eSSay

エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「友好のチェックリスト」

2018-05-27 09:21:51 | ショートショート
 真っ青な空に銀色の円盤。ふわりと地上に降り立った。
 中から現れたのは、これまた銀のスーツに身を包んだ異星人2名。肌はうすいピンク色で、目や耳と思われるものが2つ、口と思しきものが1つ、そして手と足がそれぞれ2本ずつ。白い歯まであり、それを見せながらにこやかな(と言っていいのだろう)表情で立っている。
 基本的な姿かたちは人間とそう変わりないため、生体構造の普遍性について、世界中の生物学者はもちろん、天文学者や哲学者たちの議論を大いに巻き起こしたのである。

 口元にある装置を通して彼らが言うには、遠く離れた〈スーピ〉という高度な文明を持つ星からやって来たのだそうだ。きれいな地球を見て、友好のために立ち寄らせてもらったとのこと。
 具体的には〈銀河連邦〉とでもいう友好の輪に、我々地球人が加わるのにふさわしいかどうかを見極めること。手にしたチェックリストにより、地球人の資質を確認したいらしい。
「いやいや、簡単なものです」と彼らが言うそのリストはしかし、事前に内容が示されることはなかった。
「誰が回答するか、そして心の準備も必要でしょうから」と1週間後に質問及び回答が行なわれることになった。「我々は宇宙船の中で待っていますので、どうぞお構いなく。あ、いや、食料や娯楽設備は充分整っていますから」

 銀河連邦に加わるため、資源とか人質とか特に何かを提供する必要はないようだが、知的生命体としてのプライドももちろんあるし、ぜひとも合格はしたい。そのため国連で意見が交わされ、各国から何だかんだと意見が出され、〈想定問答集〉まで出来る始末。きちんと整理するヒマもなくQ&Aの数、何と数千。
 地球の歴史から最先端の科学技術そしてファッション、各国首脳や世界的有名人の一覧、各国自慢の景勝地に名産品まで(売り込みたい気持ちも、わからないではない)。中には少数民族が使う楽器の名前や言語の文法という、マニアック過ぎてそこまでは、というものもあったが、「異星人のことだ、何をどう聞かれるかわかったものではない」という意見に押され、採用。
 その間、回答者誰にするかの議論がなされた。「オレ様が回答者になる!」と息巻いた某国大統領もいたが、やはり国連事務総長ということで落ち着く。ただし各国の代表者も、チェックリストによる質疑の場に同席することが認められた。そりゃ見たいだろう。
 その国連総長、手元に置いておいていいはずとはいえ、想定問答集のどこに何が書いてあるか把握するのもひと苦労。そして何より、思いもよらぬ質問に対するひと言で、この地球の運命が決まってしまうことは、何とも大変なプレッシャーなのであった。それもそうだろう。

 さて1週間後の国連会議場。どんな些細な質問をどれだけたくさんされるのだろう、とかたずを飲む回答者と同席者、そして中継画面に食い入る地球人。
「では始めましょう」異星人が口火を切る。
「…国境は、ありますか」
 あっけに取られる事務総長。
「こ、国境ですか…」
 周りの首脳たちと目配せしたのち、ここで「ある」と答えては何もかも台無しになってしまうことを一瞬のうちに悟る。
「……いえ、そんなものは!」
「では、差別はありますか。性別、年齢、人種、等々」
「……あ、ありません!」
「そうですか。では最後の質問です。暴力はありますか」
「さ、最後? 3つだけ? ……ご覧のとおり、暴力など一切!」
 しばらく沈黙のあと、穏やかにスーピ人が口を開く。
「よろしい。質問は以上です。回答を訂正したければ、また追加なり補足なりあれば、この場でお願いしたい」
 周りの各国代表らとやはり目配せしたのち、事務総長が答える。
「いえ、何もありません」
「わかりました…。銀河連邦に加われるかどうかは、地球時間でちょうど1年後に、再度訪問して教えることにします」

 ひとまず大変な〈試験〉が終わったことに安堵しながら、また拍子抜けしながら、2人を見送る地球人。
 その時、不意に異星人のひとりが振り返り、にこりと笑って(そう見えた)言った。
「ウソは、ありませんね?」
 事務総長はじめ、各国代表一同慌てて首を振り振り、
「ノー」「ニヒト」「ノン」「ナイン」「ネイ」「ニエット」「ない」…
 “n”の音が響き渡る。

 さてそれからが大変。ああ回答してしまったからには、言ったことを実現しなければならない。それも1年以内に。国連常任理事国、先進国、そうでない国、テロ指定国家、核兵器保有国、男女機会不平等国、関係なく、地球上すべてから、国境・差別・暴力はもちろん、格差・飢餓・環境汚染に至るまで、次々なくなって行くことと相成ったのである。

 さて帰りの円盤の中、スーピ星人の会話。
「やはり回答はどこも同じだな」
「しかし同じ回答でも、その後どうなるかはそこの住人次第。この地球はどうか」
「相変わらず最後のひと言、うまいな。あれが効けばいいんだが」
「地球のことは、地球人に任せればいいさ。1年もあれば、うまく行く所はうまく行くはず。でもな、こんな簡単なチェックリストで一つの星が平和になるのなら、安いもんだ」


