真っ青な空にピンク色の円盤。音もなく、ふわりと降り立った。その中から現れた、いわゆる宇宙人十数名。太めの体をこれまたピンクっぽいスーツで包み、肌の色はみな透き通るような白さ。あくびや伸びと見られる動作をしているのもいたので、のんびりした性格らしいというのは窺えた。
いわゆるオスとメスというものもあるようで、人類と同様、大きくてたくましい方が男、小さくてか弱そうなのが女、らしかった。とはいえ、全体的におとなしい感じもしたし、色が白いせいもあって、女の方に魅力を感じないでもなかった。
全体的にずんぐりと背が低く、垂れたような目が大きく耳がまん丸いほかは、口が1つ、手足も2本ずつと、基本的な外観は人類とさほど変わらず。このことで、生物学者あるいは哲学者たちは、生命体というものの普遍性について深く興味を覚え、大いに議論が持ち上がったものである。
ともあれ、遠いウロス星からやって来たという彼らが言うには(翻訳機みたいなものが胸の前にあって、それを介して意思を通じることができた。それでも、考え方というか概念が根本的に異なるせいか、かなり苦労したのだが)、高度に発達した科学技術により、銀河系内をあちこち観光旅行しているとのことである。
何でも〈カー〉とか〈ケー〉とか呼ばれる燃料物質により、ほぼ光の速さで宇宙空間を移動できるのだという。ウロス星は地球からおおよそ12光年離れているそうだが、2年ほどでこの地球にやってくることができたのだそうだ。
そのため科学者や技術者たちは色めき立ち、その燃料物質や推進装置あるいは円盤の設計/構造にいたく興味を持ったのである。
地球までの移動の間、つまり約2年間、円盤内で何か活動していたのかというとそうではなく、ほとんど眠っていたそうである。いわゆる「人工冬眠」状態だと思っていたのだが、それがやがて大きな勘違いだったことがわかる。
彼らウロス星人のお相手を務めることになったのが、国会職員のこの僕。国際会議の事務局を長いことやっていることから、接待役を任された次第。お相手にふさわしいと思われるもっと偉い方々は、みんな尻込みしてしまい、大勢出る会議に参列するだけ。まあうまく行きそうになったらホイホイ出てきて、自分の手柄みたいな顔をするのに違いない。
まあそれはそれとして、地球に初めてやって来た彼らと、まずは会議。彼らの目的は特になく、ただ生物が生息しているようなので数日間の観光に訪れただけとのこと。何か侵略やら交渉やらあるかと構えていた人たちは、一様に肩透かしを食らった格好となった。またマスコミを通じてそれを知った世界中の人々も、みな安堵したのであった。
偉いさんたちの挨拶やら地球の紹介やら、逆にウロス星の紹介やらで、のーんびりした会議が終わったのが夕方。そのあと急遽設定された、歓迎レセプションを兼ねた晩餐。近くの有名シェフをかき集め、アルコールを含む世界中のグルメを振る舞ったのである。
食事については特に支障なく、出された物はひととおり口にしているようであった。翻訳機を通じて「おいしいですね」という感想もあちこちで聞くことができたし、またアルコールで赤くなるのは人間と同じで、肌が透き通っている分、特に女の方はより色っぽく見えるのであった。
ところでウロス星については、太陽の100倍はあろうかという恒星を回るやはり第3惑星のようで、地球のやはり100倍ほどの大きさだそうである。ずんぐりしているのは重力が地球より大きいからのようであるが、自転1回で1日、公転1回で1年というのも地球と同じとのこと。
相手をしていて、彼らの性格がとても穏やかであることがわかった。どんなことを聞いても言ってもニコニコ笑っているし、非常にゆっくりながらも受け答えは丁寧。何より、まばたきをほとんどしないのには驚いた。ゆっくりと言えば、上品過ぎると言うのか動作が全体的にゆったりしており、当然飲み食いする速度も遅く、合わせるのに苦労した。
例えば、人間同士なら乾杯して飲み干し2杯目を注ごうかという時間で、ようやく乾杯のグラスが出てくる、といったような。従って、何か質問しても先方からの回答までには時間かかるし、先方が何か尋ねてくるのを待つのも気が遠くなるほど。しぜん、人間の側が一方的に話をすることになって行った。
晩餐の席ではこんなこともあった。参加者のある一人が、ウロス星人の大きな体を押してしまった。しかし反応が遅いのか、当のウロス星人は知らん顔。また、地球人ならではの冗談が機械による翻訳の行き違いで気まずい雰囲気になりそうなこともあった。でもやはり、ウロス人はニコニコしたまま…。
