”いじめ”を生み出す「空気」の研究
江嵜企画代表・Ken
“いじめ”を生み出す「空気」の研究という題名に引かれて6月9日(土)午前10時45分から12時10分までの神戸松陰女子大学公開講座に参加した。当の大学へはいつも往路はJR六甲道駅からタクシーを利用する。帰路は急な坂道だが下り。道なりに15分ほど歩くと阪急六甲に着く。
“いじめ”による自殺というニュースが珍しくなくなった。学校の責任とするマスコミ報道が目立つ。松崎先生は“いじめ”を生み出す「空気」という言葉から話を始めた。松崎先生は「麻生財務大臣が先日の財務省文書改ざんには、当時、財務省内に改ざんを促す「空気」があったことは否めない」と述べたと紹介、その時の記者会見の様子の写真を正面に写した。
松崎先生は「空気の研究」(1977年)と題する山本七平さんの作品から「空気」とは「一つの宗教的絶対性を持ち、我々がそれに抵抗できない「なにか」ということになる」と紹介した。「背後にあるものは一種の「無責任性」の主張である。これは意思の否定である。“いじめ”問題では「自分では“いじめ”と思っていない。」と話を進めた。
次に、松崎先生は「“いじめ”は、いつでもどこでも誰にでも起こりうる。教室だけでない。職員室にも会社にも家庭にも、この国のあらゆるところに日常茶飯起っている。」と書いた「リーガルハイSP」(百瀬しのぶ著:2013年)を紹介した。リーガルハイSP」によれば「我々は常に周りの顔色を窺い、流れにのることを強いられる。多数派は常に正義である。異を唱える者は排除される。そう、“いじめ”の正体とは、「空気」です。特に右から左、左から右へと全員で移動するこの国では、空気という魔物の持つ力は実に強大です。この敵の前では法ですら無力かもしれません。全てを飲み込み、巨大化する恐ろしい怪物。立ち向かうどころか逃げることさえ困難な相手です」と書いていると松崎先生は紹介した。
あるアンケート調査では、9割の子供にいじめ経験があるという。そのうちの2/3が被害者/加害者両方を経験しているとの紹介があった。被害者(いじめられている)、加害者(いじめている)、観衆(面白がっている)、傍観者(見て見ぬふりをしている)みんな“いじめ”の当事者であるとまとめた資料がある。
松崎先生は「いじめ防止対策推進法(2013年成立・施行)以降、「被害者性(された人がいじめられたと思うこと)が重視されるように変わった。昔はそうでなかった。昔は自分よりも弱い者に対して一方的に,心身的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもので、学校として確認しているもの(文部省・1986/96)だった」と説明した。
“いじめ”に対して私たちに出来ることは何かと話を進めた。まず「当事者として」は“いじめ”から脱却する唯一の道は、あらゆる拘束を自らの意思で断ち切った「思考の自由」と、それに基づく模索だけだ。まず「空気」から脱し、「自由」になることだ。それしか方法はない」と書いた「空気の研究」(山本七平著)にある。
次に、「外野として」できることはなにか。松崎先生は「信じる。空気を感じる。聞き続ける。特に相手を信じられる人になる。その人にとっての現実を知ることが重要です。」と話して、この日の土曜講座を終えた。「相手を信じられるひとになること」ということばが強く印象に残った。
授業のあと、男性2人、女性3人が質問した。「いいクラスと悪いクラスがある。悪いクラスをいいクラスに変えることは出来るのか。先生はそんな場合どう対応されるのか」とある女性が聞いた。松崎先生は「先生が何もかも抱え込まないようにすることだと思います。大人も子供も空気に支配される。その際、小さな子供にも空気を変えることができることを私も経験した。」と答えた。
“いじめ”を生み出す「空気」の研究。貴重な機会を提供いただいた松崎優美先生、神戸松陰女子大学にひたすら感謝である。(了)