私の脳科学講義, 利根川進, 岩波新書(新赤版)755, 2001年
・ノーベル賞をとった遺伝子関連分野の研究は一段落し、次に脳関連研究にテーマを変えた著者の、小文・対談集。五編収録。
・やはりノーベル賞受賞者の『生の声』は迫力があります。
・「後にノーベル賞をいただいたとき、新聞記者が京都大学に行って、利根川はいったい学部のとき何をしていたんだろうといろいろ探したそうですが、何も見つからなかったそうです。わたしは卒業研究はしていないのですから、見つからないのはとうぜんです。」p.7
・「分子生物学は、分子レベルで生命現象の根幹にかかわる原理を解明していく学問です。」p.14
・ダルベッコ研究室では、「ひじょうにレベルの高い研究しかしない。それ以外の研究には見向きもしない。そういう彼らの心意気を、身をもって経験したと思っています。」p.16
・「そのテーマは、免疫学の世界では何十年もミステリーとして解けなかった問題です。ひょっとしたらそれを、わたしがすでに取得していた研究方法、いわゆる遺伝子組換え法を中心にした方法で、解けるのではないか、というアイディアがわたしの頭に浮かんだのです。この一連の研究で、のちにノーベル賞をいただくことになりました。」p.25
・「それにしても、100億と3万、これでは明らかに数の上でジレンマがあります。最大数万種類の遺伝子から100億種類の抗体がなぜつくれるのか。これが、免疫学者のメルビン・コーンが「Generation of Diversity(多様性発現)のミステリー」と名づけたジレンマでした。頭文字をとるとGODですから、「ゴッドのミステリー」(神の秘密)と名づけられた免疫学上の最大のジレンマだったのです。」p.29
・「遺伝子のランダムな多様化と環境による変異株の選択、これがダーウィンの進化論の二大原理、進化論のエッセンスになるのです。」p.32
・「遺伝子は進化の長い過程においてのみしか変わらない、というのが生命科学の常識だったのです。それに対して、免疫系の抗体遺伝子についてはそのドグマがあてはまらない、ということがこの研究で明らかにされたわけです。つまり、それまでの生命科学の常識をくつがえす発見になったのです。」p.35
・「20世紀には自然科学がひじょうに発展しました。前半は物理学の黄金期であり、後半は分子生物学を中心にして生物学がひじょうに発達したのです。そもそも生物学の究極の目的は、生物とは何か、とくに進化の頂点にあるわたしたち人間はいったい何者なのかを知ることであるといってもいいでしょう。」p.39
・「人間の脳がどのようにはたらいているかを研究することは、すなわち、「人間らしさ」といわれるものをはじめ、人間のもっとも進化した特徴を研究することにもなるのです。これはつまり、人間はいったい何者かということを明らかにすることにもなります。」p.47
・「それに対して精神機能に関する生物学は、ひじょうに遅れをとっています。21世紀においては、この精神の生物学、つまり脳の研究が大発展を遂げるであろうと、わたしたちは考えています。」p.49
・「そして、これまでお話してきた感覚とか言語の能力をさらに超えて、知性とよばれる人間の能力についても、視覚系や言語の発達と同じように、やはり臨界期というのがあるのではないかと考えられるのです。」p.62
・「脳において、知性をあつかっている場所と感性をあつかっている場所は、分かれています。」p.64
・「すなわち、可塑性の高いシナプスをもつ反回路性経路で頻繁につながっているニューロンからなるCA3野は、パターンコンプリケーション能力を通じて、連想記憶(assosiative memory)の想起に重要な働きをしているという結論が導かれたのです。」p.112
・「わたしは古典的な生物学については、ほとんど何も知らなかったし、興味があったわけじゃありません。子どものころにペットを飼ったこともないし、生物に対する親近感はあまりなかったのです。」p.121
・「面接試験で渡辺(格)先生が「君はどうしてウイルス研へ来たいんだ?」と聞かれたのです。それで、わたしが「ほかに行くところがないのです」と正直に言ったら、みんなが大笑いしたのを覚えています。」p.123
・「だいたいわたしは、しんどい思いをしたことは忘れる性格なんです。いいことだけを、覚えているというところがある。(中略)だから、わたしはよく言うことなんだけど、ひじょうに楽観的な人がサイエンスに向いていると思うのです。いろいろむずかしいことがあってもかんたんに滅入らない人、あきらめない人。それから、プライオリティ(優先事項)がしっかりしていること。これは重要です。」p.125
