Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月9日) 

2021年10月09日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ファイザー・ワクチン6ヵ月後の液性免疫は,男性,65歳以上,免疫療法で大幅に低下する,ファイザー・ワクチンの重症化に対する予防効果は6カ月間しっかり持続する,リツキシマブ・オクレリズマブの使用は,COVID-19重症化の危険因子である,英国の専門家によるlong COVIDに関する35の提言,です.

Long COVIDにどのように取り組むか議論が進められていますが,病態や症状が複雑であること,エビデンスが十分でないことから,診断基準や治療ガイドラインの作成は世界的にも難航しています.今回紹介する最後の論文は,英国の33名の総合診療医と各診療科の専門医によるデルファイ法(※)を用いた35の提言です.long COVIDの患者さんをどのように診断し診療していくかを考える上で大変参考になりました.重要なことは最初に行う検査が正常であっても状況によって追加の検査を行い,正しく原因を見出すことと,社会復帰への支援を適切に行うことだと思いました.ただ脳神経内科医が1人も含まれていないためブレインフォグなどの認知機能障害についての議論は乏しく,これからの課題のように思いました.

※デルファイ法:集団の意見や知見を集約し,統一的な見解を得る手法の一つ.メンバーに個別に回答を求め,得られた結果を全員に見せ,再び個別に回答を求めるという過程を何回か繰り返す方式.

◆ファイザー・ワクチン6ヵ月後の液性免疫は,男性,65歳以上,免疫療法で大幅に低下する.
イスラエルではワクチンの接種率が高いにもかかわらず,COVID-19の症候性感染が増加した.この原因を検討する目的で,ファイザー・ワクチンを接種した医療従事者4868名を対象に,抗スパイクIgG抗体と中和抗体の有無を毎月検査し,6か月間の前向き研究を行った研究が報告された.また6ヵ月後の抗体格の予測因子を検討した.結果としては,IgG抗体は一定の割合で減少したが,中和抗体は最初の3カ月間は急速に減少し,その後は比較的緩やかに減少した(図1).IgG抗体値は中和抗体価と高い相関性を示した.2回目のワクチン接種から6ヵ月後の中和抗体価は,男性が女性よりも大幅に低かった(平均値の比,0.64).また65歳以上の人は18~45歳未満の人よりも低く(平均値の比,0.58),免疫療法を受けている者はそうでない者よりも低かった(平均値の比,0.30).以上より,ファイザー・ワクチンの2回目の接種から6ヵ月後,液性免疫は特に男性,65歳以上の高齢者,免疫抑制状態にある人で大幅に低下した.→ 液性免疫の低下に限った議論であり,ワクチンによる防御力低下とイコールではないことに注意が必要.
New Engl J Med. Oct 6, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2114583)



◆ファイザー・ワクチンの重症化に対する予防効果は6カ月間しっかり持続する.
β株とδ株が大半を占め,PCR検査が大規模に行われているカタールにおいて,ファイザー・ワクチンの効果の持続を検討した論文が報告された.ワクチンの有効性は,初回投与後2週間では殆どなかったが,3週目に36.8%に上昇し,2回目の接種1カ月後に77.5%とピークに達した.その後,効果は徐々に低下し,4カ月目以降は低下が加速,5~7カ月目には約20%に達した(図2A).



症候性感染に対する有効性は,無症候性感染に対する有効性よりも高かったが,同様に低下していった.しかしCOVID-19の重症,重篤,致命的な症例に対する有効性は,初回投与後3週目までに66.1%と急速に増加し,2回目の投与後2ヵ月間は96%以上に達し,6ヵ月間はほぼこのレベルで維持された(図2B).



以上よりワクチンの感染予防効果は,2回目の投与後にピークに達した後,急速に弱まっていくようだが,入院や死亡といった重症化に対する予防効果は,2回目の接種後6カ月間持続した.
New Engl J Med. Oct 6, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2114114)

◆リツキシマブ・オクレリズマブの使用は,COVID-19重症化の危険因子である.
多発性硬化症(MS)患者は,重度のCOVID-19に対して脆弱な集団であり,特に免疫抑制剤を用いた疾患修飾療法(DMT)を受けている人はその傾向が強い.今回,多施設共同研究で,MS患者における重症例の特徴を調査して研究が報告された.COVID-19が疑い例657名と確診例1683名が対象となった.入院は確診例+疑い例で20.9%,確診例で26.9%が, ICU入室はそれぞれ5.4%と7.2%,人工呼吸器装着はそれぞれ4.1%と5.4%,死亡はそれぞれ3.2%と3.9%であった.高齢,進行性MS,高度の障害はCOVID-19の予後不良と関連していた.ジメチルフマレートと比較して,確診例+疑い例のオクレリズマブとリツキシマブは,入院(aOR=1.56および2.43),ICU入室(aOR=2.30および3.93) と関連した(図3).またリツキシマブのみ人工呼吸器のリスクが高くなった(aOR=4.00).ナタリズマブと比較して,確診例+疑い例のオクリズマブとリツキシマブは入院(aOR=1.86および2.88)とICU入室(aOR=2.13および3.23)と関連した.またリツキシマブのみ人工呼吸器リスクが高まった(aOR=5.52).DMTsと死亡との間に関連は認めなかった.以上より,リツキシマブは入院,ICU入室,人工呼吸のリスク増加と,オクリズマブは入院,ICU入室と関連することが示された.リツキシマブ/オクレリズマブはCOVID-19重症化の危険因子である.
Neurology. Oct 5, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012753)



