Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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驚いたレカネマブ(アルツハイマー病抗体薬)に関する米国神経学会のつぶやき;Lecanemab: Looking Before We Leap(飛びつく前に見るべきこと)

2023年09月05日 | 認知症
下図は最近,米国神経学会(AAN)の学術誌NeurologyがX(旧Twitter)に投稿したものです.「Lecanemab: Looking Before We Leap(飛びつく前に見るべきこと)」というタイトルの小論文から文章を抜粋したもので,オハイオ州立大学James F Burke教授ら4名によるものです.現在処方できるコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトなど)と比較して,レカネマブの効果,安全性,コストについて議論しています.つぶやきは以下のとおりです.

「もし安価であったとしても,最良のエビデンスは,レカネマブが(臨床試験ではない)実臨床の人々において意味のある利益をもたらすことを立証するものではない ― 確立された利益は小さく,潜在的な害は軽微ではない」



世界最大の脳神経内科の学術団体AANがこの意見をつぶやいたインパクトは少なくないと思います.以下に論文の要点をまとめました.患者さん,家族はもちろん,医療者もレカネマブに「飛びつく前」によく理解し,熟慮する必要があります.

◆レカネマブは認知機能に対して統計学的に有意な効果を示すが,その効果の大きさは小さく,臨床的に有意でない可能性がある.
◆レカネマブの効果はコリンエステラーゼ阻害薬の効果よりも数値的には小さい.
◆レカネマブを支持する主な論拠は,時間の経過とともに認知機能が向上するというものである.もっともらしいが,この結論を支持する証拠は不足している.
◆レカネマブの有害性は大きい.Clarity試験では,症候性脳浮腫が11%に,症候性頭蓋内出血が0.5%に認められた.
◆これらの副作用のリスクを著しく過小評価している可能性が高い.その理由は3つある.
①レカネマブは他の薬剤と相互作用する可能性が高いが,Clarity試験ではこの影響は最小限に抑えられている.
②臨床試験の集団は,現実の集団よりもはるかに若い(出血リスクは年齢とともに増加する).
③一般的に臨床試験における出血合併率は,臨床現場よりもはるかに低いことが知られている.
◆レカネマブのコストは前例がない.対象者全員が治療を受けた場合,薬代総額は年間1200億ドルになり,現在メディケアパートDですべての薬に使われている金額よりも多くなる.
◆結論として,レカネマブはドネペジルより効果が低く,有害性が大きく,コストが100倍高いことを認識する必要がある.

レカネマブに関するAlberto J Espay教授により分かりやすい解説図の説明はこちらからご覧いただけます.

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