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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「1日わずか5分」

2014-09-28 09:03:42 | ショートショート
 こんな生活になったのは……そう、将棋や囲碁のプロが次々とコンピュータに負けるようになってからのことだ。

 20XX年のとある水曜日、朝起きると僕は、目覚めを良くする体操を始める。深呼吸をしながら手足を動かす、1日わずか5分の体操。これですっきりと起きられるというわけだ。
 次に、1日を快適に過ごすための全身運動。目覚めを良くする体操とセットでやると、とてもいい感じなのだ。
 それから、自動歯磨き器で歯を磨きながら、便通を良くするための体操。おなかに手を当て、腸の形に合わせて「のの字」の運動。女性はともかく、僕の場合は5分間もやる必要はない。
 トイレで座っている間も、視力を良くするための体操を。専用の機械を目に当てながら、目をパチパチさせたりグルグル回したり。気が向けばそのあと首や手首の運動を。血行を良くするので新陳代謝が良くなり肌もきれいになるらしい。

 トイレから出たあとは、朝食前のちょっとした体操。これまた1日わずか5分で、朝御飯をおいしく戴くことができる。
 とは言っても今の食事は袋から出せばすぐ食べられるものだし食べる時間も数分。食事の時間よりもそのための体操の時間の方が長い、という変てこりんなことになってはいる。
 ところで、朝の5分間というのは以前なら非常に貴重なものだった。ところが、コンピュータが極度に発達し自宅勤務が当たり前となった今となっては、朝何時に出社するかというのは問題にならなくなってしまった。その代わり、自宅のコンピュータの起動している間が働いているってことになる。自動的に起動させることもできないことはないが、網膜パターンを利用した認証システムが働いているせいで仕事開始とは見なされない。機械に支配されているようで、悔しくないこともない。
 〈SOHO〉と言えばその昔はカッコいい響きを持つものだった。しかしほぼすべてのサラリーマンが自宅で仕事するようになると、当たり前すぎて輝きも薄れてしまった。
 自営業の人はともかく、自宅と職場とが同じというのも、切り替えが難しくてならない。だいぶ慣れたとはいうものの、仕事しているのかネットで遊んでいるのか、自分でも分からないことがある。

 食事の後は、消化を良くするための体操。そしてテレビを見る前に、目が疲れないようにする体操。見ている間も、頭の中を整理するための体操を。最近では出演者の話し方もさらに速くなってきているし、世の中の動きも速いから、ついて行くには欠かせないのだ。次は趣味の読書なのだが、画面上の文章の理解を早く、しかも深くするための体操を。
 もちろん、電子新聞やメールを読む前にも、早く理解できるようにするための体操を。情報量が多すぎて、頭がパンクしそうになるので、いわば〈頭のデフラグ〉みたいなものも組み込まれているらしい。
 その後も、体幹を鍛えるためのポーズや滑舌を良くするための口と舌の運動、いい笑顔を作るための作業も。体幹を鍛えると姿勢が良くなり足も速くなるそうだが、滅多に外には出なくなったし、そもそも走るなんてことがないから、これはもうやめてもいいかもしれない。
 滑舌や笑顔も、滅多に人と会うこともなくなっているので、これまた無駄のような気もしている。ほとんど惰性でやっているようなもの。他にも、ポジティブ思考になれる瞑想法みたいなのや、人と交わったような気分になれるような思考法も。やはり5分ずつ。
 午後はこれまた大好きな映画を壁掛けの大画面で。吹替えでない洋画を見る前には字幕が早く読める目の運動、邦画の場合は聞き取りがうまくできるための、なぜか全身体操を。あと、画面の隅々まで、細かいところまで見逃さないようにするための体操を…。

 さて仕事の方はと言うと、ほとんどコンピュータが片付けてくれるので、こちらとしては大助かり。たまのトラブルも、コンピュータとロボットが対処してくれるし。ただ、そのトラブル対応のコンピュータたちが故障すると人間の出番となるのだが、それもここ何ヶ月もの間、起きていない。
 そもそも、祝日自体が多くなってきて、今や年間30日ほどが祝日になってしまっている。これに土日を合わせると、実に年間の半分以上が休みってことになる。サービス業や治安関係、それにインフラ関係の仕事の人はそうも行かないだろうが、それも段々とロボットが賄うようになってきている。
 僕の場合、あくせく働く必要もないし、イヤな上司と毎日顔を合わせることもない。昔の職場の様子をネットなんかで見聞きすることはあるが、今ではウソみたいだ。難点は運動不足で太ってしまうこと。昔であれば、バスや鉄道に乗って職場へ移動、またターミナルまで歩く必要があったが、今は出掛けるといえばレジャーの時だけ。もちろん財布が許せばの話だ。世の中便利にはなったが、こればっかりは、ね。
 そこで生まれたのがこれら「体操」。ラジオ体操だけでは10分しか持たない。5分ほどでできるものが次々と開発され、今や世界中、おそらく何万とあるはず。背を高くする、花粉症を治す、といった伝統的なものから、意識そして人間性を高めるもの、中にはお金持ちになれる体操やコンピュータとの勝負に勝てる体操というのも…。それも日々増え続けており、テレビやネットを通じて世に紹介されている。僕らはそれら膨大な情報の中から自分に合っていると思われるものを選んで試しているところ。
 ただ、中には害になるというのか逆効果のものもあるので要注意。友達なんか、腰痛にいいという体操をやって却って悪くしてしまったほど。まああいつも運動不足だから仕方ないのかもしれないが、特に出始めたばかりの新しい「体操」には、慌てて飛び付かない方がいい。これは、新製品一般に言えることである。