戸惑いながらも無事済んだ晩餐のあと、彼らを超一流のホテルへ。「ゆっくりお休みください」というこちらの挨拶に怪訝な顔をされたのが不思議だったが、口開くのを待つのももどかしく、何より疲れて早いとこ寝たかったので、そのままおいとまをしたのである。翌日には彼らを連れての観光もあったし。
怪訝な顔、その理由が分かったのは、数日後のホテルからの連絡による。
ホテルのコンシェルジェによれば、彼らウロス星人は夜中になっても廊下やロビーを歩き回っているらしい。中にはホテルの外にまで出る者も。それも1人や2人ではないとのこと。静かな連中なので特に迷惑掛けることはないし、実害があるわけでもない。
最初は、地球に来て興奮しているからだろうと思っていたのだが、翌日もその翌日も同じであるらしい。
…彼らの星は非常に大きく、自転の「1日」も公転の「1年」も、地球のそれと比べて圧倒的に長いんだそうだ。自転は、地球で言う4年、公転は約1500年だそうだ。そして「1日」の半分は眠っているのだという。
だから、彼らが起きている時間、眠っている時間はそれぞれ地球の2年間。地球にやって来るまで眠っていたというのは人工冬眠などではなく、普通に眠っていただけのこと。そうするとこのあと2年間、彼らは眠ることがないってことになる。
さすがに警備上の問題もあり、ホテルの支配人から、夜中だけは部屋にいてくれるよう頼みこみ、向こうもおとなしくそれに従ってくれたところ。
ただ、部屋で静かにしているとはいえ、周りの人間が寝静まっている中、彼ら全員があの大きな目を開けてずっと起きているのだと思うと、地球人はみな、何やら落ち着かない気持ちに陥るのである。あの性質からして、人間の悪口を言っているとも思えないが、温厚に見える分、余計不気味な感じもするのである。
彼らの言う「数日間」の地球観光というのが仮に彼らの時間スケールだとすれば、今後10年以上滞在されることになる。それを聞くのも怖いのだが。かりにそうだとして、まさか昼間だけを過ごさせるため、西へ向かう飛行機に乗せ続けるわけにもいかず。
かくして、地球のあちこちで不眠症の患者が急増し…。
Copyright(c) shinob_2005
いわゆるオスとメスというものもあるようで、人類と同様、大きくてたくましい方が男、小さくてか弱そうなのが女、らしかった。とはいえ、全体的におとなしい感じもしたし、色が白いせいもあって、女の方に魅力を感じないでもなかった。
全体的にずんぐりと背が低く、垂れたような目が大きく耳がまん丸いほかは、口が1つ、手足も2本ずつと、基本的な外観は人類とさほど変わらず。このことで、生物学者あるいは哲学者たちは、生命体というものの普遍性について深く興味を覚え、大いに議論が持ち上がったものである。
ともあれ、遠いウロス星からやって来たという彼らが言うには(翻訳機みたいなものが胸の前にあって、それを介して意思を通じることができた。それでも、考え方というか概念が根本的に異なるせいか、かなり苦労したのだが)、高度に発達した科学技術により、銀河系内をあちこち観光旅行しているとのことである。
何でも〈カー〉とか〈ケー〉とか呼ばれる燃料物質により、ほぼ光の速さで宇宙空間を移動できるのだという。ウロス星は地球からおおよそ12光年離れているそうだが、2年ほどでこの地球にやってくることができたのだそうだ。
そのため科学者や技術者たちは色めき立ち、その燃料物質や推進装置あるいは円盤の設計/構造にいたく興味を持ったのである。
地球までの移動の間、つまり約2年間、円盤内で何か活動していたのかというとそうではなく、ほとんど眠っていたそうである。いわゆる「人工冬眠」状態だと思っていたのだが、それがやがて大きな勘違いだったことがわかる。
彼らウロス星人のお相手を務めることになったのが、国会職員のこの僕。国際会議の事務局を長いことやっていることから、接待役を任された次第。お相手にふさわしいと思われるもっと偉い方々は、みんな尻込みしてしまい、大勢出る会議に参列するだけ。まあうまく行きそうになったらホイホイ出てきて、自分の手柄みたいな顔をするのに違いない。
