「これから日本」(リチャード・クー講演)
江嵜企画代表・Ken
「内外から見た日本経済」と題してリチャード・クー氏の講演(関西ノムラ資産管理フェア2009)を聞く機会があり、京セラドームへ出かけた。
聴衆の多くはクー氏が米国の金融危機をどのように見ておられるのか、それが聞きたくて集まった人も多いだろう。
住宅バブル崩壊が今回の金融危機の原点である。クー氏によれば米住宅価格の先物相場は来年10月に底を打つと予測していると話した。として住宅価格の先行きを見る指標として家賃と相場の相関関係がある。それは98年ごろまでは一心同体で動いている。
ところが2000年以降住宅価格が低金利政策で上昇したが、家賃がついていけなかった。家賃と住宅価格が通常のトレンドに並ぶには現在の住宅の値段が22%下がる必要があることを示唆しているとクー氏は話した。その仮説が正しければ、10年10月にならないとアメリカの住宅の値段は底打ちしない。
クー氏は、この日、今回の金融危機でリーマンブラザーズを破たんに追いやったポールソン前財務長官を「彼は本当に許せないひとだ」と語気を荒げて非難した場面が印象に残った。
特に問題だったとして、クー氏は、リーマンをつぶしてAIGを救済した時の記者会見でのやり取りを紹介した。ポールソンは「米政府は問題の金融機関の面倒は見る。ただし、ケースバイケースだ」と記者に答えた。これが決定的なミステークだったとクー氏は言った。
ポールソンのこの発言のあと、金融機関同士が、お互い事実を隠しているに違いないと全員が疑心暗鬼になった。それがいまもなお尾を引いているとクー氏は話した。
サマーズとガイトナーがオバマ政権のメンバーにいる。二人は公的資金投入の意味を理解している数少ない米政府の人間だ。「実に心強い」とクー氏は二人を評価した。
住宅の市価が購入価格を下回ってくるとさらに問題が表面化してくる。その件数が1300万件に上る試算もあると紹介した。米国人は人にお金を貸さない。家にお金を貸す。住宅の値段が下がってくると返済できない。
アメリカ人はその際、金融機関に鍵を返す。鍵さえ返せば縁が切れる。そのあたりについては、日本ではなかなか理解できない。手離された家が次々不良債権になる。売りがかさむ。値段が下がる。悪循環となるとクー氏は話した。
もうひとつのアメリカの問題点として、アメリカが1兆ドルの貿易赤字を抱えていることだと指摘した。米金融法案にはバイアメリカン条項が含まれている。それ以上に問題なのは、巨額のアメリカの赤字をファイナンスしているのは中国と日本である。
今までアメリカは借金して世界の品物を一手に引き受けてくれていた。ところが米国民の多くが借金をしなくなった。その結果、アメリカが物を買ってくれることを前提にした「アジアの成長モデル」が成り立たなくなった。この認識をまずもつ必要がある。夢をもう一度は、これからの日本にはあり得ない。日本は内需振興に取り組まざるを得ないだろうとクー氏は話を終えた。
一時間強の講演の中でいろいろの話が出た。ところがクー氏の口から今回、為替レートの話が出なかった。時間がなかったからなのか。質問の機会があればクー氏に是非聞いてみたかった。(了)