先日、
ベートーヴェン作曲《ピアノソナタ 第14番 cis-moll op.27-2》通称《月光ソナタ》、
この第1楽章(クラシック音楽の中でも最も有名な曲の一つではないでしょうか!?)
・・・あらためて勉強していたら、
非常に興味深い発見があったようなので、
それをひとつ、まとめてみたいと思います。
それは楽節・フレーズを分析してみて分かってきたことです。
より具体的にいうと、
ひとつのフレーズが計何小節で出来ているかを調べてみることで、
作曲者が、意図していたものが浮かび上がってくるよう、思われたのです。
更にいってしまうと、それはフレーズが【偶数】か【奇数】かの小節数によって、
異なる世界観を提示しているのかもしれない?という検証です。
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《月光》第1楽章、
冒頭の【4小節(偶数)】は「前奏」と捉えられましょうか。
理由としては、上声部に旋律がまだ無いから。
旋律が現れるのは第5小節になってから。
ゆえに、この有名な「ソ♯・ド♯・ミ・ソ♯・ド♯・ミ・・・」は旋律ではなく、
あくまでも伴奏!?ここで大事なのは左手で奏でられる低音バス
「ド♯~~~シ~~~ラ~ファ♯~ソ♯~ソ♯~ド♯~~~」
ということに!?なるのかもしれません。
ちなみに、
第5小節目のバス「ド♯」は、
フレーズのおわりの音でもあり、はじまりの音でもあるという
ふたつの意味合いがあるといえましょう。よって、
フレーズの数え方としては、
第5小節から、新しくフレーズ最初の1小節とすると
楽節の辻褄が合ってきます。
さて、続く旋律のフレーズ、その小節数を数えてみますと・・・
第5小節から第9小節までの、奇数【計5小節(奇数)】!?となるようです・・・
嬰ハ短調cis-mollで始まった旋律は、このフレーズの最中にすでに転調してしまい、
終わりはホ長調E-Durになっています。
すぐさまそれはホ短調e-mollに様変わりする物悲しさ!?が、
第10小節目から、先の旋律に同じくやはり【計5小節(偶数)】で、
すぐさまロ短調h-mollに転調している・・・
(ちなみに、h-mollはベートーヴェンが「黒い調性」と呼んだらしいです・・・)
第15・16小節、そして第17・18小節と、バスの動き(松葉の
クレッシェンド・デクレッシェンドの指示<>)が伴う【2小節(偶数)】が
2回繰り返され、第19小節は・・・?【1小節(奇数)】余り?
第20小節から、長いスラーが書かれていて、
フレーズおしまいの第22小節まで、【計3小節(奇数)】
第23小節からは、嬰へ短調となった冒頭の旋律が【計5小節(奇数)】
そして、第28小節からは、1小節毎に膨らみ(松葉の
クレッシェンド・デクレッシェンドの指示<>)のある【計4小節(偶数)】
第32小節からは、特定の旋律はなくなっているように見え、
右手上昇のアルペジオが【計4小節(偶数)】
下降アルペジオが【計2小節(偶数)】
アルペジオが終わり、中低音に旋律が見られる第38・39小節の【2小節(偶数)】
低音バスが動いている第40・41小節の【2小節(偶数)】
・・・このあたりは【偶数】だらけ・・・
そして、
曲の始まりの旋律が戻ってくる・・・
・・・どうでしょう?
こうして楽節を数えてみて見えてきたのは、
旋律のあるフレーズは【奇数小節数】、
旋律が無く、低音バスやアルペジオの動きの際は【偶数小節数】という風に、
音楽が作曲されているようなのです。
クラシック音楽においては普通、
偶数小節のフレーズが定着していると言って間違いないでしょう。
「奇数」というのは、アンバランスな性質を持っているともいえましょうか。
(数学的にみても、奇数はアンバランスですよね?整数で割り切れないから?)
ベートーヴェンは、
右手小指で奏でられる旋律のあるフレーズを、
どうやら【奇数小節数】と設計しているらしい・・・
この「アンバランスさ」が、
物悲しい旋律に、さらに微妙な不安感を加味しているのかもしれません。
それに対して、
旋律の無い「前奏」や「中間部」でのアルペジオでは、
【偶数小節数】で音楽がすっきり動いている・・・
このような解釈でこの先を見てみますと、
「再現部」第42小節から、始めと同じように、
嬰ハ短調cis-mollに始まりホ長調E-Durに転調する、
しかしここでは短調にならず、そのままのホ長調E-Dur!で、
旋律が始まっています。それが第46小節。ここまでが【計4小節(偶数)】。
旋律のあるフレーズでありながら、安定感のある【偶数小節】で、
ホ長調E-Durという「明るい調性」を導き出しているようなのです。
ようやく旋律が手に入れた【4小節(偶数)】の気持ちよいフレーズ!?
しかしそれも束の間、第46小節から、間に「cresc.」と「p」を経て、
フレーズはふたたびアンバランスな【計5小節(奇数)】となっているのです・・・
第51小節から、先と同じようにバスの動きを有する【2小節(偶数)】2回、
第55小節から、フレーズの間に「cresc.」と「p」を有する【5小節(奇数)】、
これで、旋律の出番はおしまい・・・
第60小節からは「後奏」といえましょうか。
低音バスが、この曲の旋律(「葬送のリズム」と
言われることもあります)を静かに「pp」で【2小節(偶数)】
第62小節から、右手の抑揚あるアルペジオ【2小節(偶数)】
第64小節から、左手に抑揚ある【2小節(偶数)】
第66小節から、「decresc.」していって【2小節(偶数)】
第68小節から、おしまいの和音が【2小節(偶数)】
・・・この曲のおしまいは、旋律がなくなってから、
【偶数小節数】の世界で閉じられているという・・・
ベートーヴェンが狙い、意図したであろう
フレーズ・楽節の小節数を解いてみることで、
それぞれのフレーズのもつ意味、
【偶数】と【奇数】の異なる世界観というものが、
とらえられるのではないでしょうか?
《月光》第1楽章・・・
この曲の正式名称《幻想曲風ソナタ》の名の通り、
実に幻想的でありながらも、
実によく出来た音楽作品のようでもあります。
ベートーヴェンは、やはり凄い!?
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