・「どういうことをすれば、ひじょうに創造性が高いのかは、創造性の高い研究を成し遂げた人のそばにいて、本人にしかるべきアンテナがあれば、だんだんわかってくるのです。」p.127
・「かならずしも科学者だけの話ではなくて、わたしは、どうしてみんなあんなにいろんなことを同時にやりたがるんだろうと、不思議でしょうがないんです。 あることを為し遂げるためには、いろんなほかのことを切り捨てないとだめなんですよ。ところが人間は、なかなか切り捨てる決心ができない。」p.129
・「自分にとって何がほんとうに重要かということを、どこのほんとうのおもしろみがあるかということをしっかりと認識して、それにもとづいて人生を設計していく。わたしはそういう人が成功するのだと思います。」p.130
・「100年後にしか解けないとみんなが思っていることを、10年後に解くのがオリジナリティのミソなのです。」p.136
・「わたしの大きな夢は、わたしの研究室か、少なくともCLMからノーベル賞受賞者を出すことです。 親友のある学者が、わたしがノーベル賞をもらったときに、「ノーベル賞をもらうのはたいへんむずかしく、すばらしいことだけど、もっとむずかしいことがある」と言うのです。何かというと、それは「自分の弟子がノーベル賞をもらうことだ」と言うのです。」p.138
・「内容のない人間とつきあっているのは、その人自身の能力のなさをしめしているというのがわたしの考えです。」p.146
・「もし自分の実力で、他人に評価してもらいたいと思うなら、サイエンスをやるのがいい。やはりネイチャー(自然)は嘘をつかないから。成果をあげれば、かならず誰かが評価してくれる。そういう意味で、わたし自身は科学の道を選びました。」p.146
・「脳をいくら研究したって、人間の心はわからないと思っているのが一般の人の大勢でしょう。(中略)いま人間が、世界はこうだ、人間とはこういうものだと思っている通念のようなものが、大きく変わると思います。」p.149
・「遺伝子そのものの数は、期待したより少なかったんですが、いずれにしても遺伝子の半分くらいは脳で使われていますから、脳はやはり人間の精神的な機能において大きな役割を果たしていると思っています。」p.153
・「池田(理代子) 10年ほど前にリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』という本が注目されました。私は、竹内久美子さんという動物行動学を専門にされている女性の方が書かれた本を読んで知ったんですが、」p.158 ノーベル賞受賞者に対してトンデモ本を引き合いに出して話を進めるインタビュアー。。。なんというチャレンジャー。
・「私は、科学するということは、それこそ人間の脳の本質的な属性だと思うんです。脳というのは知らないことがあったときに、知らないとがまんできない、そのこと自体が脳に備わった重要な性質なんです。(中略)私は、人間が存在する限り科学は存在すると思っています。」p.160
・「私もずっとサイエンスをやってきましたが、じつは40歳過ぎてから建築家になりたいと思ったことがあるんです。」p.164
・「がんばって研究していれば、いつかは大きな発見ができるぞと思い込んで、自分の心理をコントロールできるっていうことはひじょうに重要で、これは受験で成績がいいという能力とはあまり関係がないんですね。」p.165
・「たとえば、「脳死」という問題ひとつをとっても、日本では脳が死んだときに、移植のために臓器を取り出していいかということが切実な問題になるわけです。日本では、脳が死んでもまだ生きているという考え方を持っている人が多いと思います。私の個人的な意見では、脳が死んでしまったら、その人間の死を意味するという割り切った考え方をしてしまいますね。」p.174 問題の捉え方が根本的に間違っているような。立花隆氏との対談本を出していたり、そもそも脳研究の専門家であってもこの程度の認識なのか。
・フランスの分子生物学者モノーの言葉「「地球上にはさまざまな種が発生して、滅びていった。もちろん人間もそのうちの一つの種であるが、この地球上の長い進化の過程で、唯一自分自身の種の進化を自分自身である程度決めていくことができる能力をもった最初の種である」」p.180
・バレリーナのマーゴット・フォンテーンの言葉「「バレエというのはひじょうに悲しい芸術である。バレエのすばらしさを理解し、人生が何かということも理解し、芸術の意味もやっと理解した頃には、体がいうことをきかなくなっている」」p.184
