ぴかりんの頭の中味

主に食べ歩きの記録。北海道室蘭市在住。

【本】虐げられた人びと

2006年12月28日 20時44分32秒 | 読書記録2006
虐げられた人びと, ドストエフスキー (訳)小笠原豊樹, 新潮文庫 [赤]10T(2151), 1973年
(Униженные и оскорбленные, Достоевский, 1861)

・『ドストエフスキー好き』といいつつ、『罪と罰』と短編をいくつか読んだくらいで、『白痴』も『悪霊』も『カラマーゾフの兄弟』も読んでない似非ファンです。いや、好き嫌いと読んだ数は関係ないのだ! というわけで久々のドストエフスキー。
・写真:この独特の文字のギッシリ、ミッチリ感がたまりません。この写真のワルコフスキー公爵の告白(長台詞)部分は、文学史上に残るような名場面ではないでしょうか。
・読みはじめは正直言って退屈。「この調子で最後までいくのだろうか」と不安になったりもしましたが、謎の少女ネリー(エレーナ)の登場で状況は一変しました。結果、『ドストエフスキー好き』は継続の方向で。 主人公である"私"(ワーニャ)とナターシャとアリョーシャの三角関係を中心に、ワルコフスキー公爵、マスロボーエフ、イフメーネフ老夫妻、カーチャ・・・などなどが絡み合って、コテコテドロドロの人間模様が繰り広げられます。その中にあってネリーの存在は強烈な輝きを放っています。この少女に対する著者の思い入れはなんなのか。 『人間』のもつあらゆる性質を、各登場人物を鏡にして映し出し、「人間とは何か」という巨大なテーマに真向から取り組んだ作品。
・「あのひとの場合はそのほうがいいのよ。だれだって束縛はいやでしょう、私もよ。それでも私は喜んであのひとの奴隷になるわ。自発的に奴隷になるわ。一緒にいられるのなら、あのひとの顔を見ていられるのなら、あのひとにどうあしらわれても辛抱するわ! あのひとがほかの女を愛したって構わないような気がする。それが私の目の前で起ることなら、私がそばにいられさえしたら……。」p.65
・「『脳味噌をぜんぶ掻き出して、、新しいのと入れ替えて、また元どおりにできるものなら』と私は平気で考えた。『気違い病院にでも入ってやるんだが』。それは生への渇望と信仰だった!……だが、今でも覚えているが、私はすぐに笑い出したのである。『気違い病院を出たら何をする気だ。まさかまたもや小説を書くんじゃあるまいね……』」p.80
・「きのうも、おとといも、訪ねてきたとき少女は私の質問に答えず、ただとつぜんその執拗な視線を私に注いだだけだったが、そのまなざしには不信の色や露骨な好奇心のほかに、何かしら奇妙な誇りが読みとれたのだった。だが今、少女のまなざしには厳しさと、不信の色らしきものがうかがわれた。」p.221
・「「いや、どうせりっぱな暮らしじゃないだろうとは思っていたが」と、部屋を見まわしながら彼は言った。「こんなトランクみたいなとこに住んでるとはおもわなかった。だって、こりゃあ人間の住居じゃないぜ、トランクだ。」p.223
・「「ううん、行って!」と、私が残る気なのをすぐに察してエレーナは言った。「眠いの。すぐ寝ちゃうから」  「でも一人じゃ淋しいだろう……」私はためらいながら言った。「もっとも、ぼくは二時間ぐらいで帰れるけれど……」  「ねえ、行ってよ。じゃないと、私が一年ぐらい寝てたら、あなたも一年間外に出られないわよ」。」p.227
・「愛情だけでは足りないのだ。愛情は行為によって証明されるものなのだ。ところがお前は、『苦しもうがどうしようが、とにかくおれと一緒に暮らせ』という考え方だ。それは人道に反し、品格に欠けるやり方ではないかね!」p.293
・「「一人だと、さびしい?」と、私は出がけに訊ねた。  「さびしいけど、さびしくない。さびしいのは、あなたがなかなか帰って来ないから」」p.317
・「確かトルストイの何かにありましたね。二人の男がきみ呼ばわりする約束はしたものの、どうしてもうまく言えなくて、お互いに代名詞の出てくる文句を避けたりしてね。ああ、ナターシャ!そのうちに『幼年時代と少年時代』を読み返してみようね。あれは実にいいからなあ!」p.328
・「私、ナターシャにはっきり言います。『あのひとをだれよりも愛していらっしゃるのなら、あのひとの幸福をご自分の幸福よりも先に愛してください。その場合、別れるのが当然です』って」p.375
・「あなたのお仲間の作家がどこかに書いていましたね。人間の最も偉大な功績はおのれをつねに人生の脇役に限定することができるということである……とかなんとか、そんなようなことだった!」p.388
・「『出て行きます、もう二度と帰りません。でもあなたを愛しています。  あなたに忠実なネリー』」p.432 この一文だけで泣ける。
・「私はあのひとを……母親に近い愛し方をしていたのよ。でも二人が対等に愛し合う恋愛なんて、この世の中にはあり得ないような気もする。あなたはどうお思いになる?」p.472
・以下、訳者解説より「これは死によって二重三重に縁どられた小説であると言える。」p.559
・「ただしドストエフスキーは具体的な社会的現象としての、どちらかといえば単純な人物を描こうとして、思わず知らず悪魔的な意志を――人間にひそむ「悪霊」をかなり濃厚に暗示するという結果に終った。これが現在の私たちから見てたいそう興味深い点である。」p.561

?サモワール(ロシアsamovar) ロシア独特の、炭を用いる卓上湯わかし器。銅・黄銅・銀製などで、中央に木炭などをたくパイプが通り、その周囲が水槽となっていて、外側に湯を出すコックがある。
?かんぷ【悍婦】 気のあらい女。じゃじゃ馬。
?ボードビル(フランスvaudeville) 歌と対話を交互に入れた小オペラ、歌入劇や通俗的な喜劇・舞踊・曲芸など。また、それらを取り混ぜて演じる寄席演芸。バラエティー。
?きょうふう【驚風】 1 にわかに吹く風。荒い風。  2 漢方医学で、幼児のひきつけを起こす病気をいう。脳膜炎の類。驚癇(きょうかん)。きょうふ。

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