大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ホリーウォー・17[ヒナタとキミの潜入記・5]

2021-07-27 05:26:32 | カントリーロード
リーォー・17
[ヒナタとキミの潜入記・5] 



 シンラ北京教官区の孫潤沢は、いつものように司祭補とは思えぬ安物のスーツを着て、教会までの三キロを歩いていた。

「ムキキーー! どこ見て歩いてんのさ!」

 歩道の先で、猿のように喚いている若い女が目についた。女の目の前には、五十がらみの、いかにも流民という感じの痩せぎすのオッサンがはいつくばっている。

「悪気はないんです、お嬢さん。山東の田舎からきて間が無いもので、職業紹介所を探して歩いていたんです。お嬢さんにぶつかろうなんて気持ちはなかったんです。ほんとうです、許してくださいよ」
「ふん、山東の田舎者が! 北京に来るんだったら、都会の礼儀をわきまえることね、安物スマホのナビなんか見ながら歩いているから、人にぶつかったりするのよ。なによ土下座なんかして。ああ、田舎くさくて嫌だ! だれか、百元あげるから、この田舎者張り倒してよ!」
 
 女は百元札をヒラヒラさせながら、流れ歩く通行人に呼びかけ始めた。ニヤニヤ笑っていく者、関わりになりたくなくて無視していく者が多かったが、しだいに女とオッサンの周りに人垣が出来始めた。

「ようし、その百元はオレがいただく。オッサン覚悟しな」

 ヒョロリとした公務員風が前に出た。公務員風は、オッサンを回し蹴りにしようとして、片足を上げて勢いをつけようとしたところ、公務員風は、足をひっかけられて、みっともなくひっくり返った。

「みっともない真似するんじゃないよ!」

 若い女が、立ちはだかっていた。
 
「今の、動画に撮ってSNSに流したからね。二人ともIDパス入れっぱなしだったから、それも写ってる。女、あんたは国営鉄道北京局長の副社長、オニイサンは……あらあら、こともあろうに労務安定局の役人さん。その顔は、現場で上司から冷遇されてるって顔だね。でも、あんたが助けるべきオジサンに八つ当たりはないと思うよ」
 
 周りの群衆は、それぞれのスマホを出し、画像を検索すると自分たちもうつっていることにびっくりし、急きょ、エリート女と憂さ晴らし公務員を非難し始めた。

「あなた、なかなかやりますね」

 孫潤沢は、啖呵を切った若い女に近寄って声を掛けた。

「わたしも広州からの出稼ぎ。見てられなくて……オジサン、これがさっきの男のIDだから、労務安定局に行ったら見せるといい。今日はきっと仕事が見つかるわよ」
「ありがとうございます!」
 オジサンは、何度も頭を下げて労務安定局を目指した。女は、いつの間にか姿をくらましていた。
「逃げた女は、あんたの画像を加工して……ほら、もうやってしまった。二つの動画、どちらが信用されるでしょうね」
「負けたら、広州に帰るだけ。もし成功したら儲けものぐらいに思ってる。じゃ、失礼します。わたし仕事が終わって帰るところでしたから」
「待って、よかったら、もう少しお話しできないかな。ね、陳明花さん」
「……いけない人。勝手に人のID読み込んじゃったりして」
「君と同じだ。正しい使い方ならOKだと思うよ」

 こうしてヒナタは、習の意に反してシンラへの直接的アプローチに成功した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・90『在原業平の高安の恋』

2021-07-26 14:56:06 | ライトノベルセレクト

やく物語・90

『在原業平の高安の恋』    

 

 

 在原業平は知らなくても桓武天皇は知ってる。

 だよね、鳴くよウグイス平安京! ⇒ 794年平安京遷都!

 日本史年代語呂合わせの一番にくるあれだよ、あれ(^▽^)!

 その桓武天皇のお孫さんなんだから、すごいと思わない!?

 こんなのもある。

 

 ちはやふる 神代もきかず 龍田川 唐くれないに 水くくるとは

 

 ね、聞いたことない?

 広瀬すずさん主演の青春映画だよ。

 競技かるたに青春をかける、広瀬すずさん主演の女子高生の映画だよ!

 原作はコミックで、日テレでアニメにもなった!

 シリーズの1を『上の句』、2を『下の句』って付けるのも、おしゃれで気が利いている。

 そのお話に出てくる競技かるた会。

 その開始の時に読まれる和歌がね、この業平さんの『ちはやふる』なんだよ。

 

 よくわからないけど、競技開始の合図みたいに読まれる業平の歌でね、文字通り映画のタイトルにもなっている。

 

 その業平さんの逸話にね『在原業平の高安の恋』って言うのがある。

 業平さんは、800回以上も生駒山を超えて高安に通っていた時期があるの。

 その時、茶屋の辻ってところを通るんだけど、まあ、茶屋の辻だから茶店が並んでたわけですよ。

 そこで休憩してると、時々、すごく可愛い女の子に出会う訳ですよ。

 どうにも可愛い女の子なんで、業平さんは、峠を下りてくる時には、もう意識してしまって「ああ、あの窓がある茶店なんだなあ(n*´ω`*n)」てなわけです。

 でも、業平さんは桓武天皇の孫だけあって「ねえ、ちょっとお茶しない(^^♪」なんて気安くナンパなんてしないわけです。

 月に何度か、生駒山を超えて茶屋の辻が見えてくると「ああ、今日はあの娘に会えるかなあ(〃´∪`〃)」と楽しみにして、運よく会えたりすると嬉しいわけです。

 やっと、その娘の茶屋が特定できると「あの娘がオーダー取りに来てくれないかなあ( #´艸`#)」と期待に胸を躍らせるわけです。

 身分が高いけど、謙虚で、イケメンなのに奥ゆかしい!

 そんなことを何十遍か繰り返して、やっと口がきけるようになると、女の子も業平さんを意識するわけですよ。

 そして、茶屋の辻だけじゃなくて、高安の郷全体で噂になったりするんです。

 

 そんなある日のこと、業平さんが峠を下って、茶屋の辻が見えるところまでやってくると、茶屋の二階の窓が開いていて、女の子の姿が見えたんです。

「あ、今日もあの子に逢える(n*´ω`*n)」

 期待に胸を躍らせると、なんと、その子は食事中。

「え、あれが、あの娘か……?」

 お店で顔を合わす時の感じとはぜんぜん違うわけですよ!

 だらしなく背中を丸めて、立膝なんかもしてて、ビックリするくらい大きな口を開けて、山盛りのご飯をバカバカ食ってるわけですよ!

 それで、百年の恋も覚めてしまって回れ右。それ以来、業平さんは茶屋の辻には立ち寄らなくなった。

 その時の二階の窓が東向きだったもので、高安の郷では東側には窓を付けなくなったという言い伝えがあるのです。

 

 なるほど、含蓄のある話です。

 

 ジリリリン ジリリリン

 感心していると、机の上の黒電話が鳴ります。

「もしもし」

 二丁目地蔵さんかな?

「もしもし、やくもです」

 受話器を取ると大当たり。

『二丁目地蔵です、シラミ地蔵さんの件、ありがとう』

「いえいえ、わたしも楽しかったし、ためになりましたし、こちらこそ」

『そう、それは良かった。ねえ、百人一首やりませんか』

「え、百人一首ですか?」

『うん、チカコも元気にしてるかなあって思うし、お茶しながら百人一首のかるた会。いかがかしらあ(^▽^)』

「あ、いいですね! 二丁目まで伺えばいいんですか?」

『いえいえ、それじゃ時間がかかるわ。わたしの方から伺います♪』

「あ、でも……」

 うちは無駄に広いから、カルタやるくらいの部屋はいくつもあるんだけど、家の者に見られるのはまずい。

「お世話になってるお地蔵さんです」なんて紹介したら、みんな腰を抜かしてしまう。

『机の上よ、やくもの(o^―^o)』

「わたしの机?」

『チカコのために、いろいろ揃えてくれてるじゃない。そこでやったら楽しいと思うの。やくもも1/12サイズになってね♪』

「ア、楽しいかも!」

『じゃ、今から行くね』

「あ、五分ほど待ってください(^_^;)」

『どうして?』

「かるた会に相応しいセッティングしますから」

『おお、それは楽しみ。じゃ、五分後にね(^^♪』

 

 よーし!

