昨日取り上げた映画、「女と男のいる舗道」でひとつ
面白い発見があった。
カフェの場面のことだが、そのカフェのカウンターの
壁に「野火」という漢字が見えるのだ。
まるで榊莫山が書いたような書を飾っているのである。
今でこそ、ちょっとした漢字ブームで、Tシャツにと
んでもない字をプリントして、笑いを誘ったりしてい
るが、あの時代にだ。
どういういわれの物か非常に気になった。
「野火」というと、真っ先に大岡昇平の小説を思い出
す。
太平洋戦争末期、南の島で飢えに苦しみながら敗残兵
が彷徨うという物語だが、同じような舞台の捕虜の話
「俘虜記」とともに、戦争物でも異色なかなり面白い
小説だと思う。
しかし彼の作品で忘れてはならないのは「レイテ戦記」。
フィリピンレイテ島の戦記なのだが、その徹底した記
録の緻密さには驚かされる。
なるべく主観を排し物語性もなく、本当に記録なのだ
が、当時の状況が自然に浮かんでくる。
凡庸な小説家なら、いくつも泣きの物語を作るんだろ
うな、と思わせる。
大岡昇平はそこが違った。
何はともあれ、威勢のいいナショナリズム的発言を素
朴に発する今の若手政治家には必読の書であろう。
自分自身も、かつてミンダナオ島にホームステイした
が、そのころは全くフィリピン人の複雑な感情を想像
することなく、お気楽なフィリピンライフを満喫した。
それはそれで面白かったのだが、いまならもう少し違
う見方ができたのだが、と思ったりする。
写真は、バリ路上生物シリーズ地鶏2。
親子と思われるが、親の迫力が。
黒装束も珍しいし、そのまま歌舞伎に出ても良さそう。