T君のカフェに頼まれものを持っていく用事があったので、ついでにちょっと「御柱祭」を味わおうかと言う気になり、殆ど終りに近い午後六時近くの電車で下諏訪に向かう。到着する臨時列車からは、一斉に祭り帰りの人々が吐き出される。忽ち辺りに酒の匂いが充満する。しかし、逆に、こんな時間に現地に向かう人間はごく僅か。下諏訪駅で降りると、普段の何百倍かの人の群れが駅に向かってくる。こんな光景は六年に一度しか見られない。しかし既に皆お帰りモードなので露店に寄って行こうという客は少ない。露店もすっかり今日は終わりといったムードである。
カフェは駅から六分ほどだが、その途中ある路地で誰かが私を呼び止めた。知り合いの地区の宿の前を通り過ぎたのだ。そこでちょうど良かったと缶ビールをもらい、それを飲みながらカフェに向かう。露店の数も多くなってきて、何かおつまみに買おうかと思ったが、たこ焼きが500円と言う値段にすかさず原価を計算して、モロッコ産の冷凍蛸を使ってまあ70円くらいのものだろう、となると300円くらいが適正価格だ、と非日常空間であるべき祭りの場で日常的思考をしている。これでは祭りは楽しめない。でも高いものは高い。他のものも見事に価格は統一されている。これじゃあ価格カルテルだろう、という野暮も祭りにはそぐわない。それにしても、久しぶりに見る露店の内容は以前と比べると変わってきている。「佐世保バーガー」「富士宮やきそば」「肉巻きおにぎり」などというB級グルメの人気アイテムが結構揃えられている。しかし、個人的にはあまり食指は動かない。それでも何かないかと探すと、露店の外れの方の、要するに良くない場所にぽつんと「ドネルケバブ」の店があった。これもご多分に漏れず500円。しかし一気に食指は動いた。
店は日本語がめちゃくちゃ堪能なしゃべり好きのトルコ人がやっていた(イラン人?などと聞いて悪るうございました)。日本全国回るらしく、普段は新宿辺りでやってると言った。チキンのケバブのみが少し残っていて、それをピリからソースでいただく。ピタパンに香辛料が効いたチキンとキャベツの千切りを挟んだ「ドネルケバブ」は、初めて食べたが旨かった。一応本場の味とトルコ人のあんちゃんは言っていたが、これだったら祭りの場でなくても食べるぞ、と思った。来て良かった、と「ドネルケバブ」とともに私的御柱際は終了した。
写真は、今回の下社のものではなく、一週間前に終了した上社の「祭りのあと」。