Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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機能性神経障害の病名告知や診断に関して気になった2つの論文

2024年01月17日 | 医学と医療
機能性神経障害(functional neurological disorder;FND)はパンデミック後,もしくはワクチン接種後,明らかに私の外来で増えた疾患です.複数の病院を受診後,診断がつかず紹介されますが,陽性徴候から適切に診断し,病名を説明するだけで改善する方も半数近くおり,その診断はきわめて重要です.

この疾患はこれまでヒステリー,心因性疾患,転換性障害,解離性障害,身体化障害,身体表現性障害,心気症,Munchausen症候群,詐病など,さまざまな病名で呼ばれてきました.しかしこれらの病名は証明されていない病因を意味し,患者さんに不快感・害を与えるため,近年,FNDの使用頻度が増えています.FNDは心と身体のいずれが原因かに言及しないため患者さんと共有しやすく,症状の回復にプラスに作用すると言われています.今年にはいって,FNDの病名告知や診断に関して気になった論文(commentary)が2つ続きましたのでご紹介します.

論文1.Kapur N, et al. Words Matter. “Functional Neurologic Disorder” or “Functional Symptom Disorder”? Neurol Clin Pract. April 2024 issue 14 (2) https://doi.org/10.1212/CPJ.0000000000200238

主旨:患者さんに対する診断名として,FNDではなく,Functional symptom disorder(機能性+症状名)を使用すべき.

最新のNeurol Clin Pract誌に発表されたもので,ロンドンのKapur先生ら(心理学)によるものです.FNDという用語は転換性障害や解離性障害よりも病因論的に中立な用語であるものの,一部の患者や家族は「neurological disorder(神経障害)」の部分から器質的・構造的な神経疾患と混同してしまうため,時に害をもたらす病名であると主張しています.そして教育や研究,専門機関やウェブサイトでは「機能性神経障害」という用語を使用し続けてよいが,臨床の場ではその用語を避けて,「機能性運動障害」「機能性感覚障害」「機能性認知障害」「機能性視覚障害」「機能性言語障害」など,「機能性」のあとに症状を続けることを提案しています.少なくともFNDは臨床現場においては慎重に使ったほうが良いという提案です.→ 個人的には納得できる主張で,例えば診断書を書くときに「機能性神経障害」で先生や雇用主が理解できるかなと思っていました.

ちなみにDSM-5では当初,「conversion disorder(functional neurological symptom disorder)」という用語を使用することにしていましたが,最近ではこの順序が逆になって,「functional neurological symptom disorder(conversion disorder)」となっています.つまり「機能性神経症状症(変換症)」ということになります.混乱しやすいですが,これはFNDと同じものを指しています.



論文2.Stone J. Incongruence in FND: time for retirement. Pract Neurol. 2024 Jan 11:pn-2023-003897.(doi.org/10.1136/pn-2023-003897

主旨:診断においてIncongruencyはもう使用しないほうが良い.

FND領域のリーダーであるJon Stone先生がPract Neurol誌に書かれたもので,FNDの診断にIncongruencyを使用することをそろそろやめるべきではないかと言っています.FNDの診断の2本柱はInconsistencyとIncongruencyです.そもそも単語の意味の違いが理解しにくいのですが,Inconsistency(不一致?)とは,所見の一貫性を欠くことで,例えば,振戦の振幅,分布,重症度に一貫性がないとか(例:tremor entrainment),意図して力をいれる場合と自然に力が入る場合で異なるとか(例:Hoover徴候,Sonoo外転試験)を指します.一方,Incongruency(不調和?)は患者さんの所見を解剖学的・生物学的・生理学的に説明できないことになります.よくあるのは診察室と日常生活など場面によって所見が異なったり,教科書的な神経所見と異なる「奇妙な(bizarre)」所見などになります.Stone先生は,Incongruencyを使用すべきでないという理由として,除外診断に等しいこと,臨床神経学や解剖を熟知する必要があること,そしてbizarreな所見も将来に渡ってずっとbizarreである保証はないことを挙げています.
→ 最後の理由は私も常々感じていたのですが,自己免疫性脳炎では従来の神経症候学からはみ出すような所見を呈します.例えばLGI1抗体→facio-brachial dystonic seizure,mGluR1抗体→激しいhead titubation,Caspr2抗体→ベリーダンサー症候群,分節性脊髄性ミオクローヌス,IgLON5抗体→激しい舞踏運動,舌ミオリズミア,筋痙攣+筋強剛などで,変性疾患等で経験する所見とは異なり,これらの疾患の存在を認識できていない時点では奇妙に感じてしまいます.私はFNDと思われる患者さんの診察時,InconsistencyとIncongruency,どちらかな?など考えていましたが,あまり用語にこだわらずFNDの陽性徴候をしっかり捉えていけばよいのかもしれません.



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