長かった飯田線の普通列車の旅も、ようやく終わりが近づいてきた。
これまで停車した駅は、既に80を遙かに超えている。
この先伊那松島、沢、羽場、伊那新町、宮木に停車すれば、いよいよ終
点の辰野に到着だ。

思えば豊橋では、座席がほぼ埋まるほどの乗客が乗り込んだ。
豊川、新城を過ぎる辺りでは降車客が多く、何時しか車内は寂しくなった。
車窓に天竜川が見える辺りでは、乗り降りする客は殆ど無く、2両編成の
車内には鉄道フアンらしき、数えられる程の乗客だけになっていた。

佐久間発電所を眺めながら、豊橋で買い込んだ駅弁を食べた。
缶ビールとおつまみも買っておけば良かったと後悔したが、飲まなくて
良かったとも思う。飲めば絶対に途中で寝てしまい、車窓を楽しめなか
った訳だから、これで良かった。食後のデザートにと思い、豊橋駅の定
番「おおあんまき」を買い込んでおいた。
流れる景色を目で追いながら、そのままかぶりついたが美味かった。

列車は所々の駅で、長時間の停車を重ねて来た。
車内放送で停車時間を確認すると、多くの乗客はぞろぞろとホームに出
て深呼吸をし、足腰を伸ばし、一様に周りの景色を眺めてもいた。
当初はお互いのバリアの中にあった乗客ではあったが、ほぼ同じ顔ぶれ
と知ると、距離も次第に近まり、何時しか打ち解け、簡単な会話を交わ
すようになっていた。

そんな中一人の青年は、自社が関わる駅伝大会が有り、走るのだと言
って途中の駅で降りて行った。
又もう一人の青年は、駅の周りを少し歩いてみると行って、どこの駅だ
ったか、重そうな荷物を背負い手を振りながら元気に出掛けて行った。

飯田や駒ヶ根、伊那市など比較的大きな町の前後では、かなりの乗り
降りも有ったようだ。
今も夕暮れ時を迎え、通勤や通学の人たちであろうか、久々に車内は混
雑を見せている。
車内放送が、もう少しで辰野に到着すると告げている。(続)


