Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳のなかの細胞のように人と人も助け合おう!

2024年08月01日 | パーキンソン病
タイトルは昨日の朝のカンファレンスで教室のみんなに話したことです.由来は最新号のNeuron誌の論文で,ボン大学などの国際共同研究になります.パーキンソン病の病因タンパクとされるαシヌクレイン(αSyn)を発現する初代培養神経細胞(ニューロン)を,免疫細胞ミクログリアと共培養すると,ミクログリアの細胞内のアクチンが再構成されてできる「ナノチューブのトンネル」を通してニューロンと結合し,有害な凝集αSynを引き受けてそれを除去することが示されました(図1, 2).さらに驚くべきことにミクログリアは,細胞の動力源ともいえるミトコンドリアをニューロンに送り込み,その結果,ニューロンの酸化的ストレスを大幅に軽減させてその生存を助けることも示されました.





加えてパーキンソン病に関連するLRRK2遺伝子(PARK8の原因遺伝子),もしくは前頭側頭型認知症やアルツハイマー病に関連するTrem2遺伝子に変異をもつミクログリアを準備し,同様の実験を行ったところ,ニューロンに対する保護効果は弱まってしまうそうです.つまりこれらの遺伝性疾患の病態にミクログリアによる保護効果の減弱が関わっているのではないかと推察しています.もしかしたら孤発性(非遺伝性)のパーキンソン病でも,ミクログリアによるαSynの分解能の個人差があって,発症に関与するかもしれません.やはりミクログリアは重要な研究ターゲットだと思いました.

ちなみにこのチームは2021年にCell誌に注目すべき研究を報告しています(過去にブログで紹介しました:下記).ミクログリアは炎症を引き起こす悪玉細胞というイメージがありますが,それを否定する内容です.まずミクログリアは凝集αSynを分解しようと迅速に取り込みます.しかし取り組み量が増えるにつれ分解能力は低下するだけでなく,炎症性サイトカインや活性酸素種を放出し,これが自身の細胞死につながります.これを防ぐため,瀕死のミクログリアの周りに元気なミクログリアが集まり,ナノチューブのトンネルによって繋がります.図3の緑がαSyn,青がミクログリアの核,赤がミクログリアの細胞骨格のFアクチンを示しますが,αSynを取り込んだ中央下のミクログリアの周囲に元気なミクログリアが複数集まって協力するのです.



教室のみんなには「脳の中では細胞同士が健気に助け合っているのに,どうして本体の人間の方は戦争など争いごとが絶えないのだろう.脳の中の細胞のように助け合っていかねばならないよね」と話しました.

Scheiblich H, et al. Microglia rescue neurons from aggregate-induced neuronal dysfunction and death through tunneling nanotubes. Neuron. 2024 Jul 23:S0896-6273(24)00491-4. (doi.org/10.1016/j.neuron.2024.06.029

論文の解説と図2の動画を見ることができます.
https://www.uni.lu/lcsb-en/news/building-bridges-between-cells-for-brain-health/

Cell論文の解説ブログ
https://blog.goo.ne.jp/pkcdelta/e/65b35c0bf632b8d4c2c238b68f0e65d6
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