ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】美徳のよろめき

2006年10月11日 19時24分05秒 | 読書記録2006
美徳のよろめき, 三島由紀夫, 新潮文庫 み-3-9, 1960年
・最近のマイブーム作家は、三島由紀夫と大江健三郎。そんなわけで古書店でその著作を見かけるとせっせと買い集めています。
・いいとこのお嬢さんで良家へ嫁いだ節子(28)と、飄々としてとらえどころのない青年土屋との不倫の話。
・不倫なんて経験ないのでよくわかりませんが、女の気持ちがクルクル回転する様や、男の気のなさっぷりなど全編通じてすごい描写ですね。冷静な目が二人の関係の起承転結をじっと見ている。"天才"を感じる文章。
・「なぜなら男が憧れるのは、裏長屋の美女よりも、それほど美しくなくても、優雅な女のほうであるから。」p.6
・「もし土屋が強いて頼んだら、この脚にだけは接吻させてやってもよいと節子は考えるのである。」p.17
・「「あなたとお会いしていると、私、このごろとても疲れるようになった」 と節子は、そこで、病人の訴え方をした。
「きっと春のせいだよ」 土屋はそう言った。
」p.36
・「節子は急に男の襟足が見たくなったので、立止まって、彼を先にやった。土屋は二三歩歩いてから振向いてそのわけをたずねたが、何でもないの、と節子は笑って答えた。」p.50
・「そのくせ、何も考えていない筈の瞬間に、土屋がズボンのベルトをきりりと締めるときの、小気味よい鰐革のきしみを、突然あざやかに思いうかべたりしている。」p.69
・「「あなたって何も不安がないのね。私一人不安を持ってびくびくしていなければならないのね」」p.85
・「彼が他の男とちがう点だけを、節子が愛していたということはできなかった。個性を愛することのできるのはむしろ友情の特権だからである。」p.93
・「与志子は女にはめずらしい美徳を持っていた。聴手になることのできるという美徳を。」p.105
・「彼女の半眼の目のふちの潤いは、枕頭(ちんとう)のあかりに艶やかに光り、その睫はいかにも深く、今じっと良人の肉体とわが肉との距離をはかっていた。」p.131
・「この世で一等強力なのは愛さない人間だね。」p.134
・「女はどんなに孤独になっても、別の世界に住むことはできず、女としての存在をやめることができないからなんだわ。そこへゆくと男はちがう。男は、一度高い精神の領域へ飛び去ってしまうと、もう存在であることをやめてしまえる!」p.
・「奥様、よくしたもので、女が一等惚れる羽目になるのは、自分に一番苦手な男相手でございますね。」p.140
・「死をとおりぬけた今では死は怖かった。」p.159
・以下、解説(北原武夫)より「氏が自分の力量を心ゆくまで発揮し、自分の技能をほしいままに愉しんで、丁度声豊かな大歌手が、お気に入りの聴衆を前にして即興の小曲をでも歌い上げるような、気楽にのびのびと書いたのが、この『美徳のよろめき』ではないかと僕は思う。」p.184
・「悪徳や背徳というものを、これほど見事に美化してみせた作家を、少なくとも日本の作家の中で僕はかつて見たことがない。」p.189
・「僕に言わせれば、ここで、不羈奔放なこの作者は、彼一流の錬金術によって、背徳という銅貨を、魂の優雅(エレガンス)さという金貨に見事に換金したのである。」p.190

チェック本 レーモン・ラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』
コメント
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