 と、電子メールが入ってきた。会社からなので、時期からして半年ごとの査定だ。
 …相変わらずのB査定。トラブル続きで大変だった時もそうでない時も結果は変わらないので、未だに何を以って評価しているのかよく分からない。専用のサイトにつなげば上司が出てきて面談することはできるが、それはコンピュータが作り出した画像であって、実体ではない。面談しようがしまいが、ストレスたまりそうだ。
 こんな時こそ、心を落ち着かせる特別な体操と瞑想を。これも5分間。ただ今日はもう少し長くやってもいいかな。

 …さて、寝るとするか。そうそう、寝る前には寝付きを良くするための体操をしなくてはならない。たった5分で快適な眠りが手に入るのだから、これはこれで重要なもの。ではおやすみ…。
 あ、しまった。ひとつ忘れていた。あしたも数々の体操を楽にこなせるようにする体操だ。これをやらないと体がもたないのだ。妙なことではあるのだが、これも5分、と。
 では今度こそ、おやすみなさい。

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吉田吉田 山口山口

2014-09-21 09:01:10 | 時事
 朝日新聞がえらく叩かれているようだ。日本を代表する大新聞なので、大きなミスをすれば仕方ないのかも。(いずれにせよ、死んだ犬を蹴飛ばす者はいない…)
 問題となったのは次の2件。紛らわしい。
   吉田証言:従軍慰安婦に関する吉田清治氏の証言
   吉田調書:福島第一原発元所長・吉田昌郎氏に対する調査報告

 同じく紛らわしいものとして、相次いで亡くなった有名人2名。
   山口淑子:ご存じ李香蘭
   山口洋子:作家・作詞家
 (故人のお名前をもてあそぶようで、大変失礼ではあるが)

 ついでながら、「山田奈緒子」こと仲間由紀恵が入籍だそうだ。あの娘はまず結婚しないものだと思い込んでいたが。ともかく、おめでたいこと。
 
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「あやかーっ!」「は~い」

2014-09-14 21:04:02 | エッセイ

 たまにはライブでも、と9月5日、カミさんと娘と3人で絢香のライブへ。

 会場の静岡市民文化会館は満員。若い女の子が結構多くて、僕みたいなオジサンもちょぼちょぼ。早々に予約しておいたので、前から8列目というファンクラブ会員並みに間近で見ることができた。(絢香やはりかわいらしい)
 「三日月」「the beginning」など定番のほか、新曲らしい「幻想曲」や朝ドラの主題歌「にじいろ」などなど、2時間がアッという間。少々ハスキーな歌声と大阪弁の上手な語りを充分堪能できた、夢のようなひととき。

 今回はピアノとギターと3人だけのアコースティックライブ。これもまた見応えあったし、お色直し時のアンサンブルも素晴らしかった。特にギターの塩谷氏(ソルトさん)の演奏は見事だった。メンバー増やした追加公演もあるそうだ。
 そうそう、絢香と一緒に写真撮影したのだが、僕も写っている、かな。
 やはりライブはいい。また時間あれば。




 
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心に懐かしい”原風景”を

2014-09-07 12:21:47 | こころ
 
 子供の夏休みも終わり、新学期である。中にはユーウツな子もいるに違いない。
 たしかプロ野球のどこかのピッチャーだったと思うが、こんな話を最近何かで読んだ。
「ヒット打たれてピンチに陥った際、子供の頃、近くの川で夢中になって釣りをしたことを思い出すようにしている。とても楽しい思い出なので、心が非常に落ち着き、冷静になってピッチングができる」

 子供も大人も、それぞれの時点でツラいこと/悔しいこと/面白くないことはたくさんあるに違いない。心の中に楽しい思い出“原風景”があるかどうかで、その際の気持ち・対応は変わってくることだろう。
 上のピッチャーの話を読んで以来、何が僕の“原風景”なのだろうと考えている。石並川という、深くきれいな川で夢中になって泳いだりしたこと、あるいは(もうなくなってしまったけれども)宮崎の実家の廊下で日に当たりながら横になっていたこと、かな。
 お母さんの膝枕で耳かきしてもらったこと、好きな人とのドライブ、旅先で目にした見事な景色、などなど、皆さんにも何か一つは、こういういい思い出“原風景”があることだろう。それを人生のピンチの時に思い出すのも、回復のためのいいきっかけになるのではないかと思う。

 それで思うのは、全国に何万何十万といるらしい、虐待されている子供たち。暴力により、または飢餓により亡くなっていく際、何か楽しい思い出があっただろうか、と。一つでもいいから、楽しい思い出に浸りながらあの世に行ってほしいもの。
 僕自身虐待は受けたことはないが、子供の頃、家族全員誰も信じられなくて非常にツラい思いをしたことがある。楽しい思い出は吹っ飛び、イヤな思いばかりしていた。(昔のことなのですっかり忘れていた)
 …秋の気配も深まってきたせいか、最後しんみりした話になってしまいました。

 〔写真は、和倉温泉で見たきれいな夕焼け〕




  

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