脳梗塞巣において回復の見込みがない領域を虚血中心(コア)と呼んでいる.新潟大学,岐阜大学,ワシントン大学のチームは,虚血中心(コア)の一部に血管新生が生じていることを見出し,虚血中心(コア)が今後の再生療法のターゲットになるという従来にない仮説を提唱し,JCBFM誌に採択されたのでご紹介したい.
【もう回復しない虚血コアと半死半生の虚血ペナンブラ】
脳血管が閉塞したあと,回復不可能な領域は虚血中心(コア)と呼ばれる.一方,脳血流の再開により回復可能な領域は虚血ペナンブラと呼ばれる.Penumbraは,ラテン語で「殆ど」を意味するpaenesと,umbra(影)を合成した言葉で,日本語では「半影」と呼ばれる.一部が照らされ,一部が影になっているわけで,転じて虚血ペナンブラは,半分生きて半分死んでいる,すなわち,治療によっては回復しうる領域である.従来の研究では,虚血中心の回復は諦め,もっぱら虚血ペナンブラを回復することが目標とされてきたわけである.
【虚血コアのなかに血管新生がある部位がある!】
虚血コアは神経細胞が死滅している部位である.動物実験では神経細胞に存在する微小管結合タンパク質MAP2(Microtubule Associated Protein 2)が存在しない(=免疫染色で染まらない)領域を虚血ペナンブラと呼ぶ慣習がある.私たちは,2017年,Scientific Reports誌に,脳内炎症細胞のミクログリアに,適切な条件で低酸素・低糖刺激を行い,その性質を炎症性から脳保護性に変化させることで,有効な細胞療法が行うことができ,動物モデルにて脳梗塞後の機能回復を促進できることを示した.
この論文の中で,神経細胞が失われ,回復の可能性がないはずの虚血中心の辺縁部(灰色)に,血管新生が僅かではあるが生じていることを,当時大学院生だった三浦南先生,石川正典先生が見出した.この発見を契機として,虚血中心における血管新生の意義を金澤雅人先生が中心となり検討した.具体的には,既報を渉猟し,この現象の意味を考え,「虚血コアは均質ではなく,細胞療法の治療標的となる部位がある」という従来にない仮説を立てた.
【虚血中心は不均一であるという既報】
まず,過去の虚血中心に関する報告を調べた.その中で重要な報告に,米国ワシントン大学内科学のGregory del Zoppo教授が提唱したものがある.これは虚血中心や虚血ペナンブラは,実は不均一であり,ミニコア,ミニペナンブラという小さい単位が融合して,最終的なコアやペナンブラになっているという考えである(del Zoppo JCBFM2011).この考え方は,虚血中心は不均一であるという私達の考え方に一致する.
また血管新生が生じる部位について既報を調べると,コアの外側ではなく,MAP2による染色性を失った虚血中心の辺縁部に認めるという報告が複数あることが分かり,我々の観察と一致していた.del Zoppo教授の提唱したミニペナンブラに相当する領域は,虚血中心のなかの血管新生を伴う辺縁部分(灰色の領域)に相当する可能性がある.
【虚血中心に新生した血管は神経再生をもたらす】
近年,血管内皮細胞と神経細胞の3D共培養で,神経軸索の進展が促進されたという報告がある(つまり神経再生には血管が必要であることを意味する).一方,私どもの報告を含め.神経軸索の進展にミクログリアなどのグリア細胞が関わるという報告もある.おそらく,血管新生には,血管内皮細胞,グリア細胞が関わり,新生した血管を土台として神経再生が生じるものと考えられる.
しかし通常はこの領域は極めて狭く,有効な機能回復にはつながらない.もし再生療法等により血管新生を促進でき,この領域を拡大することができれば,虚血中心は縮小し,機能回復も促進されるものと推測される.
【まとめ】
回復しないと考えられてきた虚血中心の一部ではわずかながら血管新生が生じている.もし血管新生を促進し,この領域を広げる治療ができれば,この領域は虚血中心というより,助かりうるという意味で新たな虚血ペナンブラに変化すると言うことができる.現在,私たちは,この領域を標的とした新しい再生療法により,脳梗塞後の機能回復を目指している.