◆英国の専門家によるlong COVIDの診断や治療・ケアに関する35の提言.
Long COVIDに対する治療やケアに対するエビデンスは乏しい.このため英国から,プライマリーケアおよびセカンダリーケアの医師を対象にとしたデルファイ調査をオンラインで実施した.デルファイ調査とは,対象のテーマについて参加者に個別に回答してもらい,得られた結果をフィードバックし,他の参加者の意見を見てもらった後,再度同じテーマについて回答してもらい,これを繰り返すことである程度収束した見解を得ることを目指す方法である.回答者の90%以上が回答した推奨事項は,コンセンサスが得られたものとした.結果として,14の専門分野を代表する33人の臨床医(総合診療医が11名と最多,脳神経内科医は入っていない)が35の提言について合意に達した.以下,まずLong COVIDの症状を提示してから,35の提言を列挙する.提言のあとの( )は,強く同意,同意,いずれでもない,異議,強く異議の5段階に分けたうちの,強く同意,ないし同意した人の頻度を示す.

【Long COVIDの症状】
心筋炎・心膜炎,微小血管狭心症,不整脈,体位性頻脈症候群(PoTS)などの自律神経異常症,肥満細胞障害(蕁麻疹,血管浮腫,ヒスタミン不耐症など),間質性肺疾患,血栓塞栓症,脊髄障害・末梢神経障害・認知障害, 腎障害,新規発症糖尿病および甲状腺炎,肝炎および肝酵素異常,持続的な胃腸障害,新規発症アレルギーおよびアナフィラキシー,発声障害.

【提言】
■クリニックの組織化に関する推奨事項
1. WHO基準によるCOVID-19の臨床診断,または検査陽性の既往歴があり,上述の症状がCOVID-19感染から4週間以上持続する場合,long COVIDを考慮する(強く同意58%.同意33%).

2. 複数の専門分野にまたがるlong COVID外来は,この疾患の管理に関する複数の専門分野の知識と経験を持つ医師が主導すべきである(強く同意88%;同意6%).

3. 複数の専門分野にまたがるlong COVID 評価サービスを介して,個々の調査,管理,リハビリテーション計画を検討する.当初は医師主導の医学的評価と診断を優先し,補助的に理学療法士や作業療法士などの参加を検討する(強く同意70%,同意24%).

4. long COVIDクリニックを,IAPT(心理療法アクセス改善)や臨床心理士,保健心理士などのメンタルヘルスの専門家が主導するのは不適切である.彼らは専門家チームをサポートするのに役立つかもしれないが,潜在的な臓器障害を調査し管理するための専門知識を持っていない(強く同意82%; 同意15%).

5. 18歳以下の子供たちは,成人との症状や治療法の違いを熟知し,学校と緊密に連携している小児科専門医が運営する同様のサービスを利用する必要がある(強く同意79%;同意21%).

6. 精神疾患を有する患者は,精神疾患を持たない患者と同等の医療を受けるべきであり,医療サービスからトリアージされるべきではない(強く同意85%;同意15%).

■基礎疾患の診断に関する推奨事項
全身的アプローチ
7. long COVID患者において,COVID-19に関連しない問題が存在する可能性を調べるべきである.long COVIDは,他の原因が除外されない限り,十分な診断にはならない(強く同意64%;同意24%).

8. 病歴と診察を含む対面式の評価を実施し,COVID-19に関連しない他の診断を考慮して,血算,腎機能,CRP,肝機能,甲状腺機能,HbA1c,ビタミンD,B12,葉酸,マグネシウム,フェリチン,および骨密度を測定する(強く同意73%,同意27%).

呼吸器系
9. 呼吸器症状のある人は,早期に胸部X線検査を検討する.一見正常であっても,呼吸器疾患を除外するものではないことに注意する(強く同意82%,同意12%).

10. 簡易スパイロメトリーが正常でも,患者には瘢痕化,慢性肺塞栓,もしくは微小血栓を示唆する拡散障害が存在する場合があることに留意する.肺機能検査のために呼吸器科への紹介を検討する(強く同意70%,同意30%).

11. 息切れのある人では安静時および年齢に応じた簡単な運動テスト後の酸素飽和度を測定し,低酸素血症や運動時の脱飽和があれば検査を依頼する(強く同意52%,同意42%).

