音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆ベートーヴェンの二つの苦悩

2007年12月11日 | ベートーヴェン Beethoven
今まで私は、ベートーヴェンの苦悩を
『ハイリゲンシュタットの遺書』を代表に捉えていました。
この書には、30歳前のまだ若きベートーヴェンが
聴覚障害という問題に直面し、自らの運命に苦しみ、
そしてそれを克服しようと再び立ち上がる契機となる
彼という一人の人間にとっての大きなひとつの
キーポイントとなっていると考えてきました。

ところが、
ロマン・ロラン『ベートーヴェン研究』を読み進めるにつれて、
ベートーヴェン「後期」の彼の苦悩については、
聴覚障害という個人的な苦悩に留まらない
我々皆に共通する「人間的な苦悩」と対面している
一人の人間の姿として、ベートーヴェンの苦悩が
映し出されているような気がするのでした。


ベートーヴェンの弟カールの死、それに続く
同名の息子カール(ベートーヴェンの甥)の
後見の問題は、我々の想像以上に
人間ベートーヴェンにとっての
人生を削るような大きな問題となって
この中年の男に覆いかぶさったようです。
・・・仕事が手に付かないほどの・・・
さらには、
ナポレオンによるウィーン侵攻、すなわち
「戦争」による人々の生活形態の大変化も重なり、
これが
1816年から1817年にかけてのベートーヴェン
「不毛の年」
とも言われる原因なのだというのです。



人生は長くて短い。

その中には、色々な時期がありましょう。
いい時もありましょう、悪いときもありましょう、
皆きっとそうでしょう、そして
ベートーヴェンだって、きっとそうだったのです。


そしてベートーヴェンという人間・音楽家が
21世紀を生きる我々にとっても大きな意味をもつ理由は、
彼の音楽作品達が、この人間の生き様が
「音楽」として形を成し、その音を聴く人々が、
世紀を越えて、国境を越えて、
心を動かされるという事実があるということです。


聴覚障害を自らの運命として受け入れ、
30歳の若い命を自殺の危機から逃れて
生き続けることを決心した、そのピークが
作品《ピアノソナタ第8番“悲愴”》となって
形に表わされているといえましょうか。


40歳を過ぎて
なかなかうまく行かない彼の人生の運び、
聴覚問題のみに起因しない彼の元来の短気な性格や、
あるいは彼の置かれる立場や境遇などに原因する
様々な女性との恋愛を紡ぎながらも思うようにいかない結婚の夢、
ところが、
独身の身でありながらも突如として家族(甥の後見人として)を持ち、
不器用なまでに過剰な行動をとって周囲を苦しめ、
また自分自身をも苦しめるベートーヴェンという男

これはきっと、まぎれもないある人間の苦悩、
自然の姿なのではないでしょうか


彼の努力と才能を賭して成された数々の仕事=作曲が、
今の我々に残され、それが音楽となって鳴り響くとき、
この「人間的」な音楽が、
きっと多くの人の心に深く染み入り、
それは「生きる力」を与えてくれる
大きな慰みとなることでしょうか。

年末は、日本中で《第九》が演奏されることでしょう。
この名曲に心預け、
新たな年を心新たに迎えたいものです!!




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