 

 1/12情景セットのあれこれを並べてみるわたしでした(o^―^o)。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『連続笑死事件・笑う大捜査線・3』

2021-07-26 07:11:31 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『連続笑死事件・笑う大捜査線・3』  

 



 次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。

 そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。

 犯人は重大なミスを犯した。メッセンジャーに使った子供たちに顔を晒してしまったのだ。 

 むろん子供たちはマインドコントロールされ、暗示もかけられているので、当たり前に聞いては四人それぞれの「犯人の特徴」を言う。それも、聞く度に、その特徴が変わる。
 逆に言えば、そのマインドコントロールと暗示を解いてやれば、子供たちは正確な犯人像を言ってくれるはずだ。
 倉持警視と鑑識の山本部長は、石川奈々子という身内の犠牲者を出したこともあり、非常な決心をもってこれに臨んだ。

「早くホシを上げなければ、日本の警察の威信に関わります!」

 管理監は、そう吠えたが、要は自分の出世に関わるからである。
 そうこうしている間に、しだいに子供たちの暗示が解け始めてきた。

「ちょっと手荒だけど、動き出さなきゃならないわね」

 警視庁の脇を法定速度で走りながら、女は、そう呟いた。

 車の中には、子供たちの脳波を検知するためのパソコンが置いてある。測定機は、子供たちの髪の毛に結びつけてある。髪の毛にそっくりなので、結びつけた髪の毛が抜けない限り有効である。
 それが、もう限界に近いことを示している。むろん簡易な変装はしているが、鑑識の山本にかかれば、半日で正体を見破られてしまうだろう。
「もう、これまでね」
 そう呟くと、女は眼鏡をかけただけで、警視庁に乗り込んだ。

「もしもし、どこの部署にご用でしょうか?」

 案の定、エレベーターの入り口で、警戒の警察官に声をかけられた。女は一枚のカードを警官に見せた。
「ああ、どうぞ、五階です」
「誤解ですね」
 誤解がキーワードの一つであった。「五階」と「誤解」は微妙にアクセントが違う。言われた本人も気づかないほどに。そして、もう一つ「交代」という言葉を聞くと、この警官は笑い死ぬ。

 五階につくと、特捜本部まで行くのに二度誰何(すいか)され、二度、さっきと同じカードを見せ、通過した。
 二人目までは、交代の時に死ぬはずである。三人目は若い女性警官であった。たまたま、妹に似ていた。

「ありがとう、婦警さん」
 女性警官は可愛く笑った。
「いまどき、婦警なんて言う人いませんよ」
「そうね、でも、わたし『婦人警官』て、言い方好きなもんで。母はそう呼ばれてましたから」
「お母さん、婦人警官でらっしゃったんですか!?」
「ええ」
「じゃあ、もっともですね」
 これで、この子は昏睡のあと、少し記憶障害が残るだけですむ。

 特捜本部に入ると、女はすぐに小さなヘッドセットを着けた。これでこの部屋中に声が届く。

 女は、最初のカードを読み上げた。部屋の全員がクスクス笑い出した。倉持警視は、密かにイヤホンを両耳につけた。
「ハハハ、そいつが被疑者だ、確保しろ。ハハハ」
 まだ、症状の軽い倉持警視が言った。
 ニコニコした若い刑事が三人やってきた。女はすかさず、次のカードを読み上げた、マイクを外して。
 三人の若い刑事は大爆笑し、床に倒れ痙攣し始めた。
「この三人は、四十秒で死ぬ。次は、あなたたち」
 女は再びカ-ドを読み上げた。特捜本部のほぼ全員が大爆笑になり、床をのたうち回った。

「なぜ、あなたたちには効かないの……」

「だって、面白くないもの……」
 そう答えたのは管理監だった。女は思った。こいつは日本語の機微が理解できないインテリバカだと。すかさず、カードを英訳して言ってやると、管理監は見事に即死した。

「そこまでだ!」

 倉持警視が、叫んだ。

 外で大勢の人の気配がした。同時に倉持警視がピストルを撃った。女は、かろうじてかわしながら、マイクをスワットの無線にリンクさせ、カードを読み上げた。とたんに外で大爆笑が起こり、人がどたどた倒れる音がした。

「ど、どうしたんですか!?」

 さっきの女性警官の声がした。女はドアに向かい「交代」と叫んだ。痙攣したような笑い声がして、気配が消えた。

「無益な殺生しやがって!」
 倉持警視の怒声続いて、銃声がした。
「スワットは死んだけど、あの婦警さんは昏睡しているだけよ。それにしても、あなたには、なぜ効かないの!?」
「オレは、洒落の分からん男でな!」
 倉持警視は、一気に間合いを詰めてきた。女はパソコンのケーブルを思い切りひっぱり、倉持警視はそれに引っかかって、ドウと倒れ、イヤホンの片方が外れた。
 女は素早く、それを奪うと、倉持のピストルを持った手を踏みつけた。
「なるほど……翻訳機か。日本語が英語で聞こえるのよね。そっちのエライサンとは反対か」
「一つ、教えてくれないか。お前さん自身は、なぜ死なないんだ……」
「作家はね、自分の言葉に愛情を持ってるのよ。その愛情を注いだ言葉で死ぬわけ無いでしょ」
「でも、生かしておくわけにもいかないな」
「どうぞ……」
 女は、倉持の手を踏みつけた足を緩めた。すかさず倉持警視は、しびれる手でピストルを撃った。
 弾は女の胸を貫いたが、死ぬまでには至らなかった。
「最後の一枚、お父さんのギャグ……」
 女は、苦しい息の中で、その短いギャグを読んだ。そしてニッコリ笑ってこときれた。
 倉持警視は、大爆笑の末、二分後に息を引き取った。

 この内容は、女のヘッドセットを通して、彼女のパソコンに送られ、自動的に文章化され出版社に送られた。ただし、殺人ギャグは全て文字化けしていた。
 作品は『連続笑死事件・笑う大捜査線』として出版され、その年のベストセラーになった。

 ちなみに文字化けした殺人ギャグは以下の通りである。解析すれば、まだ効き目があるかも知れない……。

 !""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪!""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪###!!
 
