今回のキーワードは,感染1年後でも神経学的後遺症に苦しむ患者は相当数存在する,小児および青年におけるlong COVIDの有病率は25%,Long COVIDの4つの病態仮説,危険因子,そして発症前後のワクチンの効果,ファイザーワクチン接種後の頭痛の特徴です.
Long COVIDについてはいまだ病態も治療も不明のことが多いです.ただ感染から1年を経過しても,嗅覚障害を含め改善を認めない患者が少なくないこと,また小児・青年でも生じうることが分かってきました.よって COVID-19は風邪やインフルエンザと同じなどという発言はまったく科学的根拠に基づくものではありません.一方,プレプリント論文ながら,ワクチン接種は,感染後であってもlong COVIDのリスクを減少させる可能性が指摘されていました.今回,Science誌の総説でも取り上げていますのでご紹介します.
◆感染1年後でも神経学的後遺症に苦しむ患者は相当数存在する.
オーストリアからCOVID-19感染後の神経症状を,1年後まで観察した前向き多施設縦断コホート研究が報告された.対象は81名(男性59%).新規かつ持続的な神経疾患は3ヶ月後で15%,1年後で12%であった(診断としてはneuropathy/myopathyが多い).1年後の神経症候は48/81名(59%)で認め,多い順に疲労(38%),集中力低下(25%),物忘れ(25%),睡眠障害(22%),筋痛(17%),四肢筋力低下(17%),頭痛(16%),感覚障害(16%),嗅覚低下(15%)であった(図1).嗅覚低下も含め,52/81例(64%)の患者で経時的な改善を認めなかった.認知障害は18%,うつ病,不安,心的外傷後ストレス障害はそれぞれ6%,29%,10%であった.以上より,COVID-19感染から1年経過しても神経学的後遺症に苦しむ患者が相当数存在することが示され,これらの患者に対する集学的管理の必要性が示唆された.
Eur J Neurol. March 3, 2022(doi.org/10.1111/ene.15307)
◆小児および青年におけるlong COVIDの有病率は25.24%.
小児および青年におけるlong COVIDに関するシステマティック・レビュー,メタ解析が報告された(プレプリント論文).21件の論文,計8万0071人の小児および青年が対象となった.Long COVIDの有病率は25.24%であり,最も多く見られた臨床症状は,気分症状(mood symptom)16.50%,疲労9.66%,睡眠障害8.42%であった.発症の危険因子は,持続的な呼吸困難(オッズ比2.69),嗅覚・味覚障害(10.68),発熱(2.23)であった.
medRxiv. March 13, 2022(doi.org/10.1101/2022.03.10.22272237)
◆ Long COVIDの4つの病態仮説,危険因子,そして発症前後のワクチンの効果.
Science誌に,Yale大学Iwasaki教授らによるCOVID-19の免疫病態に関する総説が発表されている.COVID-19全般を議論しているが,ここではlong COVIDに関してご紹介したい.
まず病態仮説として,(i)組織内のウイルスまたはウイルス抗原・RNAにより引き起こされる慢性炎症,(ii)急性ウイルス感染後に誘発される自己免疫,(iii)細菌叢またはウイルス叢の構成異常(dysbiosis),(iv) 未修復組織傷害などが考えられる(図2).またLong COVIDの危険因子として,患者309名(71%が入院)の初診から2〜3ヵ月後までの縦断的な調査により,初診時の2型糖尿病,SARS-CoV-2 RNA血症,Epstein-Barrウイルス血症,自己抗体の4つが同定されている (Y. Su et al., Cell 2022).
一方,ワクチンがlong COVIDに影響を与える可能性を示す3つの研究を紹介している.
①自己報告データを用いた前向き症例対照研究で,感染前のワクチン2回接種(906名)は,未接種(906名)と比較して,28日後のlong COVIDのリスクを減少させた(Antonelli et al. Lancet Infect Dis 2021).
②long COVID患者1296名の解析で,感染後38日以内のワクチン接種が,感染後120日のlong COVIDのリスクを有意に減少した(Tran V-T, et al, Lancet preprint 2021; doi.org/10.2139/ssrn.3932953).
③感染後12週間以内のワクチン接種は,24万648人の感染者の後方視的解析で,long COVIDの発症リスクの減少と関連する (Simon MA, et al. medRxiv 2021.2011.2017.21263608; doi.org/10.1101/2021.11.17.21263608).
ワクチンがどのようにlong COVIDを予防/改善するかは不明である.ワクチンによって誘発される抗スパイク抗体とT細胞が,残存抗原やウイルス粒子のクリアランスを促進し,慢性炎症の原因を排除している可能性がある.またワクチンによって誘導されたサイトカインが自己反応性リンパ球に作用し,病原性サイトカインの産生を停止させ,もしくは病原性リンパ球を再プログラムしている可能性もある.
Science. 2022 Mar 11;375(6585):1122-1127(doi.org/10.1126/science.abm8108)
◆ファイザーワクチン接種後の頭痛の特徴.
ファイザーワクチン接種後に認める頭痛に関する多施設共同観察コホート研究が報告された.オンライン質問票を用いて,ドイツとアラブ首長国連邦の2349名が検討された.頭痛はワクチン接種後平均18.0±27.0時間で発生し,平均14.2±21.3時間持続した.頭痛の特徴は,単回エピソードが66.6%,両側性が73.1%,部位は前頭部が38.0%,側頭部が32.1%であった.痛みの特徴は「圧迫されるような痛み」が49.2%,「鈍痛」が40.7%であった.痛みの強さは,中等度46.2%,重度32.1%,非常に重度8.2%であった.最も多い随伴症状は,疲労38.8%,極度の疲労25.7%,筋痛23.4%であった.日常生活動作の影響は不変50.7%,増悪42.8%,改善 6.5%であった.