循環器
12. 息切れの原因が心臓にある可能性を考慮する(強く同意 82%,同意15%).

13. D-ダイマーが正常であっても,特に慢性疾患においては血栓塞栓症を除外できない場合がある.臨床的に肺塞栓症が疑われる場合には,循環器科への紹介を検討する.さらに血栓塞栓症は経過のどの段階でも起こりうることに留意する.(強く同意79%,同意18%).

14. 異常な頻脈や胸痛のある患者には,心電図,トロポニン,ホルター心電図,心エコーを実施する.心筋炎や心膜炎は心エコーだけでは除外できないことに注意する(強く同意67%,同意24%).

15. 胸痛のある患者では,心筋炎や微小血管狭心症を除外するために,心エコーが正常でも心臓MRIが適応となる場合があるので,循環器科への紹介を検討する(強く同意 76%,同意18%).

16. 動悸や頻脈のある患者では,自律神経異常症を考慮する(強く同意76%,同意21%).

その他
17. 蕁麻疹,結膜炎,喘鳴,異常な頻脈,動悸,息切れ,胸やけ,腹部筋痙攣や膨満感,下痢,睡眠障害,神経認知的疲労を有する患者では,肥満細胞障害を考慮する(強く同意46%,同意42%).

18. 仕事や社会的機能に支障をきたすほどの認知障害がある患者では,認知機能検査を検討する(強く同意70%,同意27%).

19. 関節腫脹や関節痛を認める患者では,反応性関節炎や新規の結合織病を検討し,適切な検査と専門医への紹介を行う(強く同意61%,同意36%).

■診療に関する提言:一般的アプローチ
20. 活動の数時間から数日で疲労の悪化がみられる患者には,初期の回復期における慎重なペース配分と休息が重要であることを強調する(強く同意82%,同意18%).

21. 患者の精神的な回復の時間経過を,仕事への復帰が長期化する可能性を反映するものに変更する(強く同意73%,同意27%).

22. 利用可能なリソースとして,労作後の症状悪化の管理,活動ペースの調整,鍼治療,診断別の管理などを示す(強く同意42%,同意49%).

23. 患者に,社会的処方,疾病証明書,経済的アドバイスを紹介する.疾病証明書に診断としてlong COVIDを記載するかどうかを患者と話し合う(強く同意79%,同意18%).

24. 臨床医は,long COVIDを持つ患者の職業状況(仕事をしている/していない,パートタイム/フルタイム,学生)を記録すべきである(強く同意 76%;同意24%).

25. 患者を定期的にフォローし,生物心理社会的,職業的な観点から経過観察を行う(強く同意58%,同意39%).

26. 新しい症状を報告することを推奨し,症状の変化への期待を促す(強く同意76%,同意24%).

27. long COVID研究として,WHO Case Report Formなどを用いて,患者のデータを提供することを検討する(強く同意67%,同意27%).

■診療に関する提言:特異的状況に対するアプローチ
28. 心臓に症状のある患者は,運動を始める前に,心拍数を最大値の60%(100~110/分程度)に抑えるように助言し,少なくとも心電図と心エコーを行うべきである.心膜炎を有する場合,運動は不整脈や心機能低下のリスクがあるため,監視下での運動負荷試験を検討すべきである(強く同意49%,同意42%).

29. 姿勢性起立性頻脈症候群(PoTs)を含む自律神経障害に対しては,まず水分,塩分,弾性ストッキング,特定のリハビリテーションを考慮する(強く同意55%,同意39%).

30. PoTSで非薬物療法に効果がない,または不十分な場合は,β遮断薬,イバブラジン,またはフルドロコルチゾンを検討する(血圧と反応をモニタリングする)(強く同意55%,同意39%).

31. 肥満細胞障害の可能性がある患者では,初期治療と食事のアドバイスを1ヶ月間試行することを検討する.標準用量よりも多い抗ヒスタミン薬が一般的に使用される.効果が十分でなければ,モンテルカストなどのセカンドライン治療を行うことや,アレルギー専門医への紹介を検討する(強く同意52%,同意42%).

32. 肥満細胞障害患者では,βラクタム系抗生物質,NSAIDs,コデイン,モルヒネ,ブプレノルフィンなどで副作用が起こりやすいことを知っておく(強く同意52%,同意39%).

33. 呼吸パターン障害に対しては,専門家による理学療法や,ヨガの呼吸法,瞑想などの代替療法を検討する(強く同意36%,同意42%).

34. 苦痛,著しい気分の低下,不安,または心的外傷後ストレス障害の症状を示す患者では,メンタルヘルスの評価を検討する(強く同意61%,同意39%).

35. 市販のサプリメントがよく使用され,ビタミンC,D,ナイアシン(ニコチン酸),ケルセチンなどがある.ナイアシンやケルセチンなどの薬物相互作用に注意する(強く同意64%,同意30%).

Br J Gen Pract. Oct 4, 29021(doi.org/10.3399/BJGP.2021.0265)


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