     『連続笑死事件・笑う大捜査線』完

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホリーウォー・16[ヒナタとキミの潜入記・4]

2021-07-26 07:00:31 | カントリーロード
リーォー・16
[ヒナタとキミの潜入記・4] 



 
 ビルの崩壊の原因は手抜き工事だった。鉄筋が不足していて、一部のコンクリートには海砂が使われていて、不足していた鉄筋の腐食に追い打ちをかけたのだ。
 ただちに、施工業者とビルの管理会社の幹部が逮捕された。
 
 チャンスは意外と早くやってきた。

 例の大佐たちが粛清されたのだ。

 共和国建国に力はあったとは言え、大佐たちは中国の悪い側面を濃厚に引き継いでいた。
 身内に甘く、情実や賄賂で彼らは動いた。
 習平均中佐たちは、地道に彼らの腐敗ぶりを記録していた。
 例の大佐は、軍組織の中では使い走りのトップぐらいの位置で、大佐自身が腐敗の中心に居たわけではない。
 ただ、走り使いは、行った先々で利権をあさっていたので、大佐を粛清することで、彼を便利使いしていた将官クラスの守旧派が芋釣り式に検挙され、将官の半分がいなくなった。
 
 政府は、ビル崩壊の原因に重ね合わせて『組織の腐敗・腐食分子を一掃する』とキャンペーンを張った。
 
 どうやら、旗振り役は習のようであった。
 
 組織と言うものは、たとえお飾りでも階級に見合った者がトップに立っていないと組織は弱体化していく。古くはルーマニアのチャウシェスク、リビアのカダフィ大佐らがそうであった。

 習は大佐に昇進はしたが、軍のトップには、要領が悪く他の将官たちのように身軽に動けず、そのために権力の悪用もできずボンヤリしていた予備役寸前の能無したちを据えた。

「習さんやったわね、おめでとう。これで、このラウンジも習さんみたいな清廉な方たちばかりになって、ダブルスタンダードを使わずにやっていけるわ」
 
 今度の改革で、ラウンジの女支配人になった林息女が、揉み手をして喜んだ。明花のヒナタと開花のキミも表面それに同調した。
 
「息女大姉、悪いが国は、このラウンジを閉鎖する。言い方は悪いが、軍腐敗の温床の一つがここだ。これからは民間の業種の一つになる。高級であることはかまわんが、客は金さえ払えばだれでも利用できるものになってもらう。従って、ここは競売にかけられる。むろん大姉が、その競売に参加することは自由だが」
 
「……分かったわ」
 
 林息女の目には、怯えと野心の両方が光っていた。

 改革没落組の処刑が始まった。

 軍のトップにいた者たちへのそれには容赦はなかった。文官たちは財算没収のうえ免職にしたり、罪に相応な有期刑に処したが、軍人たちは死刑になるものが多かった。ただ、以前のような公開処刑は行わず、刑務所の中の執行室で、医師による薬殺に処された。
 
「死刑は嫌だあ!」
 
 最後まで泣きわめいていた例の元大佐などは、本人にも知らせず精神安定剤ということで薬を投与。眠るように逝かせてやった。

「習さん、処刑者の名前も公表しないのね」

 民間のクラブに変わったラウンジに久々にやってきた習平均に、林息女が先週の天気予報を確認するように聞いた。
 
「軍法会議の決定さ。わたしが決めたわけじゃない。ただ、非人道的な方法がとられなかったことを、わたしは喜んでいる」
 
 あいかわらず日本酒を舐めるように飲みながら習は言った。処刑された者は名前も公表されなかった。かつての職階と罪名だけが官報に出るだけである。日本的な穏便さと言えた。
 
「分かる人にだけ分かればいいのよね」
 
 明花が、拳一つ分開けたシートで言った。横で、開花が微笑んでいる。二人とも習の好みをよく知っている。
 習は、こういうところでもベタベタされることを好まない。
 
「息女大姉、よかったら、この店を買い取ってクラブとして成功した話を聞かせてくれないかな」
 
 習は、こういう逆境から実力で立ち直った者の話を聞くのが好きだ。
 
「大変でしたけど、この陳姉妹の力が大きいんですよ」
「ほう……」
「そんなあ、息女ママの力とねばりですよ」
 
 明花は謙遜したが、習は正確に陳姉妹の力と、クラブの再建に不正じみたことがないことに感心した。

 習は、ヒナタの明花とキミの開花にクラブのホステス以外の力があることを感じ始めていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誤訳怪訳日本の神話・51『天孫降臨と二つの恋・2』

2021-07-25 09:15:34 | 評論

訳日本の神話・51
『天孫降臨と二つの恋・2』  

 

 

 猿田彦は天狗のように描かれることが多い国津神です。

 手塚治虫の『火の鳥』ではアトムのお茶の水博士のように描かれています。石ノ森章太郎の『古事記』では猿の惑星のキャラのように描かれています。

 異形の神さまではありますが、生命力が溢れているように感じます。豊芦原中つ国が豊かで生命力に溢れていることの表現かもしれません。

 猿田彦を目にしたニニギノミコトはタヂカラオの肩に乗ったまま訊ねます。

「おまえは、いったい何者だ?」

 猿田彦は高千穂の峰に怪しげな神さまの一団が現れてきたというので偵察に来たのに違いありません。

 大魔神のようなタヂカラオ、その肩にチョコンと乗った少年ニニギノミコト、その横には大賢人のオモヒカネ、勇士イシコリドメ、アメノイハトワケ、魔導士フトダマ、錬金術師タマノオヤ等々。

 まるで、オンラインRPGのギルドの一団のようです。

 それまで豊蘆原中つ国を縄張りにしていた中つ国ギルドとしては、問いただすのは猿田彦の方です。

 ところが、猿田彦は蹲踞して、こう述べます。

「これは、中つ国の国津神の猿田彦であります。高千穂の峰に尊い神さまが降り立たれたというので、道案内のため、お迎えにあたった次第であります」

 神話的には、ニニギの一団にえも言えぬ神々しさを感じて恐れ入ったということになっています。

 

 でも、この神さまギルドの中にアメノウズメがいたのですなあ(^_^;)

 

 ウズメは天岩戸でR指定のダンスを踊って、神さまたちを魅了しただけでなく、アマテラスにさえ「何事が起こったの!?」と岩戸を少し開かせるぐらいの魅力があります。

 現代では、芸能の女神様になって、京都の車折神社をはじめ彼女をご神体にする神社がいっぱいあります。

 猿田彦は、この日本史上初のアイドルに心を奪われたのでしょうねえ。

 ニニギノミコトは「じゃ、この高千穂の峰に最初の宮殿を建てるよ」と宣言します。

「え、こんな山の上にですか?」

「うん、ここからはグーグルアースみたいに中つ国が見えるし、韓の国も望める。朝日も夕陽もめちゃくちゃ綺麗だろうし、ここにするよ」

「そ、そうでありますか(^_^;)」

「だからさ、もう帰ってもいいよ。ぼくが、ここに留まると分かったら、中津国のみんなも安心でしょ(^▽^)」

「は、それは、たしかに……」

「ウズメ、猿田彦を送ってやってくれる(*^^)v」

「え、わたしがですか!?」

「まずかった?」

「え、いえ、そんなことは(n*´ω`*n)」

「えへへ、ま、そういうことで」

「かしこまりました!」

 

 ニニギは分かっていたのです。

 猿田彦がウズメに一目ぼれして、ウズメも猿田彦のことを憎からず思っていたことを。

 見かけは少年ですが、なかなか大人の感覚。さすがはアマテラスの孫であります。

 こうして、ウズメは猿田彦とともに中つ国に向かい、中つ国の神々から『猿女の君』と呼ばれるようになり、めでたく芸能の神さまになったのでありました。

 

 次回は、天孫降臨、もう一つの恋に突入いたします♪

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『連続笑死事件・笑う大捜査線・2』

2021-07-25 07:04:44 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『連続笑死事件・笑う大捜査線・2』  

 



 次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。

 死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。

 編集長はパソコンの画面を見ながら父の顔も見ず事のついでのように言った。

「先生の感覚には、今の子はついて来れないんですよ。もっとダイレクトでビビットなもんじゃないと」
「しかし、それでは、子供たちに本を読む力が付かん」
「教育図書出してるわけじゃないんですからね、そういうのはよそでやってくださいよ。とにかく、この販売部数では、次の仕事はお願いできません」
「読者は育つものだ。もう一年続けさせてくれ。必ず部数は増える」
「ま、そういう読者が現れたら、またお願いしますよ」
 
