Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(4月2日)  

2022年04月02日 | COVID-19
今回のキーワードは,退院から1年経ったCOVID-19入院患者の87%で,機能的,認知的,QoL的障害が持続している,退院から1年経った入院患者で最も影響を受ける認知機能は,処理速度,長期視空間記憶,言語記憶である,2回のワクチン接種でlong COVIDのリスクは約41%低下する,COVID-19ワクチン接種はMOG抗体関連疾患の誘因となる??です.

米国とイタリアからCOVID-19で入院患者の1年後の評価で,認知知能障害が少なからず見られ,6ヶ月後との比較で,回復も思わしくないことが示されています.イタリアの研究では,低酸素血症がその一因である可能性を明らかにするとともに,嗅覚・味覚障害が空間長期記憶の悪化と関連することを示しており,ウイルスによる直接的・間接的な脳障害の可能性が示唆されます.また2回のワクチン接種によってlong COVIDを発症する確率が約41%減少することがプレプリント論文で報告されました.long COVID予防を目指した治療研究が複数始まっていますが,現状,ワクチンが最も有効と言えます.しかし抑制されるといってもその効果は限られており,感染後多くの人がlong COVIDを経験する危険があります.極力感染を防止することが重要です.

◆退院から1年経ったCOVID-19入院患者の87%で,機能的,認知的,QoL的障害が持続している.
米国からCOVID-19入院患者242名(中央値65歳,男性64%,気管内挿管患者34%)の12ヵ月後の予後について検討した研究が報告された.評価は退院後6および12ヶ月に行った.主要評価項目は,修正Rankinスケール(mRS),副次的評価項目は,日常生活動作(Barthel Index),モントリオール認知機能評価(t-MoCA),不安,うつ,疲労,睡眠に関するNeuro-QoLバッテリーとした.入院12ヵ月後では,87%の患者で機能的,認知的,Neuro-QoL指標の障害が持続していた.6ヵ月から12ヵ月での変化では,t-MoCAスコアで56%,不安スコアで45%の有意な改善がみられた(図1).一方,疲労,睡眠,うつ病のスコアは,それぞれ48%,48%,38%で改善がみられたが有意ではなかった.BarthelスコアとmRSスコアは,50%以上の患者で変化がなかった.退院後1年が経過しても神経学的後遺症は改善しにくいことが示唆される.
Neurology. 2022 Mar 21:10.1212/WNL.0000000000200356.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200356)



◆退院から1年経った入院患者で最も影響を受ける認知機能は,処理速度,長期視空間記憶,言語記憶である.
イタリアからもCOVID-19入院患者76名(22~74歳)の1年後の認知機能を評価した研究が報告された.5ヶ月後(76名)および12ヶ月後(53名)に神経心理学的評価を行った.63.2%の患者が,5ヶ月の時点で少なくとも1つのテストに異常を認めた.5ヶ月と比較して,言語記憶,注意,処理速度は1年後に有意に改善したが,視空間記憶は改善しなかった.1年後に最も影響を受けた領域は,処理速度(28.3%),長期視空間記憶(18.1%)と言語記憶(15.1%)であった.急性期におけるPaO2/FiO2比の低下は,5ヵ月後の言語性長期記憶(P=0.029)および視空間学習(P=0.041)の悪化と関連していた.5か月後の視空間長期記憶の悪化は,嗅覚障害(P=0.020)および味覚障害(P=0.037)と関連していた.以上より1年後にも認知機能障害が認められることが示された.COVID-19入院患者は定期的に認知機能の評価を受ける必要がある.
Eur J Neurol. 2022 Mar 14.(doi.org/10.1111/ene.15324)

◆2回のワクチン接種でlong COVIDのリスクは約41%低下する.
COVID-19感染前にワクチン接種を2回受けると,long Covidの発症リスクが低下するかどうかを検討した研究(プレプリント論文)が英国から報告されている.ワクチン2回接種者と非接種者を比較し,感染後12週間以上のlong Covidの調整オッズ比を推定した.経過観察期間は中央値で96日であった.この結果,long COVIDは2回ワクチン接種者3090人のうち294人(9.5%),非接種者では452人(14.6%)に認め,調整オッズ比は0.59(95%信頼区間0.50~0.69)であった.つまり,2回のワクチン接種を受けたひとが,その後,感染した場合,ワクチン接種によってlong COVIDを発症する確率が約41%減少することになる.アデノウイルスベクターとmRNAワクチンによる差は認めなかった.ワクチン接種はlong COVIDのリスクを低下させる.
→ ワクチンでlong COVIDは抑制されるものの,それでもまだ多くの人がlong COVIDの危険にさらされている.
medRxiv 2022.02.23.22271388; doi: https://doi.org/10.1101/2022.02.23.22271388

◆COVID-19ワクチン接種はMOG抗体関連疾患の誘因となる??
東北大学からCOVID-19ワクチン2回め接種の14日後にMOG抗体関連疾患(MOGAD)を発症した1例が報告されている.68歳女性で,2回目のモデルナワクチン接種後14日目から徐々に右顔面(V2,V3領域)のしびれが悪化し受診した.頭部MRIでは右小脳脚の造影病変を認めた(図2).血清MOG-IgG陽性,脳脊髄液中オリゴクローナルバンド陽性,その他の自己抗体は陰性であった.ステロイドパルス療法を2クール施行し,症状は改善し,小脳脚部病変も若干縮小した.既報ではCOVID-19ワクチン接種後の単相性MOGADは,アストラゼネカワクチンとモデルナワクチンで1例ずつのみで,予後は典型的なMOGADと概ね同様であった.



また欧州からSARS-CoV-2 IgG抗体陽性は,MOGAD患者では対照群よりも有意差はつかないまでも多いこと(12/30;40%対6/30; 20%,p = 0.16),診断例数は過去3年間で増加していること(10.6%→12.3%→14.7%)を示し,COVID-19とMOGADの関連が議論されている.
→ワクチンが直接引き起こす可能性と,もともと素因があってワクチンが発症の引き金となった可能性があるように思われる.
Front Neurol. 2022 Mar 1;13:845755. doi: 10.3389/fneur.2022.845755.
Eur J Neurol. 2022 Feb 27. doi: 10.1111/ene.15304.

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