作者であるウニー・ルコント監督の自伝的作品だ。彼女の実体験がモデルになっているのだろう。孤児院に預けられ、やがてフランス人の里親に引き取られるまでが描かれる。とても個人的で、小さな話だ。父親の記憶もない。そこでの日々もきっと虚ろなものだ。9歳の少女の孤独と不安。それだけがくっきりと胸に刻まれてある。そのかすかな記憶を頼りにして、紡ぎあげたドラマは、そのあまりに繊細で、傷つきやすい心情がひしひしと . . . 本文を読む
アスガー・ファハルディ監督の、この新作映画は、前作である『彼女が消えた浜辺』に続いて、今回もミステリータッチの作品で、この文芸映画っぽい日本語タイトルにはそぐわない。
イランの抱えるさまざまな問題が消え隠れするのも前回と同じだ。富裕層の夫婦と、生活に窮する夫婦の2組の男女と、それぞれの子供たち。2つの家族の現状がこのお話の背景にきちんと描かれるから、これは現代イラン社会の縮図にも見える。
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これまた異常な恋愛小説だ。『来たれ野球部』といい、これといい、ここまで普通じゃない小説を連続して読むことになるなんて、どういうことか。最近こんな本ばかり読んでいる。凄すぎる。
藤谷治が恋愛小説なんかを書く、という、その時点で想像がついた話なのだが、それにしてもこれはないだろう。村上春樹のパロディーなのか、と思わせるような展開だが、藤谷治である。一筋縄ではいかない。でも、なんだか今回は軽やかだ . . . 本文を読む
昨年12月に見たばかりの作品である。再演と言うよりも、場所を変えての連続上演という印象だ。4ヵ月半の間隔を経て、再びこの作品と対面することとなった。この作品はしっかりとブラッシュアップされ、よりスマートなものになっていたのはうれしい。取り込んだ写真は前回公演のチラシだが、63回公演が64回になっただけで、デザインもそのまま使われてある。
関芸スタジオからこども文化センターへと会場を移したこと . . . 本文を読む
同じ日に『KOTOKO』と『モンスターズクラブ』を2本続けて見てしまったのは、ちょっとした不幸だったと思う。どちらも同じように、ほぼ登場人物がひとりで、閉ざされた空間を舞台にして、自分を精神的に追い詰めていく話である。この2本立は見ていてかなりきつかった。それでも『KOTOKO』はまだいい。好き嫌いはあるにしても、映画自体が力を持っているからだ。
豊田利晃監督の『空中庭園』はとても好きな映画 . . . 本文を読む
恋愛小説を読んでいるのだけれど、このタイトルである。なんか、それでいいのか、と思う。しかも、カバーがまるでアニメのイラストだ。読むのが恥ずかしい。これじゃぁスポ根で、軽いマンガのような小説ではないか、と誰もが思うはずだ。しかし、そうではない。それどころか、これはかなりハードな作品なのだ。しかも、野球のシーンなんてほぼない。看板に偽りだらけだ。だが、これはいろんな意味で驚くべき作品である。そして傑 . . . 本文を読む
アキ・カウリスマキ監督の新作である。ポスターがとても気に行った。もちろんそんなことは関係なく彼の新作が公開されたなら、内容も知らずとも、まず見に行く。彼が『真夜中の虹』で彗星のように日本デビューしてから、どれだけの歳月が過ぎたことだろう。あの衝撃は今でも忘れることはできない。何も語らない。極限にまで削ぎ落とした簡潔な文体。なのに、圧倒的なインパクト。たった75分の映画なのに、その豊穣なイメージの . . . 本文を読む
原作を読んだ時には、とても素敵な気分になれた。ほんのちょっとだけれど、現実から抜け出して夢の世界に誘われた。煩わしい都会から遠く離れて、岩手の田舎の村での生活を満喫させられた。築100年の藁ぶき屋根の大きな家で、暮らす。ここには何もないけど、ここでの暮らしのひとつひとつが新鮮な驚きに満ちている。そして、その家にはなんと可愛い座敷わらしがいて、家族はそのシャイな女の子と少しずつ友だちになる。正直言 . . . 本文を読む
1972年なんていう微妙な時間によみがえってしまうヴァンパイアは間抜けだ。その200年のタイムラグにカルチャーショックを受けるヴァンパイアをジョニー・デップが散々笑わせて見せてくれる。これが現代に甦ってしまったりしてたのなら、ここまでは笑えない。それどころか少しもおもしろくはないはずだ。この40年というなんとも中途半端な過去がいいのだ。ジョニーが自分を200年も棺桶に閉じこめた魔女と戦うコメディ . . . 本文を読む
生理的に不快な気分にさせられる映画だ。今回に限らず塚本映画は今までもそうだったが、今回は最後まで日常をベースにして作られているから余計にキツイ。主人公が女性であり、しかも、鉄の塊になるとか、そんな話ではないから、重い。デジタルによる生々しい映像は見ていて、厳しいし、刺々しい。自傷行為、暴力、錯乱行動、描かれる内容のひとつひとつが、ヒロインである琴子だけではなく、僕たち観客も、恐怖に叩き込む。
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たった7行のあらすじから生まれた作品らしい。そこから2つの作品が生まれた。有川浩と成井豊による夢のコラボレーション。有川の小説、成井の戯曲。別々の双子の作品だ。さらには上演されたキャラメルボックスの芝居。それからインスピレーションを得た有川のノベライズ。この本はそうして生まれた有川のその2つの小説を収めた。ついでに成井豊の戯曲も載せたらよかったのではないか。イベント本としてならそこまでする方がい . . . 本文を読む
この小説を読んでいた3日間はとても幸せだった。何も考えずただこの主人公に寄り添うだけでよかった。世界と隔絶し、自分の世界の中で閉じこもり、たったひとりで淋しく過ごす。もちろん現実はそうではない。毎日たくさんの人と接して、いろんなことをしている。それが仕事だ。だが、電車の中で本を読んでいる時間だけは、そうじゃない。たくさんの人が周囲にいても、まるで目には入らないし、いつも以上に読書に集中いている。 . . . 本文を読む
なんと魅力的なタイトルだろう。この作品の内容はひとまず保留にして、このタイトルに心惹かれた。フライヤーを見たとき、まず、はっとさせられ、興味を抱かされた。内容は後からついてきた。
サブタイトルに「沖縄やんばる・高江の人々が守ろうとするもの」とある。もちろんもうこれだけで、描く内容がちゃんと伝わる。重機と作業員の姿を前面で捉えた写真もいい。ここでは本来の主人公である反対派の座り込みを前面には見 . . . 本文を読む
2時間20分に及ぶ大作である。ルミエールホールの中にある小ホールという小劇場演劇としてはかなり広い空間(キャパは300くらいか)を、縦横に使い、思い切ったスタイリッシュな舞台を見せてくれる。カメハウスの芝居を見るのは今回が初めてだったが、ダンスを中心にしてショーアップされた舞台は刺激的で、とても楽しく、その派手な芝居に最初はドキドキした。さて、これからどんな芝居が始まるのか、興味津々の幕開けだっ . . . 本文を読む
14歳から20歳までの大切な時間、その想い出のひとつひとつがここにはしっかりつまっている。これは彼女の大切な想い出を描く小説だ。それがファンタジーの意匠を纏って描かれていく。想い出を預かる魔法使いとの物語だ。だが、彼女は預けない。魔法使いと少女の6年間の物語のひとつひとつは、大切な想い出となって彼女の心の中に残っていく。
誰だって忘れてしまいたいような嫌な想い出や、実際に忘れてしまうような想 . . . 本文を読む