 この言葉が合図だったように、バイトのKがドアを開けた。

「これが、今の出版業界だ。よく分かったら、もう作家になろうなどとは思うな」
 悪い右足を引きづりながら、父が言う。
「肩に掴まりなよ、お父さん」
「作家は、両足で大地を踏みしめながら進むもんだ。地に足の着いた本を書かなきゃいかん!」
 そう言って、父は転んだが、娘が差し出した手を払いのけ、駅へと向かった。

 ほどなく父は不遇のうちに逝ってしまった。

 娘は、その後5年間消息不明だったが、昨年『素乃宮はるかの躁鬱』で、ラノベの世界に登場した。自分を高く買ってくれるところなら、どこの版元の本でも書いた。

 ただ、父をソデにしたK出版を除いて。

 おかげで、業界トップに君臨していたK出版は三期連続の赤字を出し、親会社のK総合出版はK出版を整理にかかり始めた。
 そこに、その超有名作家になった娘から連絡があり、ほいほい乗った編集長と元アルバイターは、証拠も残さず、死因も分からないまま殺された。

 娘は、父の作品をコンピューターで徹底的に解析し、笑いの要素を抽出した。それを組み合わせ、対象に合わせた話を作り、この世に生きる値打ちがないと判断した相手に次々と送りつけた。メールにしろ手紙にしろ、相手が目を通した後は消滅するか、まったく別の文章になるようにした。この仕掛は、アメリカのCIAの元職員から、身の安全を保証する工作をすることを代償に教えてもらったものだ。
 ただ、彼は、最後の部分を教えるときにリストを渡した。
「こいつらを始末してくれること」
 それが元で、世界中で『笑死事件』がおこることになったのだ。

 科捜研の石川奈々子は、H氏を笑死させた手紙の紙の出所をほぼ突き止め、明日は倉持警視に報告できるだろうと思い、科捜研のCPUに解析を任せ、久々に定時に退庁した。

「ねえ、石川さんでしょ?」
 小学五年生ほどの女の子が近づいてきた。
「そうよ、なにかご用?」
「実はね……」
「ハハ、なにそれ?」
「とにかく、伝えたからね」

 それだけ言うと女の子は行ってしまった。

 そんなことが四回続いた。四回とも違う女の子だ。さすがに笑死事件との関連を疑ったが、いっこうに自分は死なない。
 そのかわり、科捜研のCPUのキーワードを四回目に喋ってしまったことには気づいていなかった。キーワードは、四人目の女の子の肩に留めておいたてんとう虫形のマイクで拾われ、役割を終えたマイクは、ポロリと地面に落ち、折からの竜巻警報の風で、どこへともなく飛ばされていった。

 奈々子は、地下鉄のホームに降りて電車を待った。

 先に下りの電車がやってきた。その発メロを聞いたあと、上りの着メロがして、奈々子は電車に乗って、発メロを聞いてしまった。

――しまった――

 そう、思ったとき、奈々子は爆笑してしまった。慌てて耳を押さえたが手遅れであった。偶然居合わせた医者が、手を尽くしたが、次の駅に着いたときには、奈々子は体をエビのように丸め、涙と涎を垂らした爆笑顔のままこときれていた。

「すまん、石川君。しかし、君の死は無駄にしない。手がかりは残してくれたからな」

 手がかりとは、科捜研のCPUではない。キーワードを知られた時点でバックアップごと消されている。

 四人の小学生を目の前に、ため息をつく倉持警視であった……。
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホリーウォー・15[ヒナタとキミの潜入記・3]

2021-07-25 06:53:10 | カントリーロード
リーォー・15
[ヒナタとキミの潜入記・3] 



 幹部食堂からラウンジに移動するのに一週間もかからなかった。

 同じ広州人……という触れ込みなので、広州出身の林息女チーフの推薦も楽にとれたし、なにより、食堂に通ってくる上級将校たちの目に留まった。
 
 食堂とラウンジは大違いだった。食堂は一応軍の規律の中にあり、兵士下士官用のそれとの違いは席がゆったりしていることと、セルフサービスでないことぐらいで、将校たちもハメを外すこともなかった。

 しかし、ラウンジ、特に賓席と呼ばれる特別なところは、将官クラスと将来を約束された佐官たちのハーレムであった。

 日本で言えば、銀座の一流クラブ並の設備とサービスだ。
 
 扱いには二種類ある。統一中国であったころからのエスタブリッシュメントと、分裂後の成り上がり。それぞれに合った応対ができなければ、このラウンジでは務まらない。
 
「今の大佐、おさわりばっか。典型的なスノッブね」
 開花に擬態しているキミは、きれいな北京語でグチる。
「漢はまだまだ発展する。もうしばらくは、ああいう奴の力も必要だからね。でも、再び統一が実現すれば、真っ先に粛清されるな」
 日本酒をあおりながら、習平均中佐は呟く。
 
 階級は一つ下なだけだが、さっきの大佐より十歳も若い。旧統一中国時代からの太子党に属するエリート軍人だ。
 
「習さんは、日本酒しか飲まないのね」
 明花に擬態したヒナタが、五杯目の杯を満たす。
「わたしは日本酒を飲み漢は日本を飲む。わたしは、日本の総督になる。わたしは日本が好きだ。あの洗練された伝統と技術革新の両立はとても魅力的だ」
「そうね、習中佐の冷静さは、日本でも十分通用しそうですものね」
「中国の大胆さと、日本の技術革新で、新しい国家像を作っていく」
「そう簡単に、二つの文化が融合されるかしら」
「ハハ、わたしは、君のそういう簡単に迎合しないところが好きだ。君の言う通り、このままではダメだ。日本が、あんなちっぽけな国なのに、極東戦争で屈服しなかったのは、いったん国難があれば団結する民族性にある。我々は極東戦争で、その日本の民族性を呼び覚ましてしまった。その表れがヒナタだ。自立し思考学習する最終兵器」
「爆発したら、全人類が滅びてしまうほどの怖いものだってうかがってますけど」
「それも、この漢に潜入しているとか……」
「威嚇だよ。ヒナタを自爆させたら日本も無事じゃ済まないからね」
「なるほど、そんなに怖がらなくてもいいんだ」
 開花がほっとしたように言って、わずかにすり寄ると習の手が自然に肩に周る。
「日本から学ばなければならないのは、あの民族性だ。自分のことや身内の利益では動かない。最後は民族や国家のために一致団結する、あの民族性。それを切り崩しながら我々漢民族の国民性を変えていく……そうしなければ、この大陸国家は分裂したまま衰退していく」
 明花が、空いた杯を足そうとすると、習は杯を伏せ、開花に周した手を戻した。
「今夜は飲み過ぎた。これ以上飲んだら、自分の目的と幻想の区別がつかなくなる」
 
 ドゴゴーーーン
 
 くぐもった地響きがして店が揺れた! ガチャンガチャガチャ パリン ガチャン 棚やカウンターに載っていた酒瓶やグラスが落ちて粉々になる。
 
 キャーー(# ゚Д゚#)!!
 