Kanazawa M et al. JCBFM 2019 on line
【もう回復しない虚血コアと半死半生の虚血ペナンブラ】
脳血管が閉塞したあと,回復不可能な領域は虚血中心(コア)と呼ばれる.一方,脳血流の再開により回復可能な領域は虚血ペナンブラと呼ばれる.Penumbraは,ラテン語で「殆ど」を意味するpaenesと,umbra(影)を合成した言葉で,日本語では「半影」と呼ばれる.一部が照らされ,一部が影になっているわけで,転じて虚血ペナンブラは,半分生きて半分死んでいる,すなわち,治療によっては回復しうる領域である.従来の研究では,虚血中心の回復は諦め,もっぱら虚血ペナンブラを回復することが目標とされてきたわけである.
【虚血コアのなかに血管新生がある部位がある!】
虚血コアは神経細胞が死滅している部位である.動物実験では神経細胞に存在する微小管結合タンパク質MAP2(Microtubule Associated Protein 2)が存在しない(=免疫染色で染まらない)領域を虚血ペナンブラと呼ぶ慣習がある.私たちは,2017年,Scientific Reports誌に,脳内炎症細胞のミクログリアに,適切な条件で低酸素・低糖刺激を行い,その性質を炎症性から脳保護性に変化させることで,有効な細胞療法が行うことができ,動物モデルにて脳梗塞後の機能回復を促進できることを示した.
この論文の中で,神経細胞が失われ,回復の可能性がないはずの虚血中心の辺縁部(灰色)に,血管新生が僅かではあるが生じていることを,当時大学院生だった三浦南先生,石川正典先生が見出した.この発見を契機として,虚血中心における血管新生の意義を金澤雅人先生が中心となり検討した.具体的には,既報を渉猟し,この現象の意味を考え,「虚血コアは均質ではなく,細胞療法の治療標的となる部位がある」という従来にない仮説を立てた.
【虚血中心は不均一であるという既報】
まず,過去の虚血中心に関する報告を調べた.その中で重要な報告に,米国ワシントン大学内科学のGregory del Zoppo教授が提唱したものがある.これは虚血中心や虚血ペナンブラは,実は不均一であり,ミニコア,ミニペナンブラという小さい単位が融合して,最終的なコアやペナンブラになっているという考えである(del Zoppo JCBFM2011).この考え方は,虚血中心は不均一であるという私達の考え方に一致する.
また血管新生が生じる部位について既報を調べると,コアの外側ではなく,MAP2による染色性を失った虚血中心の辺縁部に認めるという報告が複数あることが分かり,我々の観察と一致していた.del Zoppo教授の提唱したミニペナンブラに相当する領域は,虚血中心のなかの血管新生を伴う辺縁部分(灰色の領域)に相当する可能性がある.
【虚血中心に新生した血管は神経再生をもたらす】
近年,血管内皮細胞と神経細胞の3D共培養で,神経軸索の進展が促進されたという報告がある(つまり神経再生には血管が必要であることを意味する).一方,私どもの報告を含め.神経軸索の進展にミクログリアなどのグリア細胞が関わるという報告もある.おそらく,血管新生には,血管内皮細胞,グリア細胞が関わり,新生した血管を土台として神経再生が生じるものと考えられる.
しかし通常はこの領域は極めて狭く,有効な機能回復にはつながらない.もし再生療法等により血管新生を促進でき,この領域を拡大することができれば,虚血中心は縮小し,機能回復も促進されるものと推測される.
【まとめ】
回復しないと考えられてきた虚血中心の一部ではわずかながら血管新生が生じている.もし血管新生を促進し,この領域を広げる治療ができれば,この領域は虚血中心というより,助かりうるという意味で新たな虚血ペナンブラに変化すると言うことができる.現在,私たちは,この領域を標的とした新しい再生療法により,脳梗塞後の機能回復を目指している.
Kanazawa M et al. JCBFM 2019 on line