・ノーベル賞をとった遺伝子関連分野の研究は一段落し、次に脳関連研究にテーマを変えた著者の、小文・対談集。五編収録。
・やはりノーベル賞受賞者の『生の声』は迫力があります。
・「後にノーベル賞をいただいたとき、新聞記者が京都大学に行って、利根川はいったい学部のとき何をしていたんだろうといろいろ探したそうですが、何も見つからなかったそうです。わたしは卒業研究はしていないのですから、見つからないのはとうぜんです。」p.7
・「分子生物学は、分子レベルで生命現象の根幹にかかわる原理を解明していく学問です。」p.14
・ダルベッコ研究室では、「ひじょうにレベルの高い研究しかしない。それ以外の研究には見向きもしない。そういう彼らの心意気を、身をもって経験したと思っています。」p.16
・「そのテーマは、免疫学の世界では何十年もミステリーとして解けなかった問題です。ひょっとしたらそれを、わたしがすでに取得していた研究方法、いわゆる遺伝子組換え法を中心にした方法で、解けるのではないか、というアイディアがわたしの頭に浮かんだのです。この一連の研究で、のちにノーベル賞をいただくことになりました。」p.25
・「それにしても、100億と3万、これでは明らかに数の上でジレンマがあります。最大数万種類の遺伝子から100億種類の抗体がなぜつくれるのか。これが、免疫学者のメルビン・コーンが「Generation of Diversity(多様性発現)のミステリー」と名づけたジレンマでした。頭文字をとるとGODですから、「ゴッドのミステリー」(神の秘密)と名づけられた免疫学上の最大のジレンマだったのです。」p.29
・「遺伝子のランダムな多様化と環境による変異株の選択、これがダーウィンの進化論の二大原理、進化論のエッセンスになるのです。」p.32
・「遺伝子は進化の長い過程においてのみしか変わらない、というのが生命科学の常識だったのです。それに対して、免疫系の抗体遺伝子についてはそのドグマがあてはまらない、ということがこの研究で明らかにされたわけです。つまり、それまでの生命科学の常識をくつがえす発見になったのです。」p.35
・「20世紀には自然科学がひじょうに発展しました。前半は物理学の黄金期であり、後半は分子生物学を中心にして生物学がひじょうに発達したのです。そもそも生物学の究極の目的は、生物とは何か、とくに進化の頂点にあるわたしたち人間はいったい何者なのかを知ることであるといってもいいでしょう。」p.39
・「人間の脳がどのようにはたらいているかを研究することは、すなわち、「人間らしさ」といわれるものをはじめ、人間のもっとも進化した特徴を研究することにもなるのです。これはつまり、人間はいったい何者かということを明らかにすることにもなります。」p.47
・「それに対して精神機能に関する生物学は、ひじょうに遅れをとっています。21世紀においては、この精神の生物学、つまり脳の研究が大発展を遂げるであろうと、わたしたちは考えています。」p.49
・「そして、これまでお話してきた感覚とか言語の能力をさらに超えて、知性とよばれる人間の能力についても、視覚系や言語の発達と同じように、やはり臨界期というのがあるのではないかと考えられるのです。」p.62
・「脳において、知性をあつかっている場所と感性をあつかっている場所は、分かれています。」p.64
・「すなわち、可塑性の高いシナプスをもつ反回路性経路で頻繁につながっているニューロンからなるCA3野は、パターンコンプリケーション能力を通じて、連想記憶(assosiative memory)の想起に重要な働きをしているという結論が導かれたのです。」p.112
・「わたしは古典的な生物学については、ほとんど何も知らなかったし、興味があったわけじゃありません。子どものころにペットを飼ったこともないし、生物に対する親近感はあまりなかったのです。」p.121
・「面接試験で渡辺(格)先生が「君はどうしてウイルス研へ来たいんだ?」と聞かれたのです。それで、わたしが「ほかに行くところがないのです」と正直に言ったら、みんなが大笑いしたのを覚えています。」p.123
・「だいたいわたしは、しんどい思いをしたことは忘れる性格なんです。いいことだけを、覚えているというところがある。(中略)だから、わたしはよく言うことなんだけど、ひじょうに楽観的な人がサイエンスに向いていると思うのです。いろいろむずかしいことがあってもかんたんに滅入らない人、あきらめない人。それから、プライオリティ(優先事項)がしっかりしていること。これは重要です。」p.125
