Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳幹と内頚動脈が正しく形成されず自閉症を合併しうる病気

2005年11月03日 | その他
Bosley-Salih-Alorainy Syndrome(BSAS)と呼ばれる病気がある.この病気はサウジアラビアで4家系,トルコで1家系しか報告されていない本当に稀な病気であるが,最近,原因遺伝子が明らかになり,たまたま著者の講義を聞く機会があったのでまとめておく(その著者はBSAの最初の名前,Bosleyなのだが,ハンサムな順番に名前を並べたので私が先頭なのだとジョークを飛ばしていた).
この疾患は,臨床的には先天性眼球運動障害(Duane syndrome),脳幹と内頚動脈の形成不全,感音性難聴を認める.頭部MRIでは,一見,異常がないように見えて外転神経が同定できない.高率に難聴を認めるが,蝸牛・半規管の形成不全が認められる.一側ないし両側の頚動脈孔形成不全や,内頚動脈の低形成~無形成も認められる(この場合,posterior circulationとくにbasilar aが非常に太くに発達していて血流を供給している).両親には異常はない.
著者らはSNP-basedの連鎖解析をサウジの1家系に対して行い(新しい方法),7p15.3-p14.3の8.5-Mb 領域が罹患者でのみホモ接合であることを見出し,その後,マーカーを増やし約300 kbまで候補領域を絞った.その後,BSASの症状がHoxa1 -/- mouse(KOマウス)に似ていることから(このKOマウスは自閉症的表現形質特性を持っている),Hoxa1遺伝子をシークエンスしたところ,175-176insG変異をホモで見つけたわけである(これは蛋白の長さが短くなるtruncating mutationであった).次にトルコの家系では84C-G transversion変異が見つかった.Athabaskan brainstem dysgenesis syndromeというBSASと似た病気があるそうだが,この疾患でも76C-T 変異を認めた(つまりallelic variant).いずれの変異もtruncating mutationで,これらの病気はHOXA蛋白のloss of functionに伴う疾患と考えられる.
 さて,このHoxa1遺伝子だが,動物の形づくりに重要な働きをする「ホメオボックス遺伝子」のひとつであり,その遺伝子産物であるHOXA1は後脳(hindbrain)の発達に不可欠な遺伝子と推測されていた.この病気は確かに稀なのだが,実は原因遺伝子発見の意義はかなり大きく,少なくとも3点挙げられると思う.①これまで哺乳類においてはホメオボックス遺伝子の変異は同定されていなかったが,それが初めて報告された.② HOXA1が中枢神経の発達に不可欠であることも今回,初めて証明された.③自閉症発症に関与する遺伝子である可能性が高まった(レット症候群の原因遺伝子MECP2遺伝子に続き2個目か?).今後,この蛋白のloss of functionがどのような機序で自閉症や種々の奇形に関わっていくのか,とくに遺伝子多型が表現型として現れるのかなど,さらに検討が進められることになると思う.

Nature Genet 1035-1037, 2005
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