まあそれはそれとして、地球に初めてやって来た彼らと、まずは会議。彼らの目的は特になく、ただ生物が生息しているようなので数日間の観光に訪れただけとのこと。何か侵略やら交渉やらあるかと構えていた人たちは、一様に肩透かしを食らった格好となった。またマスコミを通じてそれを知った世界中の人々も、みな安堵したのであった。
偉いさんたちの挨拶やら地球の紹介やら、逆にウロス星の紹介やらで、のーんびりした会議が終わったのが夕方。そのあと急遽設定された、歓迎レセプションを兼ねた晩餐。近くの有名シェフをかき集め、アルコールを含む世界中のグルメを振る舞ったのである。
食事については特に支障なく、出された物はひととおり口にしているようであった。翻訳機を通じて「おいしいですね」という感想もあちこちで聞くことができたし、またアルコールで赤くなるのは人間と同じで、肌が透き通っている分、特に女の方はより色っぽく見えるのであった。
ところでウロス星については、太陽の100倍はあろうかという恒星を回るやはり第3惑星のようで、地球のやはり100倍ほどの大きさだそうである。ずんぐりしているのは重力が地球より大きいからのようであるが、自転1回で1日、公転1回で1年というのも地球と同じとのこと。
相手をしていて、彼らの性格がとても穏やかであることがわかった。どんなことを聞いても言ってもニコニコ笑っているし、非常にゆっくりながらも受け答えは丁寧。何より、まばたきをほとんどしないのには驚いた。ゆっくりと言えば、上品過ぎると言うのか動作が全体的にゆったりしており、当然飲み食いする速度も遅く、合わせるのに苦労した。
例えば、人間同士なら乾杯して飲み干し2杯目を注ごうかという時間で、ようやく乾杯のグラスが出てくる、といったような。従って、何か質問しても先方からの回答までには時間かかるし、先方が何か尋ねてくるのを待つのも気が遠くなるほど。しぜん、人間の側が一方的に話をすることになって行った。
晩餐の席ではこんなこともあった。参加者のある一人が、ウロス星人の大きな体を押してしまった。しかし反応が遅いのか、当のウロス星人は知らん顔。また、地球人ならではの冗談が機械による翻訳の行き違いで気まずい雰囲気になりそうなこともあった。でもやはり、ウロス人はニコニコしたまま…。
戸惑いながらも無事済んだ晩餐のあと、彼らを超一流のホテルへ。「ゆっくりお休みください」というこちらの挨拶に怪訝な顔をされたのが不思議だったが、口開くのを待つのももどかしく、何より疲れて早いとこ寝たかったので、そのままおいとまをしたのである。翌日には彼らを連れての観光もあったし。
怪訝な顔、その理由が分かったのは、数日後のホテルからの連絡による。
ホテルのコンシェルジェによれば、彼らウロス星人は夜中になっても廊下やロビーを歩き回っているらしい。中にはホテルの外にまで出る者も。それも1人や2人ではないとのこと。静かな連中なので特に迷惑掛けることはないし、実害があるわけでもない。
最初は、地球に来て興奮しているからだろうと思っていたのだが、翌日もその翌日も同じであるらしい。
…彼らの星は非常に大きく、自転の「1日」も公転の「1年」も、地球のそれと比べて圧倒的に長いんだそうだ。自転は、地球で言う4年、公転は約1500年だそうだ。そして「1日」の半分は眠っているのだという。
だから、彼らが起きている時間、眠っている時間はそれぞれ地球の2年間。地球にやって来るまで眠っていたというのは人工冬眠などではなく、普通に眠っていただけのこと。そうするとこのあと2年間、彼らは眠ることがないってことになる。
さすがに警備上の問題もあり、ホテルの支配人から、夜中だけは部屋にいてくれるよう頼みこみ、向こうもおとなしくそれに従ってくれたところ。
ただ、部屋で静かにしているとはいえ、周りの人間が寝静まっている中、彼ら全員があの大きな目を開けてずっと起きているのだと思うと、地球人はみな、何やら落ち着かない気持ちに陥るのである。あの性質からして、人間の悪口を言っているとも思えないが、温厚に見える分、余計不気味な感じもするのである。
彼らの言う「数日間」の地球観光というのが仮に彼らの時間スケールだとすれば、今後10年以上滞在されることになる。それを聞くのも怖いのだが。かりにそうだとして、まさか昼間だけを過ごさせるため、西へ向かう飛行機に乗せ続けるわけにもいかず。
かくして、地球のあちこちで不眠症の患者が急増し…。
Copyright(c) shinob_2005