作品の解説にはこうある。≪ 宗教団体「神・水の会」信者で事件を起こした森戸いずみは、鈴木七瀬という女になりすまして逃亡中。なりすました女と、なりすまされた女の話がそれぞれの家族を絡めて展開してゆく。最後になりすました女と、なりすまされた女とが出会う。 ≫ なるほど、これは、とてもわかりやすいあらすじだ。だが、この作品の面白さは、そんなわかりやすさではなく、わかりにくさ、の方にある。
自分じ . . . 本文を読む
マイナースポーツ、バドミントンを取り上げたスポーツ小説の第2作。今回は前作の主人公水島の1年先輩である遊佐を主人公にして、前作を遡りその1年前から話がスタートする。そして、前作の時間である1年間を越えて、その先を描く。舞台は高校から大学へ。
スポーツものによくある荒唐無稽な話ではなく、内容的にはとてもリアルに、高校生、大学生でトップアスリートとして活躍する姿をさらりと見せてくれる。もちろんス . . . 本文を読む
ようやく見た。公開から、もう1カ月半経つのに、まだちゃんと上映が続いている。すごいヒットだ。こんな地味な作品が、劇場を満杯にして、ロングランするって、今時めずらしいことだ。今はヒット作と呼ばれるものでも大規模公開、瞬間撤退が日常茶飯のことなのに、小規模公開、徐々に拡大、しかもロングラン、である。なかなかない話である。
期待通り、とてもいい映画だった。これは生き方の問題だ。大富豪が事故で全身麻 . . . 本文を読む
ジョン。カーペンターの久々の新作である。これを見逃すなんてもぐりだ。(というか、それってなんの「もぐり」なんですか?)彼が築いた一時代は、とても幸福な時間だった。ホラー映画が、映画として、まだちゃんと認知された時代である。あの頃、たくさんのホラーがちゃんとロードショーで、劇場公開されていた。そして、いくつもの作品がそれなりにヒットもした。幸福な時代だった。Jホラーがブームになって、やがて廃れたと . . . 本文を読む
この映画の原作になったのは、落語である。そのオリジナルの落語『粗忽長屋』も大概な話だ。笑わせるけど、もし、それを現実とするなら、ちょっとしたホラーである。この映画はそんなちょっとしたホラーを生真面目にちゃんと丁寧にみせてくれる。月の明かりにだまされてしまう人々の話だ。夢の論理で貫かれる。
これはすべてが夢なのだ、と思うと、わかりやすい。自分の婚約者の顔を忘れてしまう女なんて、ふつういない。し . . . 本文を読む
近未来。世界が壊滅的な打撃を受けたあとの世界。電気がなくなり、自転車を漕ぐことで生じる人力発電に頼っている。町には仕事もなく、浮浪者が溢れている。最下層の労働者はただ自転車を漕ぐだけの、その労働に従事する。
3人の役者によって作られる濃密な世界。この狭く小さな空間、その圧迫感が、この芝居の魅力だ。動きも少ない。労働者役の中野聡は、ほぼ無表情で、ひたすら自転車を漕いでいるだけ。彼が本来持つ優し . . . 本文を読む
これは強烈な映画だ。ストーリーの流れを追わない。ただ、ドキュメンタリーのように目の前に展開する出来事を追うばかり。短いエピソードで、途切れさせる。そして他のエピソードに移る。その後どうなったのか、なんて気にする間もなく、次につながる。それもまた、しばらくすると、途切れる。忘れたころに、ずっと前のエピソードの続き。いったいどこにポイントが置かれてあるのかすらわからないほどだ。
見ていて、もどか . . . 本文を読む
2時間のエンタティンメントとしてとてもよく出来ている。いつもながらの楽しい舞台で、華やかで、真紅組らしい芝居だろう。2つの話を融合して、1本の舞台にまとめるという難事業を脚本の阿部さんはとても楽しそうにこなしている。彼女の力量ならこれくらいの作業はなんでもない。シェークスピアの2本の作品を、自由に脚色して、その劇世界で遊んでいる。大阪を舞台にした『ウインザーの陽気な女房たち』と、蝦夷を舞台にした . . . 本文を読む
この7月に50分ほどの中編作品として、上演(試演)した作品を、長編作品として、完全版で公開する。突劇金魚1年8カ月振りの本公演である。総力戦だ。AIホールという今までで一番大きな劇場を舞台にして、そこを敢えて最小の狭さで見せる。天井も低く使い、空間は狭く、客席も、諸事情から狭くして、まさに小劇場仕様にする。先週のジャブジャブサーキットも、本来は中劇場規模のホールを、小劇場仕様にして使っていたが、 . . . 本文を読む
原作をとても上手くまとめてある。2時間強の映画にするためには、短編連作のすべてのエピソードをフォローすることは、不可能だから選ぶ必要がある。その選択如何によっては的を外す可能性もあった。とても賢い選択がなされ、全体のイメージを的確に伝える。
ただ、映画としてのダイナミズムには欠けるものになった。映画でしかできないような大胆な冒険はここにはない。題材的にもそれは仕方ないことかもしれないが、それ . . . 本文を読む
まるでパリの街を目的もなくフラフラ歩いているみたい。そんな映画だ。でも、心ウキウキするわけではない。女(中山美穂)にとってそこは、ただ、いつもの日常のひとこまの風景で、男(向井理)にとってのそこは、まるでリアルじゃない書割の観光のひとこま。その2つが交錯して、化学変化する魔法の瞬間を描く、はずなのに、ものすごく、テンションは低い、のがこの映画の特徴。猜疑的になっているのだ。パリなのに、魔法にはか . . . 本文を読む
『帰宅部ボーイズ』を読んで、悪い小説ではないのだけど、ちょっとブルーな気分になったので、今度はハッピーな気分になるためこの小説を読んだ。なのに、なかなかそううまくはいかない。
今度の小説は、女の子で、中学生ではなく、高校生が主人公。1980年、岡山が舞台だ。これは、原田マハが、倉敷を最初の出発点にした最新作であり、最高傑作でもある『楽園のカンヴァス』の前に手掛けた作品である。確かにこれは悪く . . . 本文を読む
WFで態変を見るのは実に久しぶりのことではないか。しかも、本公演である。これは今の態変の基本姿勢がよく伝わってくる作品だ。この小空間で、本公演での態変の派手なパフォーマンスを見せる。さまざまな仕掛けがが凝らされていて、見ているだけで楽しい。
だが、それだけではない。ひとつひとつのエピソードの積み重ねが、今の金満里の気分を伝える。大事なのはそこだ。エンタメではないのだから、仕掛けや華やかさに惑 . . . 本文を読む
こんなファンタジー小説を読むのは僕の趣味ではない。だが、作者は濱野京子さんだから、それだけで、借りてきてしまった。最初はさすがに抵抗があったけど、だんだん話しの中に引き込まれてきた。やはり、彼女は信用ができる。
とある小さな国のお姫様が、自由を求めて旅に出て、ある国にやってくる。彼女は自分が女である、というそれだけのことで縛られていることが、嫌でしかたない。男はあんなに自由になのに、女である . . . 本文を読む
前作では「右翼」をテーマにして過激な芝居を作った高間さんが、今回は青少年健全育成条例をテーマにして作った作品を再演し、4都市巡業に挑んだ。今回もまた時事ネタで、笑わせるのだが、とてもよく出来ているし、完成度も高い。ツレウヨの浅薄なドラマと違って、テンポもよく、構成もとてもよく練られてある。勢いだけで作った前作とはアプローチは同じだが、時間のかけ方が違うからだろう。
もともとこういうコメディー . . . 本文を読む