Brain Communications, Volume 3, Issue 3, 2021, fcab169(doi.org/10.1093/braincomms/fcab169)
Long COVIDについてはいまだ病態も治療も不明のことが多いです.ただ感染から1年を経過しても,嗅覚障害を含め改善を認めない患者が少なくないこと,また小児・青年でも生じうることが分かってきました.よって COVID-19は風邪やインフルエンザと同じなどという発言はまったく科学的根拠に基づくものではありません.一方,プレプリント論文ながら,ワクチン接種は,感染後であってもlong COVIDのリスクを減少させる可能性が指摘されていました.今回,Science誌の総説でも取り上げていますのでご紹介します.
◆感染1年後でも神経学的後遺症に苦しむ患者は相当数存在する.
オーストリアからCOVID-19感染後の神経症状を,1年後まで観察した前向き多施設縦断コホート研究が報告された.対象は81名(男性59%).新規かつ持続的な神経疾患は3ヶ月後で15%,1年後で12%であった(診断としてはneuropathy/myopathyが多い).1年後の神経症候は48/81名(59%)で認め,多い順に疲労(38%),集中力低下(25%),物忘れ(25%),睡眠障害(22%),筋痛(17%),四肢筋力低下(17%),頭痛(16%),感覚障害(16%),嗅覚低下(15%)であった(図1).嗅覚低下も含め,52/81例(64%)の患者で経時的な改善を認めなかった.認知障害は18%,うつ病,不安,心的外傷後ストレス障害はそれぞれ6%,29%,10%であった.以上より,COVID-19感染から1年経過しても神経学的後遺症に苦しむ患者が相当数存在することが示され,これらの患者に対する集学的管理の必要性が示唆された.
Eur J Neurol. March 3, 2022(doi.org/10.1111/ene.15307)
◆小児および青年におけるlong COVIDの有病率は25.24%.
小児および青年におけるlong COVIDに関するシステマティック・レビュー,メタ解析が報告された(プレプリント論文).21件の論文,計8万0071人の小児および青年が対象となった.Long COVIDの有病率は25.24%であり,最も多く見られた臨床症状は,気分症状(mood symptom)16.50%,疲労9.66%,睡眠障害8.42%であった.発症の危険因子は,持続的な呼吸困難(オッズ比2.69),嗅覚・味覚障害(10.68),発熱(2.23)であった.
medRxiv. March 13, 2022(doi.org/10.1101/2022.03.10.22272237)
◆ Long COVIDの4つの病態仮説,危険因子,そして発症前後のワクチンの効果.
Science誌に,Yale大学Iwasaki教授らによるCOVID-19の免疫病態に関する総説が発表されている.COVID-19全般を議論しているが,ここではlong COVIDに関してご紹介したい.
まず病態仮説として,(i)組織内のウイルスまたはウイルス抗原・RNAにより引き起こされる慢性炎症,(ii)急性ウイルス感染後に誘発される自己免疫,(iii)細菌叢またはウイルス叢の構成異常(dysbiosis),(iv) 未修復組織傷害などが考えられる(図2).またLong COVIDの危険因子として,患者309名(71%が入院)の初診から2〜3ヵ月後までの縦断的な調査により,初診時の2型糖尿病,SARS-CoV-2 RNA血症,Epstein-Barrウイルス血症,自己抗体の4つが同定されている (Y. Su et al., Cell 2022).
一方,ワクチンがlong COVIDに影響を与える可能性を示す3つの研究を紹介している.
①自己報告データを用いた前向き症例対照研究で,感染前のワクチン2回接種(906名)は,未接種(906名)と比較して,28日後のlong COVIDのリスクを減少させた(Antonelli et al. Lancet Infect Dis 2021).
②long COVID患者1296名の解析で,感染後38日以内のワクチン接種が,感染後120日のlong COVIDのリスクを有意に減少した(Tran V-T, et al, Lancet preprint 2021; doi.org/10.2139/ssrn.3932953).
③感染後12週間以内のワクチン接種は,24万648人の感染者の後方視的解析で,long COVIDの発症リスクの減少と関連する (Simon MA, et al. medRxiv 2021.2011.2017.21263608; doi.org/10.1101/2021.11.17.21263608).
ワクチンがどのようにlong COVIDを予防/改善するかは不明である.ワクチンによって誘発される抗スパイク抗体とT細胞が,残存抗原やウイルス粒子のクリアランスを促進し,慢性炎症の原因を排除している可能性がある.またワクチンによって誘導されたサイトカインが自己反応性リンパ球に作用し,病原性サイトカインの産生を停止させ,もしくは病原性リンパ球を再プログラムしている可能性もある.
Science. 2022 Mar 11;375(6585):1122-1127(doi.org/10.1126/science.abm8108)
◆ファイザーワクチン接種後の頭痛の特徴.
ファイザーワクチン接種後に認める頭痛に関する多施設共同観察コホート研究が報告された.オンライン質問票を用いて,ドイツとアラブ首長国連邦の2349名が検討された.頭痛はワクチン接種後平均18.0±27.0時間で発生し,平均14.2±21.3時間持続した.頭痛の特徴は,単回エピソードが66.6%,両側性が73.1%,部位は前頭部が38.0%,側頭部が32.1%であった.痛みの特徴は「圧迫されるような痛み」が49.2%,「鈍痛」が40.7%であった.痛みの強さは,中等度46.2%,重度32.1%,非常に重度8.2%であった.最も多い随伴症状は,疲労38.8%,極度の疲労25.7%,筋痛23.4%であった.日常生活動作の影響は不変50.7%,増悪42.8%,改善 6.5%であった.
Brain Communications, Volume 3, Issue 3, 2021, fcab169(doi.org/10.1093/braincomms/fcab169)