Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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MRIにおける微小出血の検出はt-PA適応の除外に役に立つか?

2005年11月05日 | 脳血管障害
脳梗塞急性期においてt-PAを静注できるかどうかは患者さんの予後にきわめて大きな影響を及ぼす.t-PAは適応基準を満足する発症3時間以内の脳梗塞に対しては転帰良好例を有意に増加させるが(Level 1),一方で症候性頭蓋内出血の頻度を有意に増加させる(Level 1).t-PAの適応を考える場合,発症からの時間,血圧,活動性出血の有無,血小板数,抗凝固薬の使用,既往歴(最近の大手術,消化管または尿路系出血,心筋梗塞,頭部外傷または脳卒中の既往,圧迫止血困難な部位の動脈穿刺の有無)などを考慮する必要がある.頭蓋内出血の既往がないことも重要であるが,はたして微小出血の既往となるとどうであろうか?
脳内微小出血の既往はgradient echo (GRE) imagingを用いれば調べることができる.これは微小出血からのdeoxygenated hemoglobinをT2*強調画像においてsignal loss(hypointense lesion)として捉えるわけである.この微小出血は高血圧や脳アミロイドアンギオパチーにおいてしばしば認められる所見と言われており,脳梗塞患者の約15%に見られる.この所見は後に脳出血を来たす危険因子であるとの報告があるが,結論は出ていない.もし微小出血を認める患者さんがt-PAにより出血合併症を来たす確率が高いのであれば,あらかじめGREを施行し,微小出血ありの症例ではt-PA静注の適応から除外すべきである.
 今回,アメリカのt-PAに関する多施設共同研究グループ(DEFUSE study group)から,GREで評価した微小出血の既往が,出血性合併症の危険因子となるかについての研究が報告された.対象は70名の急性期脳梗塞患者 (平均71 ± 29 歳;女性39名).t-PA静注は発症後3-6時間(!)以内に行っている(症例を適切に選びつつ,すでにtherapeutic time windowを伸ばす試みを行っているということ).微小出血はGREにて11名(15.7%)に認めた.これら11名の患者において,t-PA静注前に症候性出血を合併した症例はなかった(一方の微小出血なし群では7/59名(11.9%)に症候性出血あり).また,両群間でt-PA静注後の出血性合併症(症候性,無症候性を問わず)の頻度にも有意差は見られなかった.以上の結果は,GREにおいて微小出血所見を認めても,t-PAの使用は可能であるということを示している.
 現在,t-PAに関してはいかにtherapeutic time windowを伸ばすか?3時間以降に静注可能な患者さんをいかに見出すか?(すなわち出血合併症を来たしにくい患者さんの特徴は何か?)逆に出血性合併症を来たす患者さんの特徴は何か?ということが,このDEFUSE studyを始め精力的に検討されている.t-PAは諸刃の刃であるので,治療に携わるものはとにかくt-PAに関するupdateなエビデンスを熟知する必要があるのではなかろうか?

Neurology 65; 1175-1178, 2005
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