Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(5月14日)

2022年05月14日 | COVID-19
今回のキーワードは,入院治療を要する重症COVID-19患者の認知機能は20年間の老化に相当する,急速進行型認知症の原因としてのCOVID-19,COVID-19後自己免疫性脳炎のシステマティックレビュー,神経合併症としての急性上行性壊死性脊髄炎の臨床・病理像,神経疾患患者のワクチン接種に対する躊躇の特徴と脳神経内科医の役割,です.

SARS-CoV-2ウイルスによる脳の障害は,直接の脳への感染ではなく,「全身の過剰炎症(サイトカイン)→血液脳関門破綻→自己抗体を含む有害物質の脳への流入→神経炎症等による脳ダメージ」というシナリオであることを支持するデータが集積されています.この過程には個人の免疫脳やワクチン接種等により強弱があって,強い順に「脳炎・脳症>brain fogなどのlong COVID>自分では気づきにくい認知機能低下>影響なし」となるのではないかと推測されます.「マスクはもう不要」という発言が聞かれますが,オミクロン株感染による脳炎・脳症も生じます.長期的・潜在的な認知機能への影響が判明するまでは,危険をあえて犯す必要はないと思います.

◆入院治療を要する重症COVID-19患者の認知機能は20年間の老化に相当する.
英国から2020年3月から7月の間に,単一施設で入院治療を受けた46名(16名は人工呼吸)と対照460名に対して,長期的(6.0±2.1か月)に詳細な認知機能を,精度と反応時間の複合スコア(G_SScore & G_RT)として算出した研究が報告された.結果はCOVID-19群では対照群と比較して,正確さに欠け(G_SScore=-0.53SDs),反応が遅かった(G_RT=+0.89SDs).急性期の重症度が,認知機能低下と相関した(G_SScore (p=0.0037),G_RT (p=0.0366) ).入院患者は,より高い認知機能と処理速度が障害される特徴的なプロファイルを呈し,50歳から70歳の20年間の加齢による影響とほぼ同程度であった.6ヶ月間の評価では有意な障害の改善は認めなかった.以上より,COVID-19重症例の認知障害は,急性期の重症度に強く相関し,長期持続して回復に乏しいことが分かった.
eClinicalMedicine. April 28, 2022(doi.org/10.1016/j.eclinm.2022.101417)

◆急速進行型認知症の原因としてのCOVID-19.
Nat Rev Neurol誌に「急速進行性認知症」に関する総説が発表された.論文中に「COVID-19パンデミック時の急速進行型認知症」というコラムがあり,パンデミックが急速進行性認知症の診断,治療,サーベイランスに影響を及ぼしていると記載されている.まず感染自体が,せん妄,中毒・代謝性脳症,感染後および傍感染性脳炎・脳症,脳卒中,脳脊髄炎など,急速進行性認知症の原因またはmimicsとなりうる. 感染率が極めて高いことを考慮すると,急速進行性認知症の原因が不明な場合,COVID-19関連脳症を考慮する必要がある.さらに感染や合併症が既存の神経変性疾患に及ぼす影響についても議論がなされ始めており,ウイルスの潜在的長期作用を調査する必要がある.
またパンデミックの間接的作用も考える必要がある.ロックダウンの結果,既存の認知障害やその他の精神神経症状が悪化しうること,また認知症患者では感染リスクが増加することも分かっている.プリオン病のサーベイランスシステムを含む医療システムも,ロックダウンや感染ピークに影響を受けた可能性もある.
Nat Rev Neurol. May 22, 2022(doi.org/10.1038/s41582-022-00659-0)

◆COVID-19後自己免疫性脳炎のシステマティックレビュー.
神経合併症の機序として,ウイルスによる直接障害のほか,自己免疫性脳炎などの免疫介在性炎症がある.今回,COVID-19後の自己免疫性脳炎(AE)のシステマティックレビューが報告された.対象は18論文(症例報告15,症例集積研究3.計81例)である.辺縁系脳炎7例(37%),NMDA受容体脳炎5例(26%),NORSE(New-onset refractory status epilepticus)2例(11%),ステロイド反応性脳炎1例(5%),不明4例(21%)の19例がAEとして報告されていた(図1).つまり,COVID-19に認める神経合併症の鑑別診断としてAEを挙げる必要がある.個人的に興味を持ったのは,論文内の考察で,感染後のサイトカイン上昇がAE発症に重要な役割を果たすこと(Dhillon et al. 2021),例としてNMDA受容体脳炎ではIL-6上昇に自己抗体産生を促進する役割があり,リンク因子となること(Byun et al.,2016),炎症性サイトカインの過剰産生は,血液脳関門(BBB)の透過性を高め病態に関わること(Achar and Ghosh, 2020)である.つまりAEの発症には,過剰炎症症候群(サイトカイン産生)→ 自己抗体産生促進+BBB透過性亢進という病態が関わっていると考えられるようだ.
Mult Scler Relat Disord. 2022 Apr 6;62:103795.(doi.org/10.1016/j.msard.2022.103795)



◆神経合併症としての急性上行性壊死性脊髄炎の臨床・病理像.
神経合併症として,急性上行性壊死性脊髄炎の臨床・病理像が米国から報告された.31歳の健常女性が感染後3週目に縦方向に広がる下部胸椎の脊髄症を発症した.胸髄病変は1週間で頸髄レベルまで拡大,さらに2週間で下部延髄レベルまで拡大した(図2).T5-6レベルの椎弓切除と脊髄生検を行い,病理学的にウイルス粒子やミクログリア結節を伴わない壊死性変化を認めた.感染後の免疫介在性脊髄炎と考えられた.ステロイドパルス,IVIGに引き続いてエクリズマブを使用し安定したが,退院後5ヶ月で下肢2レベルの筋力低下,T7レベルの感覚障害,尿失禁は残存した.病理学的に診断が確定した急性壊死性脊髄炎の第1例である.
Neurol Clin Pract. May 10, 2022(doi.org/10.1212/CPJ.0000000000001175)



◆神経疾患患者のワクチン接種に対する躊躇の特徴と脳神経内科医の役割.
COVID-19ワクチン接種は重症化を予防する.かつlong COVIDの予防にも有効である.にもかかわらず神経疾患を持つ人々の間で,ワクチン接種・ブースター接種への意欲は必ずしも高くない.ワクチン接種への躊躇(vaccine hesitancy)は,パンデミックを終わらせるための集団的努力を危うくするだけでなく,重症化リスクである神経疾患患者の生命を危険にさらすことになる.今回,欧州神経学会(EAN)のNeuroCOVID-19タスクフォースが,神経疾患患者に対しアンケートを行った.その結果,多発性硬化症や神経免疫疾患患者はワクチン接種に最も懐疑的であることが分かった(図3).主な懸念は,既存の神経疾患を悪化させる可能性,ワクチン接種に関連する有害事象,薬物相互作用などであった.以上を踏まえ,EANはワクチン接種を支持する者として脳神経内科医が重要な役割を果たせるよう支援を強化する.脳神経内科医はワクチン接種が患者個人にも,社会にも大きな利益をもたらすことを主張する必要がある.
Eur J Neurol. April 23, 2022(doi.org/10.1111/ene.15368)




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