせてくれた。
この若き音楽家の風貌は独特だった。
地味なグレーの夏用ジャケットを着こみ、
金髪を長く伸ばし、かん高い声で話す。
そして引き締まった口元と深みのある青い目が、
とりわけ印象的だった。
そのときブラームスは20歳。
すぐにゾーン、レッシング、グーデ、シルマーなど
デュッセルドルフの画家ファミリーを中心とするサークルに溶けこみ、
シューマン夫妻とも親しい、目の不自由なレーザー嬢宅も
足しげく訪問して、家庭コンサートに加わっていた。
皆は、ブラームスの控えめで愛すべき人柄に惹かれていった。
今でもある夜の出来事を生き生きと思いだす。
それはブラームスが到着してまもなくのこと、
心優しき音楽愛好家オイラー邸での集まりだ。
ブラームスは求めに応じ、
バッハの《トッカータ ヘ長調》と
自作の《スケルツォ 変ホ短調》を、
迫力満点で堂々と演奏した。
鍵盤の上に頭を折り曲げるように、そしていつもの癖で、
メロディを興奮気味に口ずさみながらピアノを弾くのだ。
嵐のような喝采。
彼はそれを謙虚に受け流していたが、
皆はそのすごい才能に驚嘆し、
何よりわれわれ若い音楽家が、
高度な芸術性を口々に賛美した。
演奏はエネルギッシュかと思えば
曲想に応じ優しく、
すべてに個性的だった。
そして作品はまさしく嵐(テンペストTempest)。
居あわせたもの全員が、
もう一度聴きたいと思ったのである。
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尊敬するシューマンに弟子入りするため、
私アルベルト・ディートリヒがデュッセルドルフに赴いたのは
1851年の秋、22歳になる前のことだった。
先生と婦人に温かく迎えられ、
私はすぐにご夫妻のお宅へ日参する身となった。
希望に燃える音楽青年に理解があって面倒見もよい、
これがまさしくシューマンのシューマンたるゆえんだ。
1853年、若きブラームスがデュッセルドルフにやってきたときの
熱狂ぶりにも、それがよく表れている。
ヨアヒムが彼を有望株だと推薦し、
シューマンはそのみずみずしい天才の作品に
惹きつけられたのだ。
ブラームスが到着した直後の1853年9月、
合唱団(ジングフェラインSingverein)が練習を
しているところに現れたシューマンは、
秘密めかした笑顔でこう告げだ。
「すごい人物がやってきた。
その名はヨハネス・ブラームス。
これから皆、偉大な作品を聴くことになるんだぞ」。
それから先生は、本人に引きあわせてくれた。
この若き音楽家の風貌は独特だった。
地味なグレーの夏用ジャケットを着こみ、
金髪を長く伸ばし、かん高い声で話す。
そして引き締まった口元と深みのある青い目が、
とりわけ印象的だった。
そのときブラームスは20歳。
すぐにゾーン、レッシング、グーデ、シルマーなど
デュッセルドルフの画家ファミリーを中心とするサークルに溶けこみ、
シューマン夫妻とも親しい、目の不自由なレーザー嬢宅も
足しげく訪問して、家庭コンサートに加わっていた。
皆は、ブラームスの控えめで愛すべき人柄に惹かれていった。
今でもある夜の出来事を生き生きと思いだす。
それはブラームスが到着してまもなくのこと、
心優しき音楽愛好家オイラー邸での集まりだ。
ブラームスは求めに応じ、
バッハの《トッカータ ヘ長調》と
自作の《スケルツォ 変ホ短調》を、
迫力満点で堂々と演奏した。
鍵盤の上に頭を折り曲げるように、そしていつもの癖で、
メロディを興奮気味に口ずさみながらピアノを弾くのだ。
嵐のような喝采。
彼はそれを謙虚に受け流していたが、
皆はそのすごい才能に驚嘆し、
何よりわれわれ若い音楽家が、
高度な芸術性を口々に賛美した。
演奏はエネルギッシュかと思えば
曲想に応じ優しく、
すべてに個性的だった。
そして作品はまさしく嵐(テンペストTempest)。
居あわせたもの全員が、
もう一度聴きたいと思ったのである。
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