毎年だと今頃は、「お盆を過ぎると風に秋の気配を感じる」などといった表現をついしたくなる時期であるが、今年の夏はなかなか本格派である。一時鳴き始めたコオロギも、心なしか鳴きに勢いがなくなってきたように感じる。そこで夏の情景を小津風映画で。
「晩夏」(仮題)
父親(笠智衆)が縁側で涼んでいる。三十過ぎの娘(原節子)は台所で西瓜を切っている。
「今年の夏はいつまでも暑いのう」(父)
「ええ、そうですわね」(娘)
袂の蚊遣から上がってくる煙を見ながら
「こう暑くっちゃ体が持たんわい、この煙と一緒にそろそろわしも空へ行くかのう」(父)
「何言ってるんですかお父様、縁起でもないことを仰らないでください!」(本気で怒る娘)
「そりゃあ済まんかったのう」(父)
そこに近所の八百屋の女将(杉村春子)が通りかかる。
「いつまでも暑いわねえ、本当いやんなっちゃう」(女将)
「ああ、ところでご亭主はお元気かね」(父)
「家で暑い暑いとウダウダ言ってるので、いっそのことくたばったら楽になれるわよ、と言ってきたばかりなんですよ、あはははは」(女将)
通りすぎる女将、思わず笑みを漏らす親娘。
「明日も暑くなりそうじゃのう」(父)
「ええ、そうですわね」(娘)
縁側に腰掛けた二人は遠くの空を眺める。視線の先には、夕陽に縁どられた雲が数片。