「怪我は無いか?」
 
 揺れが収まると、中佐は二人を気遣い「大丈夫です」の返事を聞いてから窓辺に寄った。
 
「筋向いのビルが崩れたんだ……」
「テロかなんかですか!?」
「ちょっと見てくる」
 
 習は落ち着いて様子を見に行った。
 店内も通常営業のできる状態ではなかったが、習のように外に出るもの少なく、大方は窓辺近くに寄って様子を窺うばかりだ。
 
 息女がホステスと客にけがの無いことを確認し終わったころに習が戻ってきた。
 
「爆発があったわけではないようだ、おそらく革命前に手抜き工事で建てられたビルのようだね。なに、このビルは革命後の政府直轄の建築だから大丈夫さ。ママ、今日は帰るよ」
 
 それだけ言うと、律儀に勘定を済ませて帰って行った。
 
 明花に擬態したヒナタは、習は使えると思った……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鳴かぬなら 信長転生記 20『狙撃・1』

2021-07-24 09:06:41 | ノベル2

ら 信長転生記

20『狙撃・1』   

 

 

 おらん。

 

 おらんと言っても、近習の森蘭丸を呼んだわけではない。

 放課後、いつもの公園に足を向けたが、市の姿が無いのだ。

 市は、放課後になると学校や近所の取り巻きを連れては、この公園に足を向けていた。

 なにが癪に障るのか、取り巻き達を怒鳴り散らしたり打擲を加えたりの市であった。

 学校の部活以外はあくびが出るほど退屈な毎日だが、公園に来て妹を冷やかすのが、ちょっとした楽しみになっていたんだぞ。

 公園の入り口はU字型の鉄柵が解れかけの知恵の輪のように植えてある。

 バイクの侵入を防止するための馬防柵のようなものなのだろうが、自転車でも入りにくく、実質的には人がクネクネと身をよじって入るしかない代物だ。

 土俵さえつくれば、相撲興行ができそうなくらいの広さのある公園なのだが、関取のブットイ体では、さぞ難渋するであろう。

 市の心に似ているかもしれんな……。

 そう思うと無意識にスマホを出して写真を撮ってしまう。

 利休の注文で撮っているわけではないので『インスタ映え』も『野にあるごとく』もない。

 俺は関取ではないので、ススっと……いかなかった。

 

 ウ

 

 痛いと思った時は切っていた。

 左のふくらはぎに血が滲んでいる。

 見ると、U字柵の下の方が小さくささくれ立っている。自転車か何かが乱暴に入ろうとして傷つけてしまった傷だろう。

 フフ、こういうところも市の心のようだな。

 しかし、ズボンを穿いていたら、こういう傷はつかないだろう。

 転生して女になったからこそ付いた傷でもある。

 女だってズボンは履く? そうだろうが、俺の美意識では女はスカートだ。

 放っておいてもいいのだが、流れた血でソックスが汚れるのはごめんだ。

 グニ

 手の甲で拭って、拭ったそれを無意識に舐めてしまう。

 自分の血でも、舐めると心の臓が跳ねる。血は戦場の味だ。

 

 取り巻きが居ないことは見当がついていた。

 が、市の姿も無かった。

 ジャングルジムの天辺にも、ベンチや、他の遊具に目を移しても妹の姿は見えなかった。

 

 何かあったか?

 

 そう思って、ジャングルジムを右に見ながら足を進める。

 ん!?

 気配を感じた。

 何者かが俺を狙っている。針を刺すのに似た気配だ。

 鉄砲だ。

 京から岐阜への帰り道、千草超えの折に杉谷善住坊に狙撃される寸前に感じた気配に似ている。

 鉄砲は狙っている人間の気配よりも、鉄砲そのものがもつ凶器の気配の方が強い。

 撃たれる!

 思った瞬間に身を捩る。

 パシュン

 ズッコケるほどかそけき音がして、足もとに白い丸薬のようなものが落ちた。

 これは!?

 思った瞬間、俺は地を蹴っていた!

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田(こだ)      茶華道部の眼鏡っこ

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』

2021-07-24 06:45:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『連続笑死事件・笑う大捜査線・1』  

   


 こんなに驚いたことはない、踏み込んだら全員が死んでいた……。

「はい、なんやみなさん大笑いされたかと思たら、シーンとなってしもて……」

 女将も、客が客だけに、うかつに座敷に入ることもできず、警察が踏み込んで始めて気づいた。

 現場を指揮し、突入した倉持警視も、数々の修羅場を見てきたが、こんなことは奉職以来始めてだった。

『如月会』と称される会合が、日本中の暴力団の頭の集まりであることは、分かっていた。

 しかし確たる証拠が無く。また上からの圧力もあり、なかなか手が出せなかった。

 内閣が改造され、法務大臣が更迭されたどさくさ紛れに、やっと機動隊二百名、マル暴デカ五十人を動員してやった宿願の「大逮捕劇」になるはずで、倉持警視は、一月前から『踊る大捜査線』を研究し、装備はおろか、インタビューに備えての決めポーズから、表情の決め方、果ては悪のりしたテレビ局からメイクさんまで入ってもらって、入念にメイクまでしてきた。

 定年前、ノンキャリアとしては最高の警視に登り詰め、宿願の一斉検挙……の、はずだった。

「倉持さん、こりゃほとんど全員即死だね……」
「そ、そんな……」

 鑑識のヤマさんに言われて倉持警視は言葉も無かった。

 日本中のワルのトップ、三十六人が目をへの字にし、涙とヨダレを垂れ流し、中には失禁した者もいたが、この上もない笑顔で死んでいた……いや、一人四菱会の会長だけが、方頬で笑っていただけだが、女房に聞くと、会長の信条は「男は一生に一度方頬で笑うぐらいがいいんだ。一流の男はヘラヘラ笑うもんじゃねえ」だったそうで、方頬とはいえ、亭主の笑顔を見たのは初めてだった。

「全員の解剖所見が出た」

 ヤマさんが、捜査会議場にやってきて、額の脂汗を拭った。

「やっぱり、薬物ですか?」

 言葉だけは丁寧な、管理監が聞いた。

「それが……四菱会の会長一人脳内出血でしたが、残り三十五人は不明でした」
「ふ、不明とはなんですか。世界に冠たる日本警察の鑑識のトップが、三十六人の死因を調べて、たった一人の死因しか分からんというのですか?」
「あえて言えば、ショック死……としか申し上げられません」
「外傷も無しに、ショック死!?」
「あり得ない!」

 そんな怒号の中、山本鑑識官はうなだれてしまった。

「全員が、一枚ずつもっていた紙には何もなかったのかね?」
「それについては……」

 ヤマさんが顔をあげ、みんなは固唾を呑んだ。

「AKBのヒット曲三十六曲がプリントされていました。毒性のあるものがないか調べ上げましたが、現状では何も出てきません。紙は、どこにでもある、A4ロクヨのプリント紙でした。指紋、掌紋は被害者のものしか出てきません」

 倉持警視は腕を組んで天を仰いだ。警察官三十四年勤め上げた中で、こんなヤマは始めてであった。

――定年前の最初で最後の花道になるはずだったのに……なんか急に腹減ってきたなあ――

 その顔は、刑事の一人が隠しカメラを兼ねたライターでタバコに火を点けたとき、偶然シャッターを押してしまい、それが後日マスコミに流れ、『第一線刑事の苦悩』というタイトルで報道写真賞をとったのが唯一の成果だった。むろん写真を提供(実際はコピーされた)した刑事は減俸の上戒告処分になった。

 これが、連続笑死事件の、ほんの幕開けであることは、世界中の誰もが気づいてはいなかった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホリーウォー・14[ヒナタとキミの潜入記・2]

2021-07-24 06:29:46 | カントリーロード
リーォー・14
[ヒナタとキミの潜入記・2] 



 
「水餃子、めっちゃおいしかったね(^▽^)」

 キミが喜んで、ヒナタがウンウンと頷く。レジの前を通る僅かの間にである。

 厨房の陳水平は日本語は分からないが、水餃子という言葉と誉めてくれていることぐらいは分かった。
 ヒナタとキミは、完全なミーハーな日本人観光客を装っている。だから、この自然な褒め言葉は増幅されて陳の耳に自然に入ってきた。
 この好意的な感想が、陳の思念を解放させ、陳の属性がキミのセンサーに飛び込んできた。
 
