ピカビア通信

アート、食べ物、音楽、映画、写真などについての雑記。

夏の情景

2010年08月23日 | Weblog



毎年だと今頃は、「お盆を過ぎると風に秋の気配を感じる」などといった表現をついしたくなる時期であるが、今年の夏はなかなか本格派である。一時鳴き始めたコオロギも、心なしか鳴きに勢いがなくなってきたように感じる。そこで夏の情景を小津風映画で。

「晩夏」(仮題)

父親(笠智衆)が縁側で涼んでいる。三十過ぎの娘(原節子)は台所で西瓜を切っている。
「今年の夏はいつまでも暑いのう」(父)
「ええ、そうですわね」(娘)

袂の蚊遣から上がってくる煙を見ながら
「こう暑くっちゃ体が持たんわい、この煙と一緒にそろそろわしも空へ行くかのう」(父)
「何言ってるんですかお父様、縁起でもないことを仰らないでください!」(本気で怒る娘)
「そりゃあ済まんかったのう」(父)

そこに近所の八百屋の女将(杉村春子)が通りかかる。
「いつまでも暑いわねえ、本当いやんなっちゃう」(女将)
「ああ、ところでご亭主はお元気かね」(父)
「家で暑い暑いとウダウダ言ってるので、いっそのことくたばったら楽になれるわよ、と言ってきたばかりなんですよ、あはははは」(女将)

通りすぎる女将、思わず笑みを漏らす親娘。
「明日も暑くなりそうじゃのう」(父)
「ええ、そうですわね」(娘)

縁側に腰掛けた二人は遠くの空を眺める。視線の先には、夕陽に縁どられた雲が数片。

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