ブラームス《ドイツ・レクイエム》第6楽章 後半
「フーガ」に魂・精神の高揚を覚える
西洋クラシック音楽におけるこの感覚は、
ブラームスの敬愛する巨匠、ベートーヴェンが
彼の後期作品において数多く開拓していったものでもあります。
壮大な「死」との対峙を描いたこの6楽章の前半を経て、
後半ではこの「フーガ」が、
神を賛美するテクストがコーラスによって縦横無尽に歌われ、
《ドイツ・レクイエム》の「クライマックス」とも捉えられる
この楽章を締めくくります。
Herr, du bist wuerdig zu nehmen Preis und Ehre und Kraft.
主よ、あなたは授与するにふさわしい、賞と栄誉と力を。
Denn du hast alle Dinge erschaffen,
なぜならあなたは万物を創造されたのですから、
und durch deine Willen haben sie das Wesen
und sind geschaffen.
そしてあなたの御旨によってそれらは存在し、
そして成し遂げられたのです。
我々はどこから来て、どこへ行くのでしょう、
この世界はどこから始まり、どこに終わるのでしょう?
尽きることの無い我々人間の限界を超えた物事の始まりと終わりを
キリスト教の世界では「創世記」として、
神の造る世界を唱え、この長い歴史をかけて紡がれてきた
人間の壮大な想いに、人は心揺り動かされる感動を
覚えるかもしれません、さらにはそれが
ブラームスという大音楽家の手にかかった
素晴らしい音楽作品を通すことによって、この感動は
一段と大きなものとなって人々の心に
直に迫り来るのかもしれません。
男が讃え、女が讃え、
皆で声をそろえて讃え、
様々なフーガの技法が凝らされます。
さらに注目すべきは、
フーガ後半あたりにさしかかって
オーケストラによって二度奏でられる
「5オクターブを越える長大な上降音型」
コントラバスから始まり、弦楽器群を総なめして
(コーラス側から見ると、オーケストラの左から右へ、
観客席からは、右から左へ音型が上昇してゆく様が
視覚的にも・聴覚的にも体感できるでしょう)
第1ヴァイオリンの高音に「ff」で、コーラスでは
「Kraft(力)」というテクストとともに到達するこの上昇は、
クラシック音楽史における前代未聞の偉業といえるかもしれません、
これはすごいことです!!
(少なくとも、今の私はこれに相当するものを知りません)
・・・まるで、神が荘厳な大階段を上って天空に立ち現れるかのような・・・
(そういえば、ブラームスも尊敬の念を大きく抱く
ドイツの先人大作曲家、J.S.バッハの名作
《マタイ受難曲》の冒頭のコーラスにおいても、
感動的なチェロ・コントラバスによる「上昇音型」があります。)
フーガがいよいよ終わりにさしかかるにつれて、
音量が次第に静かになってきます。しかし
これは弱弱しい「pピアノ」では全くありません、
現世を逸脱した「pp」の世界が現れる・・・
・・・・まるで、神の世界に一瞬、足を踏み入れたかのような・・・・
そして、
高らかに神への讃美を歌い、
我々は現世を力強く、今を生きているのです!!
つづく
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