若い頃の話ですが,自閉症スペクトラム障害(ASD)の子供の育児に悩む母親から,私が抗てんかん薬を内服していたせいでしょうかと質問されたことがあります.当時そのようなエビデンスはなく,先天奇形のリスクが増加しない程度の内服量であり,またASDはおよそ100人に1人と稀ではないため,因果関係は考えにくいと答えました.ただ本当にそう言い切れるのかと疑問を感じた記憶が残っています.
今回,てんかんを有する女性に対して処方された抗てんかん薬が,児の神経発達障害を引き起こすかを検討した北欧のデータベース研究(SCAN-AED)が報告されました.てんかんを持つ母親から産まれた抗てんかん薬非暴露児21634人のうち,中央値8歳までにASDと診断されたのは1.5%,知的障害は0.8%でした(対照群の頻度).一方,トピラマートとバルプロ酸の単剤療法を受けた場合,ASDはそれぞれ4.3%と2.7%,知的障害は3.1%と2.4%と増加しました.トピラマート曝露後のASDと知的障害の調整ハザード比(aHR)はそれぞれ2.8と3.5,バルプロ酸曝露後は2.4と2.5でした.抗てんかん薬の使用量が多いほどaHRは高くなりました(例えばバルプロ酸は750 mgで分けるとaHR 2.27と5.64).レベチラセタム+カルバマゼピン,ラモトリギン+トピラマートの二剤併用療法も神経発達障害のリスク増加と関連しました(レベチラセタム+カルバマゼピン:8年累積発生率5.7%,aHR 3.46;ラモトリギン+トピラマート:同7.5%,2.35).レベチラセタムとラモトリギンの併用では,リスクの増加はなく,ラモトリギン,レベチラセタム,カルバマゼピン,オクスカルバゼピン,ガパペンチン,プレガバリン,クロナゼパム,フェノバルビタールの単独療法もリスク増加は認めませんでした.女性への抗てんかん薬の処方時,下図はとても重要になります.
以上より,トピラマートとバルプロ酸の単独療法,および一部の二剤併用療法は,児の神経発達障害のリスク上昇と関連することを認識する必要があります.
Association of Prenatal Exposure to Antiseizure Medication With Risk of Autism and Intellectual Disability.
Marte-Helene Bjørk, et al. JAMA Neurol. 2022;79(7):672-681. doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.1269
今回,てんかんを有する女性に対して処方された抗てんかん薬が,児の神経発達障害を引き起こすかを検討した北欧のデータベース研究(SCAN-AED)が報告されました.てんかんを持つ母親から産まれた抗てんかん薬非暴露児21634人のうち,中央値8歳までにASDと診断されたのは1.5%,知的障害は0.8%でした(対照群の頻度).一方,トピラマートとバルプロ酸の単剤療法を受けた場合,ASDはそれぞれ4.3%と2.7%,知的障害は3.1%と2.4%と増加しました.トピラマート曝露後のASDと知的障害の調整ハザード比(aHR)はそれぞれ2.8と3.5,バルプロ酸曝露後は2.4と2.5でした.抗てんかん薬の使用量が多いほどaHRは高くなりました(例えばバルプロ酸は750 mgで分けるとaHR 2.27と5.64).レベチラセタム+カルバマゼピン,ラモトリギン+トピラマートの二剤併用療法も神経発達障害のリスク増加と関連しました(レベチラセタム+カルバマゼピン:8年累積発生率5.7%,aHR 3.46;ラモトリギン+トピラマート:同7.5%,2.35).レベチラセタムとラモトリギンの併用では,リスクの増加はなく,ラモトリギン,レベチラセタム,カルバマゼピン,オクスカルバゼピン,ガパペンチン,プレガバリン,クロナゼパム,フェノバルビタールの単独療法もリスク増加は認めませんでした.女性への抗てんかん薬の処方時,下図はとても重要になります.
以上より,トピラマートとバルプロ酸の単独療法,および一部の二剤併用療法は,児の神経発達障害のリスク上昇と関連することを認識する必要があります.
Association of Prenatal Exposure to Antiseizure Medication With Risk of Autism and Intellectual Disability.
Marte-Helene Bjørk, et al. JAMA Neurol. 2022;79(7):672-681. doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.1269