音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

♪クラシック音楽の伝統を受け継ぐ真の音楽芸術家を目指して活動しています♪ 「YouTubeクラシック音楽道場」も更新中♪

B.《ワルトシュタイン》3楽章オクターブ・グリッサンド

2006年05月03日 | ベートーヴェン Beethoven

↑《ピアノソナタ 21番 op.53“ワルトシュタイン"》3楽章 Coda



ベートーヴェン《ピアノソナタ 21番 “ワルトシュタイン”》
の3楽章には、ある有名な箇所があります。

その名も
●オクターブ・グリッサンド



3楽章Codaに入って「Prestissimo」となり速度を増してラストスパート!
曲もいよいよ終わりを迎えようとする頃、

第465小節にある右手オクターブの下降
第467小節からの左手オクターブの上降
        (写真を見ていただければ分かると思います)

それらがベートーヴェンの書き込んだ指使いでもって(Henle版の楽譜では、
指使いの数字がイタリック・斜めになっているものが
作曲者本人の書いた指使いだと分かるようになっています。たぶん、
他の多くの版でも、こうした書き方が多いと思うのですが・・・)

●連なるオクターブの指使い

5555555
1111111

と指示されており、しかも音量は
●「pp」
が求められております・・・・。


ハンガリーのピアニスト、アンドラーシュ・シフが、
「残念ながら(!?)、この箇所はグリッサンドで弾く事を意味している」
と言ったのを聞いたことがあります。
         (「グリッサンド」とは、指を鍵盤上滑らせて弾く奏法)
「15」の指使いで「pp」でひとつひとつの音を「Prestissimo」の速さで
連打して弾くことは不可能でしょう。よって、ここで求められているのは、
「1指 & 5指」同時のグリッサンドということになり、これを
「オクターブ・グリッサンド」と呼ぶことができます。
ベートーヴェンの他の楽曲で《ピアノ協奏曲 1番》1楽章・再現部に入る
ところにおいても、これと同じような「15」のオクターブ下降があります
(確かあそこでは「ff」だったかな・・・)

おそらく、ベートーヴェン自身、オクターブ・グリッサンドで弾いたのでしょう。
ひとつの超絶技巧なのですね。彼自身、卓越したピアニストであったのですから!
当時の音楽界をブイブイ言わせた男!?

しかし、ベートーヴェンはここ《ワルトシュタイン》で超絶技巧を披露
したかったのでしょうか?
超絶技巧で曲の最後を華々しく飾るのもひとつの可能性です。しかし、ここでは
わざわざ「オクターブ・グリッサンド」しかも「pp」という静かな音量で
それを求めている・・・・

「pp」でなめらかに奏でられるこの音たち、
それは、耳を澄ませ想像を膨らませてみると・・・・




・・・・・・・・・・・・・

この世のものではない、遠い世界から響いてくる音、
この世を超越したところから響いてくる音に聴こえて・・・

地球の重力からも開放され、軽く、自由自在に、
右手は上から降ってくるよう、左手は下から軽々と昇ってくるよう、
それらはいってみれば「天国的」な音・・・

・・・・・・・・・・・・・




「天国的」であることは、「オクターブ・グリッサンド」が終わった
その直後の場所からも裏付けることができます。
第477小節から2ページもの長さに渡って続く「tr.」がそれです。
この「tr.」、《ワルトシュタイン》以降にとってもそっくり類似な形で
ベートーヴェンは使います。すなわち、最後のソナタ《32番 op.111》にて・・・

この《op.111》が天国的であることは、疑いの余地がありません。この曲の
最後(やはりここでも最後!?)この「tr.」に導かれて、人は別世界へ
ついに到着するかのようです。

「tr.」に導かれる別世界を準備する「オクターブ・グリッサンド」、
もしかするとベートーヴェンには聴こえたのかもしれません、

・・・天の扉がひらける音が・・・!!


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« B.《ワルトシュタイン ピア... | トップ | Pedal大作戦 《熱情》最後の... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。