Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(10月16日) 

2021年10月16日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ワクチン接種はlong COVIDにおける120日後の重症度と生活への影響を軽減する,long COVIDの疲労は発症16~20週後で13%~33%の患者に認められる,急性期COVID-19では少なくとも1種類の疼痛症候群が71.6%に認められる,60歳以上で何らかの神経症状を合併すると死亡率が約2倍増加する,Grausの自己免疫性脳炎を満たす症例の臨床像や画像所見は多彩である,ワクチン接種後の血小板減少症候群を伴う血栓症の51%に脳静脈血栓症が生じる,アストラゼネカワクチンは多発性硬化症,NMOSDの再発を起こしうる,です.

英国における検討で,ワクチンの2回接種はlong COVIDの出現を半減させる可能性が報告されていますが(Lancet Infect Dis. 2021),910名が参加したフランスの検討でも,試験開始120日の評価で,ワクチン接種群ではlong COVID症状が軽く,完全に症状が消失する患者の割合が2倍多く,生活への影響も少ないことが報告されました.ワクチン接種は,感染したとしても,long COVIDによる症状や影響を軽減できることから,あらためて接種をお勧めしたいと思います.一方,アストラゼネカワクチンの新たな有害事象として,多発性硬化症やNMOSD患者の再発を招くことが報告されました.これらの患者ではmRNAワクチンの接種を推奨すべきと考えられます.

◆ワクチン接種は,long COVID患者における120日後の重症度と生活への影響を軽減する.
フランスから,ComPaRe long COVIDコホートのデータを用いて,long COVID患者に対するワクチン接種の効果を検証する試験の結果が報告された.参加者は910名で,ワクチン接種群と対照群に455名ずつ割り付けた.接種群は観察期間の開始から60日以内に初回のワクチンを接種した.545名(60.1%)が感染し,81名(8.9%)が入院した.評価項目は,ベースラインから 120 日後に,疾患の重症度(long COVID ST,範囲 0~53),完全寛解患者の割合,患者の生活への影響(long covid IT,範囲 0~60),許容できない症状を報告した患者の割合などとした.120日後までに,ワクチン接種群はlong COVID症状が軽く(STスコア13.0対14.8,平均差-1.8, 95% CI -2.5-~1.0),完全寛解患者割合が2倍で(16.6%対7.5%, HR: 1.97, 95% CI 1.23~3.15)(図1),生活への影響も少なかった(ITスコア24.3対27.6,平均差:-3.3,95%CI -6.2~-0.5).許容できない症状を報告した患者の割合も減少した(38.9%対46.4%,リスク差-7.5%,95%CI -14.4~-0.5).以上よりワクチン接種は,感染したとしても,120日後のlong COVIDの重症度と生活への影響を軽減する.
pre-prints with THE LANCET. Sep 29, 2021.(https://ssrn.com/abstract=3932953)



◆long COVIDの疲労は発症16~20週後で13%~33%の患者に認められる.
急性期およびlong COVIDにおいて,疲労は重要な症状である.今回,感染症後の疲労に関する国際共同研究(Collaborative on Fatigue Following Infection:COFFI)が行われ,他の感染症を含めたシステマティックレビューとナラティブレビューが報告された.COVID-19のコホート研究では,持続的な疲労が一部の患者で示され,発症後16~20週間で13%~33%の頻度であった(図2).前向きコホート研究では,疲労は多くの急性全身性感染症,特に伝染性単核球症の一般的な転帰であること,ならびに内科的および精神科的な原因を除外した後の感染後疲労の頻度は,6 ヶ月後に10%~35%であることが示された.COVID-19後疲労は,末梢臓器障害(end-organ injury),精神疾患,または特発性COVID後疲労に分類できる.COVID-19後疲労の病態を明確にするために,スクリーニング質問票,疲労や気分,その他の症状を含む標準化された問診,末梢臓器不全や精神疾患を特定するための検索を行うことが推奨される.
Open Forum Infect Dis. 2021 Sep 9;8(10):ofab440. (doi.org/10.1093/ofid/ofab440)



◆急性期COVID-19では少なくとも1種類の疼痛症候群が71.6%に認められる.
トルコから急性期COVID-19の痛みについての研究が報告された.電話にて51項目の質問に回答してもらった.222名が参加した(回答率83.5%).少なくとも1種類の疼痛症候群を報告したのは159名(71.6%)で,内訳は,筋痛が110名(49.6%),頭痛109名(49.1%),神経障害性疼痛55名(24.8%),多関節性疼痛30名(13.5%)であった.痛みの種類は,1種類のみが66名,2種類が46名,3種類が42名,4種類すべてが5名であった.程度は軽度から中等度であった.ロジスティック回帰分析では,これらの疼痛症候群の間には有意な関連性があり,とくに神経障害性疼痛と頭痛の間には強い関連が認められた.以上より,痛みはCOVID-19で高頻度に認められ,疼痛症候群の間に有意な関連があり,共通の病因の存在が伺われる.
Eur J Pain. Oct 8, 2021.(doi.org/10.1002/ejp.1876)