 Copyright(c) shinob_2005




コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Jリーグ25年

2018-05-20 08:37:46 | サッカー
 
 1993年5月15日(土)。
 今はもう解体されてしまった東京・国立競技場にて「ヴェルディ川崎vs横浜マリノス」を、マリノス側ゴール裏から観戦していた。そこそこの倍率だったと思うが抽選で当たった〈プラチナチケット〉は、今でも僕の宝物。

 野球部に入っていた兄貴のマネをしたくなくて、中学ではサッカー部に入り、小さい体で(今からすれば)重い重いボールを蹴っていたもの。それから20年、世界的な競技というのは知っていたが、この日本にプロサッカーが誕生するとは思っていなかっただけに、〈Jのテーマ〉やチアホーンが鳴り響く中登場した〈サッカーキング〉やきらめくスポットライトを目にしながら、「サッカーやってて良かった。生きてて良かった」と泣けてきたもの。僕の人生の中でも、最も幸せだった瞬間の一つ(英語の文章みたいになってしまった)。それもこれも(今の僕とほぼ同じ年齢の)川淵チェアマンはじめ関係者の努力があればこそ。
 ジーコ(鹿島)にリネカー(名古屋)にリトバルスキー(市原)に、世界でも超一流の選手もたくさんいて、それはそれはワクワクしたもの。

 そして25年、シンボルマークに明治安田生命のロゴが入っていささか興ざめながら、まだまだ続いているのは嬉しい限り。ただ時代の流れか、開幕戦を飾ったマリノスはフリューゲルスを吸収して「F・マリノス」となり、一方のヴェルディは本拠を移して「東京ヴェルディ1969」となりJ2から上がれないでいる。
 また慣れ/飽きてきたこともあって、当初ほど面白く試合を見ることは少なくなった。上位同士の対戦を除くと退屈な90分間であることが多い。パスは通らないしすぐタッチに逃げるしトラップ大きいしシュートふかすし。だから最近は、時間もったいないので、筋トレやりながらパソコンやりながら見ることも。イングランド・プレミアリーグの「トットナムvsレスター」を見たけれども、全然違う。
 そう言えば少年サッカーでも、タッチラインにボール出した子供に監督が「よーし」と言っているのをよく見る。いいのかねえ(僕も現役の頃はすぐ出していたけれど)。欧州CLやクラブW杯なんか、ボールがなかなか外に出ないので集中して見ていられるし、90分間もアッと言う間。ボール出すもんかという、意地みたいなものがあるのかもしれない(皆さんもそういう目で見てみてください)。タッチに出す出さないは、技術の問題と言うより、おそらく気持ちの問題。Jリーグも、いつかはそうなってほしいもの。
 ブラジルなんかのストリートサッカーでは、タッチラインも、ひょっとしたらゴールラインもないんじゃないか。であれば、タッチに逃げる発想自体、そもそもないはず。

 さてさて、ポドルスキに続いて神戸にイニエスタが入るかもしれないとのこと(これまたワクワク)。現役のスペイン代表だから、おそらく日本では飛び抜けて上手いはず。ただチーム競技なので、一人二人傑出していてもそうそう勝てるものではない。これはじき始まるロシアW杯にも言えることで、世界的選手がいない日本代表でも、チーム力が上であれば一流ストライカーのいるチームに勝てる、かも。
 …期待と希望を込めて。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

若松英輔氏のことなど

2018-05-13 11:21:35 | エッセイ
 2月に亡くなった石牟礼道子さんのことはご存知の方も多いと思いますが、水俣病を扱ったその代表作『苦界浄土』の研究者として、若松英輔という人がいます。Eテレ「100分de名著」でも、同書の解説をしていました。
 僕より10歳くらい若いはずですが、どういうわけか目の奥に、深い深い哀しみをたたえているように見えます。『苦界浄土』を研究できるのもそのためかもしれませんし、研究してきたからそうなったのかもしれません。
 いずれにしても、こういう人がいてくれれば、この日本は、世界は、まだまだ大丈夫って思えるような、そんな人物。もちろん話をしたことはありませんが。
 今月の「100分de名著」でも、『生きがいについて』という本を丁寧に解説しています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

光の町・須賀川へ

2018-05-06 08:02:08 | 
 
 連休を利用して、円谷英二監督のふるさと・須賀川市へ。ウルトラマンなどの像を見るのが目的なのだが、東北/福島への応援の意味も込めて。

 

 

 
    駅にはバナーの数々

 

 
    街灯もウルトラマン

 

 

 

 

 

 
  (順に)ウルトラマンA、ゼットン、ウルトラセブン、ピグモン、ウルトラの父、カネゴン

 

 

 
    グッズ店「SHOT M78」

 夕方5時半には「帰ってきたウルトラマン」、朝7時には「ウルトラセブン」のメロディが市内を流れていた。
 
 
    ではでは、シュッワッチ!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする