京の冬の旅「森田りえ子金閣寺方丈杉戸絵」バスツアー
江嵜企画代表・Ken
「京の冬の旅」定期観光バス特別コース「京の文化の真髄を訪ねて」、限定20名のツアーに参加した。今回のツアーには特別の思いがあった。日本画の手ほどきを受けた森田りえ子画伯自身が描いた金閣寺方丈杉戸絵を自ら解説されるプログラムが組み込まれていたからである。
バスはJR京都駅烏丸口を午前11時に出発した。いつものように車内風景をスケッチした。ご婦人客が大部分であったが、ご夫婦と思しきペアも3組ほどおられた。あとでわかったが松山市から来たという二人連れのご婦人も含まれていた。よく切符がとれましたねとバスガイドさんに言われた。日本画教室の友達がたまたま切符を手配してくれたが、神さんごとだと思っている。
京都駅を出て最初の訪問先はお室仁和寺だった。当ツアー特別に金堂の中も拝観できた。888年創建の寺だが1476年応仁の乱で廃塵に帰した。1624年再建され今日に至る。紫宸殿が移築された建物ということでもきわめて異色である。
昼食を80余年の歴史のある京料理「天㐂」で楽しみ、特別展開催中の妙心寺の三門に上がり諸仏を拝観できた。そして本日のハイライト、森田りえ子画伯が待機される金閣寺杉戸絵である。
今回の杉戸絵は、今年5月、パリで開催される森田りえ子個展、その後、京都大丸含めて4ケ所でも見られるが、作品保護のため新たに製作されたレプリカに置き換わる。金閣寺方丈で実物を見られるのは特別展開催期間と3月8日のバスツアーが最後となると森田画伯から聞いた。見納めとなると聞いて思わず身を乗り出してしまった。
杉戸絵は春(牡丹)、夏(花菖蒲)、秋(菊)、冬(椿)四季各季左右二面計八面に描かれている。説明は秋の菊からはじまった。樹齢800年の杉の木と聞いて正直緊張した。100年、200年先になれば葉の色が暗く沈む。密室の中から菊の花だけが飛び出るようにと考えて描いた。
冬の椿は京の「ひいらぎの」という土地にある民家の庭に何万という花を今も付ける樹齢800年の五色椿を写生した。近年天然記念物に指定された。とにかく木の勢いに感嘆する。美しい花は葉、枝、幹さらに幹の下には地中深く手足を伸ばした根が支えている。今回、杉戸絵を描くにあたり、素晴らしい木目を生かすことを念頭に置いた。
夏は花菖蒲。左の杉戸に伊勢系、右の杉戸の下に肥後系の菖蒲を描いた。萼(がく)と花弁をたっぷり描いた。剣先の上に花が浮かび、風になびいている姿を描いた。肥後椿には天然の群青絵の具を使った。伊勢椿は胡粉で描いた。白を描くには胡粉以上の絵の具はない。牡蠣の殻をつぶしして作る。世界一の白だと思う。
春は牡丹。立てば芍薬。座れば牡丹という。しかし、牡丹は立ち姿であると思う。大地にしっかり根を下ろし、大きく天に頚を伸ばして立つ姿を描いた。牡丹の絵では敢えて地面を意識的にいれたと森田りえ子画伯は話された。
構想を練る時間をいれて1年かけて八面描いた。杉戸には表と裏がある。裏を描いているときは表は描けないという難しさがあった。木は切られた後も生きている。そのため絵の具が動く。雨風の吹きさらしに置かれているから毎日の天気が気になる。今日もドキドキしながら金閣寺にやってきたという。
自分の命は短い。しかし、この絵は100年、200年残ります。こういう機会に恵まれた私は本当に光栄ですと森田りえ子画伯は話を終えられた。寺をバスが出たのは午後5時半を回っていた。この日の京都は春を思わせる陽気に恵まれた。参加20名一人一人の胸に印象深く残る素晴らしい旅となったことを確信する次第である。(了)