◆60歳以上で何らかの神経症状を合併すると死亡率が約2倍増加する.
COVID-19患者の神経症状および合併症の頻度とその影響について検討したシステマティックレビュー,メタ解析が報告された.50件の研究が対象となり,患者14万5721人(入院患者89%)が検討された.24の神経症状と17の診断(合併症)が確認された.頻度の高い神経症状は,疲労(32%),筋痛(20%),味覚障害(21%),嗅覚障害(19%),頭痛(13%)であった.診断別では,脳卒中は2%で,虚血性脳卒中ないしTIAが1%,出血性脳卒中が0.31%,脳静脈血栓症が0.31%であった.また神経精神症状24%,脳症7%,骨格筋障害5%,運動異常症1%であった.年齢別で60歳以上の患者では,急性錯乱/せん妄を34%に認め,60歳以上では何らかの神経症状を合併することで死亡率がは約2倍に増加した(OR 1.80,95%CI 1.11~2.91).
Neurology. Oct 11, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012930)

◆Grausの自己免疫性脳炎を満たす症例の臨床像や画像所見は多彩である.
Mayo ClinicからCOVID-19感染後の自己免疫性脳炎(AE)の頻度と特徴について報告された.2つのコホートを検討した(①検査室コホート:自己免疫性脳症ための神経IgG検査を受けた連続した556名,➁脳症コホート;COVID関連のコンサルトを受けた31名).結果として検査室コホートのうち18名(3%)がSARS-CoV-2スパイク蛋白抗体陽性で,うち2名がAEと診断された.脳症コホートでは5名がAEと診断された(前者の2名も含まれた).AEの頻度は,2020年にCOVID-19と診断され治療を受けた1万384人の0.05%に相当した.この5名は,GrausによるAE診断基準(2016)のdefinite(n=1),probable(n=1),possible(n=3)を満たした.発症年齢の中央値は61歳(46~63歳)で,3名は女性であった.5人全員が神経性IgG陰性で,検査した4人はCSFでSARS-CoV-2 PCRおよびIgGインデックスが陰性だった.症状やMRI(図3),脳波所見は多様であった(せん妄5名,痙攣発作2名,菱脳炎1名,失語症1名,運動失調1名).ADEM症例なし.possible AEの3 名は自然に回復した.definiteの1名(辺縁系脳炎)は免疫療法に反応したが,気分障害と記憶障害が残った.probableの1名(菱脳炎)は,免疫療法にもかかわらず死亡した.残りの26人の脳症コホート患者は,中毒性・代謝性疾患と診断された.Grausの診断基準を適用することで,感染症に起因する中毒性・代謝性疾患との鑑別が可能であった.
Neurology. October 11, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012931)



◆ワクチン接種後の血小板減少症候群を伴う血栓症の51%に脳静脈血栓症が生じる.
ワクチン接種後の血小板減少症候群を伴う血栓症(TTS)症例における脳静脈血栓症(CVST)の頻度を検討したシステマティックレビュー,メタ解析が報告された.ウイルスベクターワクチン接種に関連して血栓イベントが発生した4182名のうち,370名のCVST患者を対象とした69件の研究が定性分析,23件の研究が定量的なメタ分析が行われた.TTS症例のうち,プールされたCVSTの割合は51%であった(図4).ワクチン接種後に血栓イベントが発生した非TTS患者と比較して,TTS患者はCVSTの可能性が高かった(OR 13.8).TTSおよびTTSに関連したCVSTの死亡率は,それぞれ28%および38%であった.血栓症はワクチン接種後2週間以内に発症し(平均10日),血栓症の危険因子がなくても,主に45歳以下の女性(69%)が罹患した.ワクチン接種後のTTS発症の予測因子の特定にはさらなる研究が必要である.
Neurology. Oct 5, 2021.(doi.org/10.1212/WNL.0000000000012896)



◆アストラゼネカワクチンは,多発性硬化症,NMOSDの再発を起こしうる.
ブラジルから,アストラゼネカワクチン(AZD1222)の初回接種と密接な関連を持って再発を来した9名の患者(MS 8例,NMOSD 1例)が報告された.これらの患者は,中央値で6年間安定しており,疾患活動性が上昇していた所見はなく,処方の変更もなかったが再発した.ワクチン接種後,中央値で13日(7日~25日)経過した時点で,障害の拡大とMRI上の新たな病変を伴う新たな再発が生じた.稀ではあるもののAZD1222の有害事象として,MS/NMOSDの再発が生じる可能性がある.→ MS,NMOSD患者ではアストラゼネカワクチン接種は避けるべき.
Mult Scler Relat Disord. Oct 12, 2021.(doi.org/10.1016/j.msard.2021.103321)

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