 キミのオープンマインド機能である。東大阪の中小企業のオッサンたちが「まいど!」という言葉が人の心を開く効果があることから、十年の歳月をかけて開発した「言葉による心理開放機能」なのだ。MMF(マイドマインドファンクション)として、防衛省の技研で秘匿一級機能と指定されている。

「あの陳水平のオッチャン、天壇の幹部食堂から回されてきたんやわ。ほんで、理由は…………というつまらん理由。表面は料理の腕が悪いいう調理師のプライドに関わることやけどね」
「すごいね、キミちゃん。水餃子食べただけで、そこまで分かるの!?」
「大阪の中小企業なめたらあきません。食道楽の大阪、食べ物から情報取れる能力は世界一やで」
「そうなんだ(^_^;)」
「もっとも最初に分かったんは、水餃子作ったオッチャンと、おっちゃんが、なにか不満もってるいうことだけやったけど。レジ前のさりげない誉め言葉が、陳のオッチャンの鍵を開けた。ヒナタちゃんの絶妙な相槌も聞いたけどな」
「じゃ、とりあえず天壇に行ってみるか」

 天安門広場前で、二人は当面の行動を決めた。むろん会話は暗号化している。高性能カメラと盗聴機で、二人の会話を拾っても、餃子についての話にしか聞こえていないはずである。

 天壇についたころには、二人は陳明花と陳開花という姉妹に化けていた。

 二人は、陳水平の娘ということになっている。
 
「父も、あれから考え直し、わたしたちに職場を与えてくださるという料理長さまのお言葉を素直にお受けすることにいたしましたの」
 
 見事な広州訛で、ヒナタは料理長に申し訳なさそうに言った。
 
「水平も頑固すぎるんだ。広州でくすぶっているよりは、この漢の天壇に来た方がずっと君たちのためになる。それを邪推して辞めていくんだから、どうしようもない。しかし、水平のやつ、よく承知したな」
「わたしたちが、文句言ったんです。しょせん魏民主国は漢にはかないません。天壇に来た方が、ずっと……でしょ。ねえ、お姉ちゃん」
「ええ。父は、ここを出て間がありません。ほとぼりが冷めたころに……父のこともよろしく」
「水平も幸せ者だ、こんな孝行娘を二人も持って。まあ、わたしの見た限りでは合格だが、君らには幹部食堂で働いてもらうつもりなんだ。接遇の責任者は、林息女同志だ。さっそく林同志に会ってもらおう」
 
 料理長は、ピカピカに剃った顎を撫でながら、二人を上物と皮算用した。

「よく来たわ明花、開花。食は広州にあり! 本当の料理と、もてなし方を漢のオッサンたちに教えてやって。魏は漢にけっして劣らないことを」
 
 林息女も広州の出身らしく、二人には大きな期待を持っているようだった。
 
「見かけは合格、あとは幹部相手に相当のお相手ができるかどうか、まずは、配膳の練習から……」
 
 二人は、配膳から接待の仕方まで、息女にチェックされた。
 わざと二箇所間違えて息女の指導を受け、息女の優越感も満たしてやった。
 息女は、広州人として漢の中枢で働くことに屈折した優越感と野心を持っていることが分かった。

 まずは、第一関門突破。
 
 あとは……流れのままに。でも自信たっぷりの二人ではあった。 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・218『ごま塩と朝顔の種』

2021-07-23 08:27:56 | ノベル

・218

『ごま塩と朝顔の種』さくら      

 

 

 木村重成さんのお墓に行ってから調子が悪い。

 

 お墓の前でクラっときて、木村重成さんに出会った……夢か幻やいうのんは分かってる。

 で、たぶん熱中症やったんやと思う。

 帰ってからお医者さんに行ったら「うん、熱中症」と言われたし(^_^;)。

 

 おかいさんが目の前にある。

 

 おかいさん、変換したら岡井さん。

 べつに、岡井さんいう人と朝ごはんを食べてるわけやない。

 お粥のことです。

 お祖父ちゃんが、この三日作ってくれてるんです。

 おかいさんの作り方は二通りあるんです。

 冷ご飯に水を入れて煮込むという略式。

 それと、一からお米を炊いてこさえる、由緒正しいおかいさん。

 お祖父ちゃんのは、由緒正しいおかいさん。

 最初は、かんてき(七輪)出して、どこから出てきたんか豆炭でコトコト炊いた本格派。

「ありがとう、お祖父ちゃん」

 ウルウルしながらお礼言うたら、おっちゃんが「年寄りのイチビリや、気にせんとき」と親不孝なことを言う。

 しかし、二日目からはガスになったとこを見ると、やっぱりイチビリかも。

「かんてきに豆炭の方がおいしいねんけどなあ……」

「せやろね(^_^;)」

 返事はしてるけど、違いは分かりません。

「学校やすんだらあ……」

 おかいさんの向こうで、お祖父ちゃんが言います。

 お祖父ちゃんは、孫の事が心配なんで、この三日、朝ごはんをいっしょしてます(テイ兄ちゃんは「ひまなだけや」、詩(ことは)ちゃんは「おかいさんが美味しいか気にしてるだけ」と言います)

 学校は休みません。

 なんちゅうても、夏休み寸前やったしね。ほんで、無事に夏休みになったしね。

 それに、今日はオリンピックの開会式!

 こないだまでオリンピックに反対してたテレビも、もうオリンピック一色!

 おかいさんも白一色……なんで、梅干し載せたり、海苔の佃煮載せたり。

 今日は、シンプルにごま塩を振りかけます。

 

 ヘップシ!

 

 クシャミしたら、ごま塩が飛び散ってしもた。

 食卓にアクリル板は無いので、けっこう飛び散る。

 塩はともかく、胡麻はもったいない。

 指に唾つけて集めては口に入れる。お祖父ちゃんは手伝うわけやないけど、ニコニコ笑って観てる。

 ほんまに、なんちゅうか良寛さんみたいな感じ。

 え?

 ひときわ大きなゴマ粒見つけて、さすがに食べるのをためらう。

「うん?」

 お祖父ちゃんも顔を近づけて覗き込む。

「なにやろか?」

「あ、ごめんなさい、朝顔のタネよ」

 おばちゃんがワイドショー観てる顔をこっちに向けて解説。

「田中さんのお婆ちゃんにもらったから、植えてみようと思って」

「あ、朝顔日記!」

 小学校のころの朝顔日記を思い出す。

 懐かしさが噴き上がって来る。

「おばちゃん、うちもやってみるわ!」

「それええなあ、オリンピックも始まるこっちゃしなあ(^▽^)」

 

 朝食後、茶色い植木鉢に『さくら』と名前を書いて、久々の朝顔日記が始まった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『同じ空気』

2021-07-23 06:29:28 | ライトノベルベスト

 

イトノベルベスト

『同じ空気』  

 



 同じ空気を吸うのもイヤ!

 そういうと思い切りよくドアを開け、その倍くらいの勢いで車のドアを閉めた。

 バタム!

 拓磨は、酸欠の金魚みたいな顔をしたが、追ってこようとはしなかった。

「おれ、今度転勤なんだ……」

 ついさっきの、拓磨の言葉が蘇った。

「え……どこに?」

 そう聞いたときには、もう半分拒絶していた。

「大阪支社に」

 ウッ(#◎+◎#)!!

