Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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中等度~高度の頭部外傷後の認知症発症の予測に有用な血漿バイオマーカー ―発症メカニズムはアルツハイマー病と異なる―

2024年10月06日 | 認知症
Lancet委員会が報告した認知症の修正可能な14の因子の中に「頭部外傷」が含まれています.今回,Brain誌にオーストラリアから,慢性外傷性脳損傷(TBI)における認知機能障害のメカニズムを明らかにする目的で,血漿バイオマーカーを検討した研究が報告されました.

対象は,サッカー,ラクビー,アメフトのような複数回の頭部打撲を繰り返す人ではなく,中等度から重度のTBIを1回受傷し,その外傷から10年以上(平均22年)経過した患者です.具体的にはTBI患者90名と,健常者32名を対象としています.TBIの原因としては自動車事故(57%),歩行中の自動車との衝突(16%),オートバイ事故(8%),転倒(6%),自転車事故(6%)でした.方法としては,血漿バイオマーカー(UCH-L1,リン酸化タウ[P-tau181]など)と画像診断を組み合わせています.

さて結果ですが,TBI患者では健常者と比較してUCH-L1およびP-tau181値がそれぞれ67%ないし27%と,有意に上昇していました(AUC はそれぞれ0.616,0.632)(図上).それぞれのマーカーは以下のような意味を持つため,神経細胞損傷や軸索損傷,神経変性が継続している可能性を示唆しています.



◆UCH-L1(ユビキチンC末端ヒドロラーゼL1):神経の軸索の維持や輸送,タンパク質の代謝に関与する.外傷やストレスがかかると,神経細胞から放出され血中に増加する.
◆P-tau181(リン酸化タウタンパク質181):アルツハイマー病などの診断マーカーとして知られている.脳内での持続的な神経変性プロセスが進行している可能性を示唆する.

一方,PET検査で,アミロイドβやタウの蓄積はこれらのTBI患者には認めなかったため,TBIの神経障害の過程はアルツハイマー病とは異なる可能性が示唆されました(物理的脳損傷と異常蛋白の蓄積では病態が異なる可能性?TBIでは蓄積するタウの量が少なく検出困難な可能性?もしくは蓄積するタウの種類が異なり,PETで検出できない可能性?など).またMRIの解析では,TBI患者では白質の微細構造に広範な変化が生じており,これが認知機能の低下と関連する可能性が示唆されました.さらに言語エピソード記憶の低下はP-tau181およびUCH-L1値の上昇と関連していることも示されました(図下).

以上のようにUCH-L1およびP-tau181はTBI後の神経病理変化の進行を追跡するための有望なバイオマーカーであること,またTBIの病態はアルツハイマー病とは異なることが示されました.アメフト,ラグビー,サッカーなどのコンタクトスポーツによる慢性外傷性脳症でもこのような変化が認められるか,おそらく検討されることになると思います.

Spitz G, et al. Plasma biomarkers in chronic single moderate-severe traumatic brain injury. Brain. 2024 Sep 24:awae255.(doi.org/10.1093/brain/awae255


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