いつも利用しているレンタルビデオ屋(今はDVD屋)の、監督別コーナーの貧弱振りは昨日書いたとおりだが、この状況は致し方ないものであるとも思っている。利用する人間がいるとは思えないDVDを揃えるのは、経済原理に適っている筈無いのだから。これは、本屋の品揃えでも言えることである。基本は経済である。しかし、たまにその原則を無視したような異端的店が出現することがある(本当はそういう店を常に望んでいるのだが)。そこにあるのは、店のオーナーの酔狂、思い入れ、意地である(前提にセンス有りき)。しかし残念なことに、意地だけでは維持できないのが現実。殆どは消滅していく運命にあるのだ。ところで、何ゆえレンタル屋でそんなことを思ったかというと、実は当地にも、嘗てそんな奇跡的な店が存在していたことがあったからだ。
その店の品揃えは、ちょっとすごかった。多分、東京でもこんな店は無いのでは、と思われるようなものだった。基本的には全てが監督別で整理されている。例えばフランス映画であるなら、ゴダール、トリュフォー、ロメール辺りだったらどこでもやりそう(当地のツタヤはロメールコーナーはない)。更に進んでブレッソン、リヴェット、この辺まで来ると、ちょっといってると言えるかも知れない。その幻のような店は、更に更に進んで、ガルレ、ロブ=グリエのコーナーまで用意していた。それも、発売されている殆の品を揃えて。ブニュエルも「黄金時代」から始まってメキシコ時代の殆んど、その後は全て揃えていた。ドイツであれば、ヴェンダースは言わずもがなだが、「さすらい」とか「都会のアリス」が普通にあるのはなかなかのものではないだろうか。ファスヴィンダー、ヘルツォークは勿論。そう言えばシュヴァンクマイエルとクエイ兄弟のコーナーもあったぞ。日本映画ではちゃんと森一生と加藤泰のコーナーはあったし、今思うと、何だか夢のようなレンタル屋ではないか。
当然のこと、客は少なかった。私の知ってる範囲では、常連はゲロゲロ少年Yだけであった。これじゃあやってける訳ない。店長とも顔見知りになるのはいいが、終いには仕入れのリクエストまでしていた私も私だ。今から考えると消滅のお手伝いをしたようなものである。結果、三年ほどの命であった。しつこいようだが、今となっては幻のような存在である。