 この答には、吐き気すら覚えた。

 わたしは大阪が嫌いだ。

 学生時代のバイト先の店長が大阪の人間で、何かというとセクハラ行為に出てきた。

「まあ、メゲンと気楽にいきいや」

 最初に仕事で失敗したとき、そう言って慰めてくれた。わたしは大阪弁の距離感の近さが嫌いだったけど、この時の店長の言葉は優しく響いた。

 でもあとがいけない。

 肩に置いた手をそのまま滑らして、鎖骨からブラの縁が分かるところまで、撫で下ろされた。

 鳥肌が立った(-o-;)。

 狭い厨房ですれ違うときも、あのオッサンは、わざとあたしの背中に体の前をもってくる。お尻に、やつの股間のものを感じたとき。わたしは自分の口を押さえた。押さえなければ営業中のお店で悲鳴をあげていただろう。

「パルドン」

 オッサンは、気を利かしたつもりだろうが、大阪訛りのフランス語で、調子の良い言葉をかけてきた。

 もともと吉本のタレントが東京に進出し、ところかまわず、大阪弁と大阪のノリで麗しい東京の文化を汚染することに嫌気がさしていた。

 そのバイトは一年で辞めた。

 先日アイドルグループの拓磨のオシメンの子が「それくらい、言うてもええやんかあ」と、下手な大阪弁で、MCの言葉を返すのを見て。拓磨にオシヘンを強要したほどである。

 こともあろうに、その拓磨が、大阪に転勤を言い出す。

 とても許せない。

 夕べ夢に天使が現れた、きれいな東京言葉の天使だ。

 で、こんな嬉しいことを言ってくれた。

「明日、あなたの望むことが、一つだけ叶うでしょう……♪」

 で、あたしは思った。

 今日のデートで、拓磨がプロポーズしてくる(*´ω`*)。

 それが、よりにもよって、大阪転勤の話である。

 拓磨とは、大学のほんの一時期を除いて、高三のときから、七年の付き合いである。そろそろ結論を出さねばならない時期だとは、両方が思っていた……多分。

「あたしと、仕事とどっちが大事なのよ!」

 そういうあたしに、拓磨は、ほとんど無言だった。気遣いであることは分かっていた。

「一度口にした言葉は戻らないからな」

 営業職ということもあるが、日常においても、拓磨は自然な慎重さで言葉を選び、自分がコントロールできないと思うと、口数が減るようになった。

 でもダンマリは初めてだ……。

 せめて後を追いかけてくるだろうぐらいには思っていた……のかもしれない。

 丘の公園から出ることができなかった。出てしまえば、この広い街、わたしを見つけることは不可能だろうから。

 わたし自身、後から後から湧いてくる拓磨との思い出を持て余していた。

 拓磨とつきあい始めたのは、荒川の土手道からだった……。

 当時のあたしはマニッシュな女子高生で、同じクラスの拓磨と、もう一人亮介というイケメンのふたりとつるんでいた。
 付き合いなどというものではなかった。いっしょにキャッチボールしたり、夏休みの宿題のシェアリングしたり、カラオケやらボーリングやら。ときどき互いの友だちが加わって四人、五人になることはあったが、あたしたち三人は固定していた。つるむという言葉がしっくりくる。

 そんなある日の帰り道、拓磨の自転車に乗っけてもらった。秋めいてきた空気が爽やかで、二人は静かだった。

 急に拓磨が言い出した。

「おれたち、同じ空気吸わないか?」

「え、空気なんてどれも同じじゃん。ってか、いつも同じ空気吸ってるじゃん」
「ばーか、同じ空気吸うってのはな……」

 拓磨の顔が寄ってきて、唇が重なった。

 ウプ!

 で、あいつはあたしの口の中に空気を送りこんできた。

 あたしは、自転車から転げ落ちてむせかえった。

「一美、大げさなんだよ。どうだ、おれの空気ミントの味だっただろう?」
「そういうことじゃなくて……」
 あとは、言葉にならなくて涙になった。
「一美……ひょっとして、初めてだった?」
「う、うん……」
「ご、ごめんな……(;'∀')」

 そんなこんなを思い出していたら、急に拓磨のことがかわいそうになってきた。

「拓磨……」

 一言言葉が漏れると、わたしは走っていた。

 車は、さっきと同じ場所にあった。でも様子が変だ……。

「拓磨!」

 拓磨は、運転席でぐったりしていた。

 急いで車のドアを開けた。

「う、臭い!」

 車の中は排気ガスでいっぱいだった。

「な、なんで、どうして!?」

 すると、頭の中で天使の声がした。

『だって、言ったじゃない「同じ空気を吸うのもイヤ!」って』

「そんな意味じゃ無い!」

 救急車を呼ぶと、一人で拓磨を車から降ろし、人工呼吸をはじめた。

 中学で体育の教師をやっている一美に救急救命措置はお手の物である。

――いま、あたしたち、同じ空気吸ってるんだから、がんばれ拓磨!――

 拓磨の口は、あの時と同じミントの香りがした……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ホリーウォー・13[ヒナタとキミの潜入記・1]

2021-07-23 05:58:04 | カントリーロード
リーォー・13
[ヒナタとキミの潜入記・1] 



 
 極東戦争は戦争責任が曖昧なまま終わっている。

 前述したが、日本は史上三発目の核攻撃を受けた。
 
 20発のミサイルを撃ち込まれ19発は破壊したが、一発が多弾頭に分裂、それも大半は起爆前に撃ち落せたが、一発が大阪湾に着弾。阪神地方を中心に100万人の犠牲者を出した。
 しかし、中国は直後に5つに分裂。互いに戦争責任を認めないまま現在に至っている。

 今は表面的には戦争状態ではない。

 責任をあいままにしたまま、日本は中国や新生半島国家と友好条約を結んでいる。国内の一部や国際社会からは、日本の弱腰を非難したり軽蔑する空気があるが、責任を追及することは、経済的には緊密に結びついている国際事情の中では無理だった。いや、無理ということで曖昧にしてきた。

 互いに武装と警戒は解いていない。互いに重要都市には、バリアーを張っている。日本のそれはゲルと呼ばれ、大陸のそれは胡同(フートン)と呼ばれている。
 
 ヒナタとキミは男に擬態して、漢民主共和国に観光客として潜入した。漢国際空港に降り立って税関を通過すると、すぐに元のヒナタとキミにもどった。もっとも人相は変えているので、漢国ご自慢の認識システムでも知られることはない。

「フフ、それでも武装警察が動き出したみたい」

「情報は、少しずつ遅れて入ってくるようだから、男二人の潜入と思われてるけどね。ほら、男はみんな足止めだ」
 税関の職員を装った警察が、男性観光客ばかり再検査を始めた。
「あら、四人ばかり連れていかれちゃったわよ」
「メンツとノルマがあるから、調べて怪しい者が居ませんでしたではすまないんでしょ。まあ、半日の拘留ね」

 二人は、天安門広場から故宮を回ったあと、王府井で昼食というお上りさんコースを周って北京のシンラ教会に向かった。

 シンラというのは、極東戦争前から台頭してきた新興宗教で、なぜかマルクスを神と讃えている。このシンラにも表と裏があり、裏のシンラが事実上分裂した大陸国家を裏でまとめている。東京ゲルにテロを仕掛けてきたのも、この裏のシンラである。
 
 裏のシンラの中枢は天壇にあることは、東京ゲルの襲撃犯ユーリーの最後の反応からでも確かである。
 
 だが、中枢であるために、その天壇胡同のことは何も分からない。その手がかりを得るために、表のシンラ教会に来たのである。

 礼拝日ではないので、教会内部は一般観光客にも開放されている。観光客を相手に専門のガイドが解説をしている。

「わたしたち人類は、マルクスを思想家としてしか捉えていませんでした。それが20世紀の最大の誤りでした。21世紀は、その反動でマルクス主義は軽んじられ国を誤ることになりました。しかし極東戦争の後、いま私たちは真のマルクスの心に接することに気づいたのです。マルクスの唯物史観は人間愛が、その裏付けにあります。わたしたちは、そこに着目しました。まだ、研究途上ではありますが、マルクスの愛の深さに気づいたわたしたちは、マルクスを神の子とし、その神のみ教えに一歩でも近づくために、努力を重ねておるのです」

