Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

Twitter @pkcdelta
https://www.facebook.com/GifuNeurology/

ALS患者さんの栄養管理をどのように行うべきか?

2015年07月19日 | 運動ニューロン疾患
「筋萎縮性側索硬化症の栄養管理」に関して,医師,栄養サポートチーム(NST)の先生方に講演をさせていただく機会をいただきました.発表スライドは,Slideshare(下記リンク)にアップロードしましたので御覧ください.議論した内容は以下の5点に要約されます.

1)体重減少の予後への影響とメカニズム
体重減少はALSの予後不良を示唆する因子であるとする複数のエビデンスがある.逆に体重の維持や,体重が重いことは予後良好を示唆する.体重減少のメカニズムのメカニズムとしては,骨格筋の喪失,嚥下・咀嚼障害,頸部・上肢の筋力低下による食事困難のほか,エネルギー代謝亢進がある.

2)エネルギー代謝亢進のメカニズムと介入研究
ALS動物モデルでの検討で,エネルギー代謝亢進の存在が示唆されている.同モデルで,体重を維持する高カロリー食・高脂肪食は予後を改善することが報告され,ヒトにおいても複数の臨床試験(高カロリー食・高脂肪食・体重増加をもたらすオランザピン)が行われている.ヒトにおいても高カロリー食の効果が報告されているが,高脂肪食は体重減少をもたらす可能性があり,現時点では勧められない.

3)経管栄養開始時期についての新しい考え方
米国では,経管栄養の開始時期について大きな考え方の変更がなされた.1日総エネルギー消費量(TDEE)の計算式ができたことの影響が大きい.これは年齢,身長,体重,ALSFRSのうちの6項目の情報があれば計算できる.このTDEEと実際のエネルギー摂取量を比較し,ネガティブバランスになった時点で,経管栄養を開始する.日本人向けTDEE計算式もできた.

4)経口摂取アップの工夫
経口摂取を上手に行うためには,「カロリーアップ,食事支援(道具の利用),看護」の3方向からのアプローチを考える.栄養士,リハビリ,看護とともに協力して進めることが望ましい.また誤嚥,脱水,便秘は経口摂取の妨げとなるため,それぞれに対する対策が必要である.

5)経管栄養・胃瘻造設と高浸透圧高血糖状態
体重を維持し,予後を改善するという経管栄養の利点を患者さんによく理解していただくことが大切.また呼吸機能をこまめに確認し,胃瘻造設が安全に施行できるのタイミングを逃さないことも大切.四肢麻痺,totally locked-in症候群では急激に必要カロリーが減少することを認識し,高浸透圧高血糖状態(hyperosmotic hyperglycemic state: HHS)にならないよう注意することが大切.

以下,スライドへのリンクです.
筋萎縮性側索硬化症の栄養管理


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ナルコレプシー タイプ1,2... | TOP | 多系統萎縮症の生前診断は難... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 運動ニューロン疾患