★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

窪み

2013-02-25 10:57:13 | 文学


木材を満載したその荷馬車の車輪が道路の窪みの深い泥に喰い込んで動かなくなったのを、通行人が二人手を貸して動かそうとしていた。やっと動き出したので手をはなすと、馬士一人の力ではやはり一寸も動かない。「どうかもう少し願います。後生だから……」そう云って歎願しているが、さっきの人達はもう行ってしまって、それに代る助力者も急には出て来なかった。(寺田寅彦「断片Ⅰ」)