 日本人観光客たちは、小学生のように、いっせいに「ホー」っと感心した。

「あのガイドさんは、表専門。裏の事はなにも知らない。やっぱ、食べに行こ」
「さっき食べたとこだよ」
「今度は点心、別腹よ(^▽^)」
 キミは、そう言うと、真っ直ぐに教会付属の飯店に向かった。
 日本のそれとあまり変わらない点心を食べながら、キミはため息をついた。
「ここも、裏と通じてる人はいないみたいね……あ」
「キミちゃんも気づいた?」
「うん、大陸にヒナタが潜入したって情報が一斉に流れた」

 飯店の従業員の目つきが一瞬変わった。

「まあ、ここらへんのスキャニングにかかるほど、ヤワやないけど、これからしんどいね」
「あまり、計算しないでいこう。未知数が多すぎるから、下手な計算は惑わされるだけよ」

 単なる報復としての威嚇なら、大陸に滞在しているだけでよかったが、今回はシンラの中枢に潜り込み、あわよくば壊滅させろという無茶な指令である。慎重さと同時に大胆さがいる。

「あ、この水餃子……!?」

 キミが水餃子から、足がかりをつかんだようだ……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法少女マヂカ・223『ウフフ( ´艸`)とニカカ(*^曲^*)』

2021-07-22 14:11:15 | 小説

魔法少女マヂカ・223

『ウフフ( ´艸`)とニカカ(*^曲^*)語り手:ノンコ    

 

 

 笑う時の様子をニコっていうやんか。ニカっていうのもあるし。

 その違いは、口が開いてるかどうか。

 絵文字で書くとニコ(o^-^o)っとニカ(*^□^*)って感じです。

 つまりね、口が開いてるかどうかやね。

 

 平成に生まれて、令和で高校生やってるあたしらはニカ(*^□^*)っと笑う方が印象がええ。

 ニコ(o^-^o)っていうのは銀行の窓口のオネエサンとか、畏れ多いけど皇族のお姫さまとか。

 ニコ(o^-^o)では弱いと感じる。どないかすると「愛想笑い」はまだええほうで「目が笑ってない」と非難される。

 アイドルは絶対ニカ(*^□^*)っと笑わならあかん。どないかするとニカカカ(*^曲^*)いう感じで歯ぁむき出しで笑わんと好印象を持たれへん。われらが霧子は(*^□^*)か(*^曲^*)なんですわ。

 ところが、1923年の大正時代は、笑うは、こんな感じ( ´艸`)。

 手で口を押えて「ウフフ」と控えめに笑う。顔文字やさかい、うまいこと書かれへんけど、ハンカチとかを片手で持って口を押えて「ウフフ」と笑う。

 つまりね、大正時代は、歯を見せるどころか、口を開けて笑うのはメッチャ無作法。

 まして、震災後の奉仕活動で救援物資を配るのに笑顔はアカンのです。

 人が困っている時に笑顔とはなにごとかあ! と、怒られるんです。

 マッキントッシュ神父も、日本に来て勉強しはったんやね。

「はい、普段はアルカイックスマイルでいいんです。けどね、アクシデント、災害が起こった時などは、笑うダメです。ヘラヘラ笑う、不謹慎、人寄ってきません『人の災難笑う、何ごとかヾ(*`Д´*)ノ!』になります」

 

「わたくしたち、知らないうちに霧子さんに影響されたみたいで……」

 

 走り終わった徳川さんらが苦笑い。

「わたしのせい……かもね(-_-;)」

 霧子が凹む。

「ううん、わたくしたちはいいんです。学校もクラスも明るくていい雰囲気です。学校は外国人の先生や進歩的な先生方もいらっしゃって、笑顔でいることは、とてもいいことですっておっしゃるしね」

「そう、笑顔はいいことよヽ(#`Д´#)ノ!」

 ブリンダがこぶしを握る。

「震災で、みんな困ったり落ち込んだりでしょ!? お互い笑顔でいれば元気も出るってもんじゃない! ねえ、神父さま!」

「ミス・ブリンダ。その通りなんですが、郷に入れば郷に従えなんですよ」

「それでね、ご奉仕の前に体力を使って、笑顔を消しておこうということなのですよ」

「「「うんうん」」」

 学習院が揃って頷きやる。

「でもさ」

 マヂカが指を立てる。

「上野公園でボランティーアやったときは笑顔でやってなかった?」

 マヂカはずっと昔から魔法少女をやってて、困った時は、まず笑顔いう感じやねんやろなあ。

「おっしゃる通りなんでしょうけど、学習院の人たちは、すぐにニカ(*^◇^*)かニカカ(*^曲^*)になってしまいます」

 アハハハハ(*^曲^*)(*^曲^*)(*^曲^*)(*^曲^*)(*^曲^*)!

 あ、なるほど、みんな揃ってニカカや。

 霧子の影響恐るべしや。

 みんなで、教会の周りを走って、ニカカ笑いを封じたのでありました(^_^;)。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『リアクション・2』

2021-07-22 06:15:19 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『リアクション・2』  

 




 今日の優奈は機嫌が悪い。

 どのくらい悪いかというと、掃除当番を忘れてしまうくらい悪い。

 同じ当番のマコが声を掛けようとしたが、あまりの機嫌の悪さに何も言えなかったくらい。

 駅前のコンビニに強盗が入ったが、運悪く逃げる途中優奈の顔をみてしまい、足がすくんで、すぐに御用になったぐらい。

 ホームで、恋人とスマホで話していたニイチャンのスマホに優奈の不機嫌オーラが伝わってしまい、電話の恋人が思わず電話を切ってしまったぐらい。

 電車に乗ったら、盗撮用のカメラ付きの靴をスカートの下に忍び込まされたが、無意識にカメラ付きの靴もろとも足を無意識に踏みつけ、犯人の足を複雑骨折させたぐらい。

 最寄りの駅に着くと、空にキラリと光るもの。その微かな眩しさが気に入らず、思わず爆発してしまえと思うくらい。

 キラリと光ったものは某国がアメリカに向けて撃った核ミサイルだった。

 折しも国家安全委員会では集団的自衛権を発動すべきかどうか論議の最中。急に某国のミサイルが爆発して消えたので大騒ぎ、アメリカからは感謝され、世界中が日本のミサイル迎撃技術が高いことと集団的安全保障に踏み切ったことに驚きと畏敬の目を向けた。

 なんで、こんなに機嫌が悪いのか。

 それは、学校で、学年一のイケメン杉井俊作がコクってきたからだ。それも授業が終わると直ぐに。

 まるでおとぎ話の王子さまが悩みの果てに、王座もなにも捨ててきたかのような真剣さで。でも、オレがコクったら、だれでも断るはずがないという自信をみなぎらせていた。

 優奈は、こういう男が大嫌いだ。

 お前なんか人間の資格無し!

 家で制服から私服に着替えながら、そう思った。

 その時、学校のグラウンドで、後輩達に理想的なスローインの仕方を見せていた俊作は、ボールを投げた瞬間カエルになってしまった。

 優奈は、ちょっと可哀想な気がして「人間の資格無し」は取り消した。俊作はすぐに元の俊作になり、本人も含め、誰も俊作がカエルになったことには気が付かなかった。

 人間辞めろは、やりすぎだと思い、優奈はいろいろ考えたが、眠りに落ちる寸前に思いついた。

 お前が男であるなんて許せない……!

 明くる朝、俊作は目が覚めると、いつものようにトイレに入ってビックリした。

 用を足そうとしたら、アレが無くなっていた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする