『不穏な天気』、晴れ渡った空である。ただ、雲の代り(?)に白い三つの物体が宙に浮かんでいる。
女体のトルソ、チューバ(管弦楽器)、椅子。
静かな海と陸地。
海と空と陸地は、平穏そのものの景色である。にもかかわらず、不穏な天気の予兆があるという。
宙(天)に浮上する三体・・・女体のトルソは子を産むことの暗示(本来女性からだけでは誕生しないが)、チューバは立派な拡声器としての象徴か、椅子は当然権威の象徴だと思う。
もしかしたら、こういう可能性も考えられる。つまり三位一体。姿の見えない椅子には《神》、マリアの産んだ子《キリスト》、人格を持たない力・声《聖霊》ではないか。
白く(潔白)美しく世界を席巻していくと思われる宗教の巨きな力を、どこかで危惧している。
大きすぎるチューバは命令と化す。母なる女体は母だけでは母になれないという不条理を孕んでいる。像を刻んではならないという神の絶大なる力は権力者の盾となる。
もちろん否定を孕んでいる。あらゆる想定を否定も肯定もせず、静かに暗示(イメージ)を描き記しているだけである。
平和は常に不穏と裏腹であり、予兆は寓意性をもって現わされている。
マグリットの観察眼は答えを想起させるマジックである。
(写真は国立新美術館『マグリット』展・図録より)