ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】白夜の旅

2007年01月28日 17時54分32秒 | 読書記録2007
白夜の旅, 東山魁夷, 新潮文庫 [草]232=1, 1980年
・日本画家である著者の1962年の北欧旅行記。デンマーク→スウェーデン→ノルウェー→フィンランド→デンマークの順に時系列で記述。口絵カラー8点、本文中カット11点挿入。
・読み始め、画家が余技で書いたとは思えぬ文章にゴーストライターの存在を疑いましたが、最後まで読んでみるとやっぱり自分で書いているようです。かなり詳細な日記をつけているのか、よっぽど記憶力がいいのか、よくこれだけ旅の様子を細かく書けるものだと感心します。40年以上も前の話ですが、不思議と古さはそう感じません。
・普段から旅行にはあまり関心がありません。特にヨーロッパなんて・・・遠すぎる、金かかる、言葉通じない。。。しかし、ノルウェーのフィヨルドの記述には興味を惹かれました。これは是非とも行ってみたい! 将来もしフィヨルドを訪れるようなことがあれば、この本がきっかけということになりますね。旅行の様子を淡々と伝えているだけではあるけれど、『人生を変えた一冊』となる可能性を秘めた本。
・東山魁夷といえば、昔、札幌の道立近代美術館での展覧会を見に行ったことがあります。そこで見た『青響』という作品の前に立ったときの衝撃は今でもはっきり覚えているほど強烈なものでした。
・「スカンディナヴィア三国を廻った人は、コペンハーゲンにきて、その人間的体臭にほっと一息つくというが、日本からはじめてデンマークへ着いた場合は、まず、この国の清潔好きに驚く。」p.21
・「私はデンマークでの旅をアンダンテにたとえたが、それならばスウェーデンの旅はアダジオといえるだろう。しかし、ノルウェーのフィヨルドではアレグロ、それも全楽器を総動員して、ティムパニーとドラムを打ち続けるクライマックスをもってしても、あの岩と水の力強い景観を表現することは不可能であると思う。」p.71
・「フィンランドの夏――いったい私達の夏というものが、この国にあるのだろうか。空は晴れて、明るい砂地の道に松林の影が濃い。しかし、空気は冷たく澄んで、勿論、蝉の声など聞こえない。春の夏と、秋の夏があって、本当の夏を知らない国。」p.93
・「どこまで行っても、湖、森、湖の国だと思う。フィンランドの人はその国をスオミ(湖の国)、と呼んでいる。六万の湖と、国土の大半を蔽う森。」p.94
・「翌朝、新聞紙には、私達の写真が載り、長文の記事が出ていた。もっとも、私達にはなんと書いてあるのか、ぜんぜん読めないのだが、とにかく、三面記事の材料がなくて新聞記者が困るという、この、のんびりした国の有様をまのあたり見て、うらやましい気持ちもした。」p.103
・「私が求めている生の表象、それは、あの火のように現在の瞬間だけに見えるものである。若い頃の私に、それが見えなかったのは、私がその火のすぐそばにいて、輪舞の群れの中に、我を忘れていたためであろうか。距離が必要だったのである。あの火の反対の極を、身近に感じるだけの距離が。」p.113
・「「あなたはどちらからですか。」と主婦が聞くので、  「日本から。」と答えると、  「ああ、あなた方は世界で一番美しい国からこられたのですね。」と言われて、私は嬉しいようなはずかしいような、妙な気持ちであった。」p.129
・「デンマークは小さな国ですが、バランスのとれた生活を出来るだけ多くの人々が持つことを念願としているのです。」p.146
・「しかし、たとえば、月を描くのに、裏側の暗黒の面まで描かなければならないかということもないと思われるのである。月は私達が見ている面だけで、美しく、充分である。ことに、画家である私にとっては。」p.148
・「デンマーク人は七度礼を言うとされている。まず、招待状を貰った時、次に招待してくれている人に、どこかで会った時に、さて招かれた家に入った時に、食事を終えた時、別れる時、翌日手紙で礼状を出す時、その後にはじめた逢った時といった具合である。西洋では珍しい風習である。」p.157
・「美しい風景を見ることは、こんどの北欧旅行の最初からの目的であったが、人々の美しい生活を見たことは、思いがけない喜びであった。」p.162
・「私が伝えたいと思うのは、今度の旅を通じて、この遠い北の国々で得た、もの静かで、清らかな人間的な感動である……」p.164
・「私は、ずっと以前から北欧の森と湖が、私を呼んでいた気がする。その遠くからの声に誘われて、自然に私の足が、北へ向って歩み寄って行ったのに違いない。」p.165
・「私にも妻にも、空路による海外への旅は初めてであった。また、当時は北極経由の航路が開かれてから、かなり早い時期でもあった。」p.167

?ハイマート(ドイツHeimat) 生まれ故郷。
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