・「どういうことをすれば、ひじょうに創造性が高いのかは、創造性の高い研究を成し遂げた人のそばにいて、本人にしかるべきアンテナがあれば、だんだんわかってくるのです。」p.127
・「かならずしも科学者だけの話ではなくて、わたしは、どうしてみんなあんなにいろんなことを同時にやりたがるんだろうと、不思議でしょうがないんです。 あることを為し遂げるためには、いろんなほかのことを切り捨てないとだめなんですよ。ところが人間は、なかなか切り捨てる決心ができない。」p.129
・「自分にとって何がほんとうに重要かということを、どこのほんとうのおもしろみがあるかということをしっかりと認識して、それにもとづいて人生を設計していく。わたしはそういう人が成功するのだと思います。」p.130
・「100年後にしか解けないとみんなが思っていることを、10年後に解くのがオリジナリティのミソなのです。」p.136
・「わたしの大きな夢は、わたしの研究室か、少なくともCLMからノーベル賞受賞者を出すことです。 親友のある学者が、わたしがノーベル賞をもらったときに、「ノーベル賞をもらうのはたいへんむずかしく、すばらしいことだけど、もっとむずかしいことがある」と言うのです。何かというと、それは「自分の弟子がノーベル賞をもらうことだ」と言うのです。」p.138
・「内容のない人間とつきあっているのは、その人自身の能力のなさをしめしているというのがわたしの考えです。」p.146
・「もし自分の実力で、他人に評価してもらいたいと思うなら、サイエンスをやるのがいい。やはりネイチャー(自然)は嘘をつかないから。成果をあげれば、かならず誰かが評価してくれる。そういう意味で、わたし自身は科学の道を選びました。」p.146
・「脳をいくら研究したって、人間の心はわからないと思っているのが一般の人の大勢でしょう。(中略)いま人間が、世界はこうだ、人間とはこういうものだと思っている通念のようなものが、大きく変わると思います。」p.149
・「遺伝子そのものの数は、期待したより少なかったんですが、いずれにしても遺伝子の半分くらいは脳で使われていますから、脳はやはり人間の精神的な機能において大きな役割を果たしていると思っています。」p.153
・「池田(理代子) 10年ほど前にリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』という本が注目されました。私は、竹内久美子さんという動物行動学を専門にされている女性の方が書かれた本を読んで知ったんですが、」p.158 ノーベル賞受賞者に対してトンデモ本を引き合いに出して話を進めるインタビュアー。。。なんというチャレンジャー。
・「私は、科学するということは、それこそ人間の脳の本質的な属性だと思うんです。脳というのは知らないことがあったときに、知らないとがまんできない、そのこと自体が脳に備わった重要な性質なんです。(中略)私は、人間が存在する限り科学は存在すると思っています。」p.160
・「私もずっとサイエンスをやってきましたが、じつは40歳過ぎてから建築家になりたいと思ったことがあるんです。」p.164
・「がんばって研究していれば、いつかは大きな発見ができるぞと思い込んで、自分の心理をコントロールできるっていうことはひじょうに重要で、これは受験で成績がいいという能力とはあまり関係がないんですね。」p.165
・「たとえば、「脳死」という問題ひとつをとっても、日本では脳が死んだときに、移植のために臓器を取り出していいかということが切実な問題になるわけです。日本では、脳が死んでもまだ生きているという考え方を持っている人が多いと思います。私の個人的な意見では、脳が死んでしまったら、その人間の死を意味するという割り切った考え方をしてしまいますね。」p.174 問題の捉え方が根本的に間違っているような。立花隆氏との対談本を出していたり、そもそも脳研究の専門家であってもこの程度の認識なのか。
・フランスの分子生物学者モノーの言葉「「地球上にはさまざまな種が発生して、滅びていった。もちろん人間もそのうちの一つの種であるが、この地球上の長い進化の過程で、唯一自分自身の種の進化を自分自身である程度決めていくことができる能力をもった最初の種である」」p.180
・バレリーナのマーゴット・フォンテーンの言葉「「バレエというのはひじょうに悲しい芸術である。バレエのすばらしさを理解し、人生が何かということも理解し、芸術の意味もやっと理解した頃には、体がいうことをきかなくなっている」」p.184