Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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成人脳性麻痺の特徴と脳神経内科医の役割・教育

2021年03月23日 | 医学と医療
脳性麻痺は,胎児や乳児の発達中の脳の障害に起因する運動障害を主徴とする疾患である.私は週1回,近隣の病院で重度心身障害者の回診をさせていただいており,成人の脳性麻痺患者さんを多数診察する機会を持った.そこで驚いたことは,脳性麻痺は定義上,非進行性の疾患のはずなのに,実は認知症をはじめとする様々な進行性の変化を認めるということである.

今回,米国の小児神経科医による印象的な総説を読んだ.既報109論文を用いて,脳性麻痺における加齢に伴う変化について調査したものであった.分かりやすいビジュアル・アブストラクトが作成されているが(図),成人脳性麻痺では,脳卒中,脊髄症,運動能力の低下,慢性疲労,慢性疼痛が新たに出現することが示されている.例えば脳卒中のハザード比は,危険因子を調整しても2倍,脊髄症に至っては8倍で,ジストニアを認める脊髄症をきたしやすい症例以外でも合併しやすいことが示されている.さらに痙性・ジストニア,認知症,てんかん,睡眠障害,不安やうつなど精神疾患の頻度も高い可能性が示唆されている.なぜこのようなことが起こるのか,原因はまったく分からないが,少なくとも成人脳性麻痺における合併症のメカニズムの解明と予防・治療・ケアが重要であることが分かる.



しかし大きな障壁がある.小児神経科医は,成人の医療に不慣れであり,逆に脳神経内科医は,小児の医療に不慣れで,小児期発症の障害が成人の生理にどのように影響するかについてほとんど理解できていないことだ.つまりこの問題は「移行期医療」の問題,小児期発症の病気を抱えたまま成人年齢に達した方が年齢に見合った包括的な医療を受けられるようにすることにほかならない.「移行期医療」の対象疾患は,脳性麻痺のみならず,てんかんから小児神経筋疾患まで多岐にわたる.この「移行期医療」をスムーズに実現するために必要なのは,脳神経内科の教育プログラムに小児神経学のトレーニングを追加することだと本論文は述べている.本邦でも,現在のように脳神経内科専攻医は内科学のみ研修するプログラムでなく,関連する領域と必要に応じて自由に交流し,初期研修とは異なる高いレベルの研修が望まれる.具体的には小児科,精神科,脳神経外科,リハビリ科等々を含めた,柔軟な教育システムの再構築が必要であろう.
Smith SE, et al. Adults with Cerebral Palsy Require Ongoing Neurologic Care: A Systematic Review. Ann Neurol. 2021 Feb 7.(doi.org/10.1002/ana.26040)

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